日本人における高齢者入院患者の疾患の特徴を明らかに
~全国の診療データベースを用いた大規模疫学解析を実施~
順天堂大学革新的医療技術研究開発センターの野尻宗子准教授らの研究グループは、全国の診療データを集約したNational Database (NDB*1) を解析し、日本人におけるDPC病院(*2)入院患者(高齢者)の有病率と疾患の併存状況を明らかにしました。
高齢者の急性期入院の有病率は、年齢の推移とともにがんが減少していく一方で循環器疾患や脳血管障害などが増加傾向にあり、超高齢者(本研究では85歳以上と定義する)では肺炎が増加してくることが明らかになりました。また、併存状況の分析では[1]心筋梗塞、高血圧、脂質異常症、糖尿病、 [2]うっ血性心不全、不整脈、腎不全、 [3]パーキンソン病、認知症、脳血管疾患、肺炎、 [4]がん、消化器疾患、 [5]関節リウマチ、股関節骨折の大きく5つの疾患が併存するグループに分けられました。さらに、併存状況を詳しく分析すると、超高齢患者では、認知症と肺炎に加えて、骨折と骨粗鬆症も入院に関連する疾患として明らかになりました。本成果は人口の高齢化が進む日本社会において医療資源の適正配分と効率化のための基礎データを提供します。本論文は学術誌Scientific Reports のオンライン版で公開されました。
本研究成果のポイント
背景
人口の高齢化は医療費の増加に関連しており、総医療費の60%近くを65歳以上の高齢者の医療費が占めています。特に85歳以上の超高齢患者層は、複数の疾患の併発と日常生活動作の低下、いわゆる加齢に伴って機能の低下したフレイル(虚弱)の状況にあることが多く、効率的な治療選択と早期予防を実現するためには、総合的な病態と治療状況の把握そして長期調査が必要と考えられます。しかしながら、高齢者、特に超高齢患者における複数の疾患の併発と入院との関係性はよくわかっていませんでした。我が国の高齢化は世界に類を見ないスピードで進んでおり、増加する医療費を適切に分配するために、大規模な疫学データ解析が望まれています。そこで、本研究では、我が国における高齢者がどのような疾患にかかりやすいか、また、どのような疾患が併発しやすいかを明らかにすることを目的に、全国の入院患者(高齢者)における疾患の併存状況をNDBを用いて解析しました。
内容
本研究では、NDBのデータをもとに、急性期での入院に関わる疾患の割合(有病率)と各疾患との相互の関係について解析しました。その結果、性別ごとの疾患(心疾患、がん、脳血管疾患、肺炎、腎疾患)の年齢による推移では、肺炎は高齢になるに従い上昇傾向にあり、一方でがんは割合としては減少傾向にありました。それぞれの疾患の割合は年齢とともに変化し、冠動脈疾患や脳血管疾患などの循環器疾患が増加傾向を認めました(図1)。
以上の結果から、高齢者のかかりやすい疾患が明らかになっただけでなく、性別と年齢で異なることがわかりました。
今後の展開
今回、研究グループはNDBデータを用い、全国のDPC病院入院患者(高齢者)のかかりやすい疾患とその併存状況を明らかにしました。この結果は、我が国における高齢者がどのような疾患にかかりやすいかまた、どのような疾患か併発しやすいかを明らかにし、多角的観点(臨床・医療経済・公衆衛生学的などの見地)から、医療資源の適正配分と効率化に必要なデータとなることが期待できます。
今後、研究グループは高齢者における疾患構造の地域による差異などを明らかにし、地域での高齢者がなりやすい疾患の予防策を推進する基礎資料を作成する予定です。
用語解説
*1 National Database (NDB) : レセプト情報・特定健診情報等データベースのこと。 高齢者の医療の確保に関する法律(高齢者医療確保法)に基づいて厚生労働省が収集及び管理するレセプト情報及び特定健診情報等を格納している。
*2 DPC病院: 急性期入院医療を対象とした診療報酬の包括評価制度を適用している病院。
*3 主因子分析: 因子分析は観測変数に影響を与えている共通因子を抽出する方法で、特に主因子分析は、通性の初期値にSMC(重相関係数の二乗)を設定し、共通性の値が収束するまで計算を繰り返す方法である。
原著論文
本研究はScientific Reports 誌のオンライン版で(2019年12月27日付)公開されました。
タイトル: Comorbidity status in hospitalized elderly in Japan: Analysis from National Database of Health Insurance Claims and Specific Health Checkups.
タイトル(日本語訳): NDBデータベースによる日本における高齢者の入院患者での合併症の状況
著者:Nojiri S, Itoh H, Kasai T, Fujibayashi K, Saito T, Hiratsuka Y, Okuzawa A, Naito T, Yokoyama K, Daida H.
著者(日本語表記): 野尻宗子1)、伊藤弘明2)、葛西隆敏3)、藤林和俊1)4)、齊藤智之5)、平塚義宗6)、奥澤淳司1)7)、内藤俊夫4)、横山和仁2)、代田浩之3)
著者所属:1)順天堂大学革新的医療技術開発センター、2)順天堂大学大学院医学研究科疫学・環境医学、3)大学院医学研究科循環器内科学講座、4)順天堂大学大学院医学研究科総合診療科学、5)順天堂大学医学部附属順天堂医院薬剤部、6)順天堂大学大学院医学研究科眼科学講座、7)順天堂大学大学院医学研究科消化器外科学講座
DOI: 10.1038/s41598-019-56534-4.
本研究はJSPS科研費JP16K09043の基に実施されました。
なお、本研究にご協力いただいた皆様には深謝いたします。
本研究成果のポイント
- 全国の診療データベース(NDB)を用いて大規模疫学解析を実施
- 全国の入院患者(高齢者)における有病率と疾患の併存状況を明らかに
- 医療資源の適正配分に繋がる効率化に必要なデータを提供
背景
人口の高齢化は医療費の増加に関連しており、総医療費の60%近くを65歳以上の高齢者の医療費が占めています。特に85歳以上の超高齢患者層は、複数の疾患の併発と日常生活動作の低下、いわゆる加齢に伴って機能の低下したフレイル(虚弱)の状況にあることが多く、効率的な治療選択と早期予防を実現するためには、総合的な病態と治療状況の把握そして長期調査が必要と考えられます。しかしながら、高齢者、特に超高齢患者における複数の疾患の併発と入院との関係性はよくわかっていませんでした。我が国の高齢化は世界に類を見ないスピードで進んでおり、増加する医療費を適切に分配するために、大規模な疫学データ解析が望まれています。そこで、本研究では、我が国における高齢者がどのような疾患にかかりやすいか、また、どのような疾患が併発しやすいかを明らかにすることを目的に、全国の入院患者(高齢者)における疾患の併存状況をNDBを用いて解析しました。
内容
本研究では、NDBのデータをもとに、急性期での入院に関わる疾患の割合(有病率)と各疾患との相互の関係について解析しました。その結果、性別ごとの疾患(心疾患、がん、脳血管疾患、肺炎、腎疾患)の年齢による推移では、肺炎は高齢になるに従い上昇傾向にあり、一方でがんは割合としては減少傾向にありました。それぞれの疾患の割合は年齢とともに変化し、冠動脈疾患や脳血管疾患などの循環器疾患が増加傾向を認めました(図1)。
さらに詳細な分析では、85歳以上の超高齢の入院患者では、男女ともに循環器疾患の有病率が高く、次に高血圧症と糖尿病が高いことが分かりました。また、脳血管疾患、糖尿病、心筋梗塞、呼吸器疾患[慢性閉塞性肺疾患(COPD)など]とがんは男性で高く、リウマチ、大腿骨骨折、骨粗しょう症が女性で高いことも明らかになりました。次に、主因子分析(*3)により、どのような疾患が併発しやすいかを解析したところ、[1]心筋梗塞、高血圧、脂質異常症、および糖尿病、 [2]うっ血性心不全(CHF)、不整脈、腎不全、 [3]パーキンソン病、認知症、脳血管疾患、肺炎、 [4]がんおよび消化器系疾患、 [5]関節リウマチおよび股関節骨折、の大きく5つの疾患が併存するグループに分けられました。さらに、併存する疾患として85歳以上の超高齢の入院患者では上記に加えて、男性では、主に脳血管疾患、認知症、肺炎、統合失調症が、女性では肺炎、認知症、大腿骨骨折と骨粗しょう症が多く、続いて男性では骨粗しょう症、女性ではがん、消化器系疾患が入院に関連する疾患であることが明らかになりました。
以上の結果から、高齢者のかかりやすい疾患が明らかになっただけでなく、性別と年齢で異なることがわかりました。
今後の展開
今回、研究グループはNDBデータを用い、全国のDPC病院入院患者(高齢者)のかかりやすい疾患とその併存状況を明らかにしました。この結果は、我が国における高齢者がどのような疾患にかかりやすいかまた、どのような疾患か併発しやすいかを明らかにし、多角的観点(臨床・医療経済・公衆衛生学的などの見地)から、医療資源の適正配分と効率化に必要なデータとなることが期待できます。
今後、研究グループは高齢者における疾患構造の地域による差異などを明らかにし、地域での高齢者がなりやすい疾患の予防策を推進する基礎資料を作成する予定です。
用語解説
*1 National Database (NDB) : レセプト情報・特定健診情報等データベースのこと。 高齢者の医療の確保に関する法律(高齢者医療確保法)に基づいて厚生労働省が収集及び管理するレセプト情報及び特定健診情報等を格納している。
*2 DPC病院: 急性期入院医療を対象とした診療報酬の包括評価制度を適用している病院。
*3 主因子分析: 因子分析は観測変数に影響を与えている共通因子を抽出する方法で、特に主因子分析は、通性の初期値にSMC(重相関係数の二乗)を設定し、共通性の値が収束するまで計算を繰り返す方法である。
原著論文
本研究はScientific Reports 誌のオンライン版で(2019年12月27日付)公開されました。
タイトル: Comorbidity status in hospitalized elderly in Japan: Analysis from National Database of Health Insurance Claims and Specific Health Checkups.
タイトル(日本語訳): NDBデータベースによる日本における高齢者の入院患者での合併症の状況
著者:Nojiri S, Itoh H, Kasai T, Fujibayashi K, Saito T, Hiratsuka Y, Okuzawa A, Naito T, Yokoyama K, Daida H.
著者(日本語表記): 野尻宗子1)、伊藤弘明2)、葛西隆敏3)、藤林和俊1)4)、齊藤智之5)、平塚義宗6)、奥澤淳司1)7)、内藤俊夫4)、横山和仁2)、代田浩之3)
著者所属:1)順天堂大学革新的医療技術開発センター、2)順天堂大学大学院医学研究科疫学・環境医学、3)大学院医学研究科循環器内科学講座、4)順天堂大学大学院医学研究科総合診療科学、5)順天堂大学医学部附属順天堂医院薬剤部、6)順天堂大学大学院医学研究科眼科学講座、7)順天堂大学大学院医学研究科消化器外科学講座
DOI: 10.1038/s41598-019-56534-4.
本研究はJSPS科研費JP16K09043の基に実施されました。
なお、本研究にご協力いただいた皆様には深謝いたします。
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