新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異株に有効な抗体の特徴を解明

国立大学法人熊本大学

【ポイント】

    新型コロナウイルス・デルタ変異株*1にブレークスルー感染*2した症例から中和モノクローナル抗体*3を分離し、一部の抗体がオミクロン変異株のEG.5.1, JN.1を含む多くの変異株を中和することを明らかにしました。

    多くの変異株を中和する広域中和抗体*4はIGHV3-53/3-66遺伝子*5を使用しており、この遺伝子を持った抗体が体細胞超変異*6を蓄積して多くの変異株を中和する抗体へと成熟する可能性が示唆されました。

    従来型ワクチンの接種や新型コロナウイルス感染によって誘導された抗体を成熟させるワクチンを開発することで、多くの変異株に効果的な中和抗体を誘導し、ウイルス感染を防ぐことが可能になります。

【発表概要】

 ヒトレトロウイルス学共同研究センター熊本大学キャンパスの松下修三特任教授らの研究グループは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)デルタ変異株にブレークスルー感染した症例からモノクローナル抗体を分離し、多くの変異株を中和する抗体の特徴を明らかにしました。ワクチン接種や新型コロナウイルス感染によって誘導されるIGHV3-53/3-66遺伝子を持った抗体が、体細胞超変異を蓄積して多くの変異株を中和する広域中和抗体へと成熟する可能性が示唆されました。IGHV3-53/3-66遺伝子を使用するK4-66抗体は、最近流行したオミクロン株のEG.5.1, JN.1を含む全ての変異株を中和し、XBB.1.5変異株に感染したハムスターの肺でのウイルス増殖を抑制しました。また、K4-66抗体の構造解析によって、さまざまな変異株との結合に静電相互作用が重要であることを示しました。これらの結果は、従来型ワクチンの接種や新型コロナウイルス感染によって誘導された抗体が、さまざまな変異株を中和する広域中和抗体へと成熟する可能性を示しています。特定の抗体の成熟を促進して広域中和抗体を誘導することが、多様な変異株に対応するワクチン戦略として有効であると考えられます。

本研究は、東京大学・医科学研究所の河岡義裕特任教授を始めとした多数の共同研究者の協力によってなされました。

 なお、本研究成果は、令和6年11月1日(金)(現地時間)に科学雑誌「eBioMedicine」に掲載されました。

 また、本研究は国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の「橋渡し研究プログラム(東京大学拠点)」「中和モノクローナル抗体を用いた新型コロナウイルス感染症の治療法の開発」(課題番号:JP23ym0126048 h0003)の支援を受けて実施したものです。

【用語解説】

*1 変異株:新型コロナウイルスの流行拡大によって出現した、顕著な変異を有するウイルス株。オミクロン株は従来の変異株より多くの変異を蓄積し、亜系統が多く出現している。伝播力の向上や、免疫からの逃避能力の獲得などが報告されている。

*2 ブレークスルー感染:新型コロナウイルス・ワクチンを接種した後に新型コロナウイルスに感染すること。ワクチン効果の減衰や、ワクチンで誘導した抗体から逃避した変異株による感染が主要な原因と考えられている。

*3 中和モノクローナル抗体:ウイルスの表面にあるスパイク・タンパク質に結合し、標的細胞への感染を阻止する抗体。

*4 広域中和抗体:様々な変異を持ったウイルス株を広範に中和する抗体。

*5 IGHV3-53/3-66遺伝子:抗原と結合する可変部位をコードする遺伝子は多数存在し、抗体産生の際に重鎖と軽鎖の可変部位の遺伝子が一つずつ選ばれる。IGHV3-53、IGHV3-66遺伝子は重鎖可変部位の遺伝子であり、配列が非常に似ている。

*6 体細胞超変異:抗体が成熟する過程で、抗体の可変領域に高頻度で入る変異のこと。Activation-induced cytidine deaminase (AID)によって制御され、抗体の親和性上昇に重要である。

【論文情報】

論文名:Induction of IGHV3-53 public antibodies with broadly neutralising activity against SARS-CoV-2 including Omicron subvariants in a Delta breakthrough infection case

著者:Takeo Kuwata,*, Yu Kaku, Shashwata Biswas, Kaho Matsumoto, Mikiko Shimizu, Yoko Kawanami, Ryuta Uraki, Kyo Okazaki, Rumi Minami, Yoji Nagasaki, Mami Nagashima, Isao Yoshida, Kenji Sadamasu, Kazuhisa Yoshimura, Mutsumi Ito, Maki Kiso, Seiya Yamayoshi, Masaki Imai, Terumasa Ikeda, Kei Sato, Mako Toyoda, Takamasa Ueno, Takako Inoue, Yasuhito Tanaka, Kanako Tarakado Kimura, Takao Hashiguchi, Yukihiko Sugita, Takeshi Noda, Hiroshi Morioka, Yoshihiro Kawaoka, Shuzo Matsushita,*, and G2P-Japan Consortium (*Corresponding)

掲載誌:eBioMedicine

doi:https://doi.org/10.1016/j.ebiom.2024.105439

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