国際学生デザイン・エンジニアリングアワード「James Dyson Award 2025」の国際受賞者を発表

AIを活用した水質モニタリングセンサーと、パーキンソン病患者のためのスマートキーボードが選出

ダイソン株式会社

ジェームズ ダイソン財団は、James Dyson Award (ジェームズ ダイソン アワード、以下JDA)の2025年度の国際最優秀賞を発表しました。各受賞者には賞金30,000ポンド(約610万円*)が授与されます。

*賞金参考金額: 1ポンド=およそ203円

  • サステナビリティ部門の国際最優秀賞に「WaterSense」が選出されました。ポーランド出身でワルシャワ工科大学ナノテクノロジー博士課程に在籍するフィリップ・ブドニー(Filip Budny)氏による発明で、自律型の水質モニタリングデバイスです。従来の手動かつ断続的なサンプリングに代わり、リアルタイムのAI分析による継続的な監視と早期の汚染検知を実現します。

  • メディカル部門の国際最優秀賞には「OnCue」が選ばれました。オランダのデルフト工科大学を卒業したイタリア人プロダクトデザイナー、アレッサンドラ・ガッリ(Alessandra Galli)氏による発明で、パーキンソン病患者のためのスマートキーボードです。既存の支援用キーボードとは異なり、震えや動作の停止といった症状を緩和し、タイピングエラーを減らすための振動や視覚的フィードバックといった治療的な要素を独自にデザインへ組み込んでいます。

JDAは今年で20年目を迎え、これまでに世界中で400件を超える学生による発明を支援し、総額150万ポンド以上の賞金を提供してきました。2025年度は、世界28の国と地域から2,100件以上の応募が寄せられました。

ダイソン創業者のジェームズ・ダイソンは次のように述べました。

「JDAは、既成概念にとらわれず、実社会の問題に真正面から取り組む若き発明家たちを支援しています。今年の国際最優勝受賞者であるフィリップ・ブドニー氏とアレッサンドラ・ガッリ氏は、まさにその考え方を体現しています。彼らは、実用的かつ独創的な解決策で、環境問題や健康課題に関わる難題に挑みました。今回の受賞が、彼らの画期的な発明を商業化へと進めるきっかけになることを期待しています。」

ジェームズ・ダイソンは、ビデオ通話を通じて、フィリップ・ブドニー氏とアレッサンドラ・ガッリ氏に受賞の知らせをサプライズで伝えました。その様子はYouTubeで公開されています。

YouTube: The 2025 Global Winners have been announced! | James Dyson Award 2025

サステナビリティ部門最優秀賞:「WaterSense」 – フィリップ・ブドニー氏

【背景と課題】

世界の水域の40%以上が深刻な汚染にさらされており、特に河川や湖は、農業排水、下水、産業廃棄物などの陸上由来の汚染源にさらされやすい状況にあります。しかし、多くの国では水質モニタリングが十分に整備されておらず、深刻なデータの空白が生じています。

たとえばイギリスでは、海洋の水質は自動ブイによって分単位で監視されていますが、河川の検査は月1回にとどまり、豪雨後の農業排水や下水処理施設の不具合による突発的な汚染を見逃すことがあります。さらに、窒素やリンなどの栄養塩類のみを対象とした検査が多く、金属類、農薬、マイクロプラスチックといった有害物質は常時測定されていません。

【受賞作品の概要】

ポーランドのナノテクノロジーを専攻するフィリップ・ブドニー氏は、水質をより正確に把握するための自律型センサー「WaterSense」を開発しました。このデバイスは、河川や湖の水質をリアルタイムで自動的に測定し、水質汚染の早期検知を可能にします。

「WaterSense」は内蔵されたハイドロジェネレーターによって自然の水流から発電する仕組みです。従来のプラスチックや金属製センサーとは異なり、低コストでリサイクル可能な紙製のセンサーを採用しています。pH値、溶存酸素、硝酸塩、塩化物、導電率など水質を示す20以上の主要指標を測定できるほか、3つの異なる深さからサンプルを採取できる設計により、水面下に隠れた汚染物質の検知も可能です。

センサーはカメラのフィルムのように自動で巻き上げられ、新しいセンサーに毎日交換されます。これにより、人手を介さず研究所の水準の精度を維持します。使用済みのセンサーは装置内部に保管され、約12か月後に新しいロールへ交換されるため、年間を通してシステムを清潔かつ信頼性の高い状態に保ちます。

測定データは、モバイルネットワーク経由でAI搭載のオンラインプラットフォームに送信され、1分、15分、1時間ごとに更新されます。このプラットフォームは、過去のデータとパターンを学習し、最大72時間先の水質悪化を予測。結果はWebサイト上で公開され、地域社会や自治体が早期対策を講じるための指標となります。

現在、「WaterSense」の試作機はポーランド国内20か所で水道事業者および地方自治体と連携しながら実証実験が行われています。フィリップ・ブドニー氏はJDAでの受賞をきっかけに、技術の改良を進め、他国への展開を計画しています。

本受賞作について、ジェームズ・ダイソンは次のように述べています。

「従来の水質モニタリングは、手動で断続的に行われており、スピードも遅く不十分です。フィリップ・ブドニー氏は、水質をリアルタイムで測定し、汚染の発生を事前に予測できる『WaterSense』を発明しました。このデバイスは、AIと紙製のセンサーを活用して、異なる深度で複数の水質指標をリアルタイムに測定し、より正確に汚染を予測できる優れたシステムです。非常に価値のある発明であり、将来的にこのデバイスが世界中の河川で活用されることを楽しみにしています。」

 

受賞者のフィリップ・ブドニー氏は次のようにコメントしました。

「JDAの受賞は、環境分野のイノベーションが世界的に注目されていることを証明してくれました。これは、誰もが利用できるきれいな水を測定し、予測し、確保するためのシステムを開発し続けるためのモチベーションになります。現在、環境機関や研究パートナーとの連携をさらに拡大し、2026年までにヨーロッパ全域でのネットワーク構築を目指しています。私たちの長期的なビジョンは、世界中の河川の水質を継続的にモニタリングできる仕組みを実現することです。この構想を実現するため、現在は初の投資ラウンドを進めており、生産体制の拡充と展開の加速を目指しています。」

ポーランド気象水文管理研究所 水文学・准教授のタマラ・トカルチク(Tamara Tokarczyk)氏は次のように述べています。

「『WaterSense』は、リアルタイムでの水質モニタリングを体系的に実現する初のソリューションです。高解像度のデータを収集することで、信頼性の高い予測モデルの構築に大きく貢献し、社会および生態系に広く恩恵をもたらすでしょう。」

 

メディカル部門最優秀賞:「OnCue」 – アレッサンドラ・ガッリ氏 

【背景と課題】

世界中で1,000万人以上がパーキンソン病に罹患しています。主な症状として、震え、動作の停止、動作緩慢などがあり、これらの症状はキーボード操作などの細かな作業を困難にし、日常生活に大きな支障を与えています。

パーキンソン病患者を支援するキーボードには、大きめのキーや高コントラスト配色、分割レイアウトなどの設計が採用されていますが、振動や視覚的フィードバックといった治療的な支援要素は組み込まれていません。そのため、パーキンソン病特有の運動症状に十分対応できていないのが現状です。

【受賞作品の概要】

統合プロダクトデザインを学んだアレッサンドラ・ガッリ氏は、パーキンソン病患者が自信を持ってデジタル社会に参加できるよう支援するスマートキーボード「OnCue」を開発しました。

「OnCue」は、キーボードとリストバンド型デバイスを組み合わせた手頃な価格の支援ツールで、パーキンソン病の症状を和らげながら、より正確でスムーズなタイピングを可能にします。

キーを押すたびにキーボードとリストバンドから穏やかな振動が伝わり、一定のリズムでタイピングを続けられるようサポートします。キーを長く押しすぎた場合は振動が徐々に強まり、次のキー入力を促します。さらにAIが次に入力される可能性の高い文字を予測し、キーボード上で点灯させることで入力ミスや動作のためらいを軽減します。

「OnCue」はゲーミングキーボードに着想を得たコンパクトで分割型のデザインを採用。腕や手の負担を軽減し、キーの縁を高くすることで入力ミスを防ぎます。Bluetooth®接続により、多くのPCに対応し、1回の充電で最大1週間使用可能です。

また、パーキンソン病の症状は個人差が大きく、1日を通しても変化することを踏まえ、カスタマイズ可能な設計となっています。ユーザーはキーボードとリストバンドの振動の強さを細かく設定できるほか、照明システムの明るさも自身の状態に合わせて調整可能です。アレッサンドラ・ガッリ氏は現在、ユーザーの日常的な行動パターンや症状の変化に合わせて振動パターンを最適化できるソフトウェアの開発も進めています。

JDAの受賞後、アレッサンドラ・ガッリ氏は医療専門家やパーキンソン病患者と密接に連携し、フィードバックを得ながら、「OnCue」のさらなる改良を続けていく予定です。今後は、「OnCue」の製品化を進めるほか、アルツハイマー病やジストニアなど、他の神経疾患を持つ人々への支援にも応用していく予定です。

 

本受賞作について、ジェームズ・ダイソンは次のように述べています。

「パーキンソン病の方々にとって、タイピングは非常にストレスを伴う作業です。アレッサンドラ・ガッリ氏はその課題に真摯に向き合い、『OnCue』を開発しました。タイピング時には穏やかな振動がタイピングのリズムを導き、AIが次に入力する文字を予測し、キーボード上に点灯させます。キーキャップの縁を高くすることで、指先が正しいキーを見つけやすくなり、入力ミスを減らします。この発明は非常に賢く、利用者を力づけるソリューションであり、パーキンソン病や他の運動障がいを持つ人々が他者とつながり、自分の力でコミュニケーションを取ることができるようになります。」

また、受賞者のアレッサンドラ・ガッリ氏は次のようにコメントしました。

「JDAの受賞は大きな名誉であり、卒業後もこのプロジェクトを続けてきた決断が正しかったことを証明してくれました。JDAは認知を得る機会であるだけでなく、『OnCue』を実用化へ進めるための実践的なサポートを提供してくれます。今回の賞金は、実用化に向けたプロトタイプの完成を大きく後押しし、パーキンソン病の方々に届けるという目標に一歩近づくものです。この受賞をきっかけにネットワークをさらに広げ、『OnCue』の新たな展開につなげられると確信しています。」

さらにデルフト工科大学 工業デザイン工学部 上級講師のゲルト・パスマン(Gert Pasman)氏は次のように述べています。

「私自身10年以上パーキンソン病を患っており、タイピング能力を徐々に失っていく苦しさを経験してきました。『OnCue』は、その状況を変える大きな希望です。アレッサンドラ・ガッリ氏の優れたデザイン力と共感性、そして社会をより良くしたいという強い信念が生んだ成果です。この受賞が、プロジェクトの発展とパーキンソン病コミュニティ全体の前進につながることを心から嬉しく思います。」

 

<ジェームズ ダイソン財団とジェームズ ダイソン アワードについて>
ジェームズ ダイソン財団 (James Dyson Foundation)

2002年に英国で設立されたジェームズ ダイソン財団は、現在では英国以外に、米国や日本、シンガポール、フィリピン、マレーシアといった世界中の国々で、デザイン、テクノロジー、エンジニアリング教育事業をサポートしています。ジェームズ ダイソンとジェームズ ダイソン財団はこれまでに慈善目的で1億5,500万ポンドを超える寄付を行ってきました。これには、インペリアル・カレッジ・ロンドンにダイソン スクール オブ デザイン エンジニアリングを設立するため行った1,200万ポンドの寄付や、ケンブリッジ大学にダイソン センター フォー エンジニアリング デザインおよびジェームズ ダイソン ビルの設立に向けた800万ポンドの寄付が含まれます。


ジェームズ ダイソン アワード (James Dyson Award)

ジェームズ ダイソン アワード( https://www.jamesdysonaward.org/ja-JP/ )は、エンジニアが世界の課題を解決する力を持っていることを証明するために設立されました。ジェームズ ダイソン財団によって運営され、これまでに400以上の発明に賞金や国際的なメディア露出を提供しています。2002年に設立された同財団は、次世代のエンジニアをインスパイアすることを使命とする国際教育慈善団体です。また、医療研究にも投資しており、これまでに1億4,500万ポンド以上を慈善事業に寄付しています。最新情報はJDAの下記SNS(英語のみ)や、Dyson Newsroom( https://www.dyson.co.jp/discover/news )でも随時ご案内します。

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会社概要

ダイソン株式会社

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URL
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業種
製造業
本社所在地
東京都千代田区麹町1-12-1
電話番号
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代表者名
添田 成久
上場
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資本金
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設立
1998年05月