【国立科学博物館】千葉県より新種鉱物「房総石(ぼうそうせき)」を発見 -天然ガスハイドレートと相似な構造を有するシリカクラスレート鉱物-

 独立行政法人国立科学博物館(館長:林良博)は、国立研究開発法人産業技術総合研究所、国立大学法人東北大学、千葉県立中央博物館、国立研究開発法人物質・材料研究機構、アマチュア研究家の西久保勝己氏、本間千舟氏、結晶形態研究者の高田雅介氏と共同で、千葉県内で採取された鉱物が新鉱物であることを突き止め、「房総石」と命名しました。
  房総石は、同じく千葉県から2011年に報告された新鉱物「千葉石」を詳しく調べる過程で発見されました。千葉石と房総石はともに、ありふれた成分である二酸化ケイ素を主成分としますが、ケイ素原子と酸素原子から構成された「かご」状の結晶構造を持ち、「かご」の内部にはメタンなどの天然ガス分子が閉じ込められています。これらの結晶構造は、水分子による「かご」の中にガス分子が閉じ込められた天然ガスハイドレートと相似形です。

 天然ガスハイドレートには、最も量の多いメタンハイドレート(別名I型)の他に、II型、H型と呼ばれる計3種が知られており、千葉石はII型、房総石はH型相当の構造をもちます。房総石は結晶内に天然ガスを閉じ込めたタイムカプセルとみなすことができ、地層中での有機物の分解・脱ガス反応を調べる新たな手がかりになると期待されます。

 本研究の成果は、英国の学術雑誌『Mineralogical Magazine』2020年12月号に掲載されました。

 
  • 研究成果のポイント
1.   千葉県南房総市より新種の鉱物が発見され、「房総石」と命名された。
2.   千葉県内からの新鉱物は「千葉石(ちばせき)」に続き2種目。
3.   「房総石」と「千葉石」は共に、メタンなどの天然ガス分子を含む特殊な鉱物。
4.   これらの鉱物は天然ガスハイドレートと同様の結晶構造をもち、天然ガスの起源を調べる新たな手がかりになると期待される。

 
  • 研究の背景 
 千葉県南房総市に分布する堆積岩の地層からは、2011年に新鉱物「千葉石」が報告されています。千葉石を詳しく調べる過程で、もう一種類、未知の鉱物が含まれていることが明らかになり、国際鉱物学連合(注1) 新鉱物・命名・分類委員会(注2)による審査を経て、「房総石」と正式に命名されました(注3)。

 
  • 研究内容と成果
 千葉石と房総石は二酸化ケイ素(シリカ)を主成分とし、結晶構造中に主成分として天然ガス分子を含む特殊な鉱物です。二酸化ケイ素は石英(水晶)の成分であり、地中では最もありふれた成分の一つですが、これらの鉱物では二酸化ケイ素が「かご」状のすき間をもった結晶構造をとり、「かご」の中にメタン、エタン、プロパンなどの天然ガス分子が捉えられています(図1)。同様の結晶構造をもつ物質として、次世代エネルギー源として注目を集める天然ガスハイドレートがあります。自然界では、I型、II型、H型の3種類の天然ガスハイドレートが確認されていますが、H型は産出量が最も少なく、シリカ系鉱物ではH型相当の鉱物は見つかっていませんでした。

 「かご」とガス分子のサイズ・形状には関連があり、どのタイプの結晶ができるかは、その場に存在するガス分子の種類と比率に影響されます。前述のように産出量的に最も多いのはI型のメタンハイドレート(注4)で、II型、H型の順に少なくなります。この理由は、天然ガスの組成として分子サイズの小さなメタンガスが圧倒的に多く、エタン、プロパンのように分子量が大きなガスほど量が少ないためです。

 本研究では、千葉石に極少量伴う未知のシリカ系鉱物がH型相当の結晶構造を持つことを明らかにし、新鉱物「房総石」として発表しました。房総石の結晶構造は、他の2種類の結晶構造よりも大型の「かご」を有しており、詳細な結晶構造解析の結果、その「かご」の中にはプロパンよりさらに大きなガス分子も含まれることが示唆されました。これらの天然ガス分子は、地層中の有機物が地熱と圧力の影響で分解され生成したもので、房総石は天然ガスのタイムカプセルと見なすことができます。

 
  • 今後の展開
 地層中の有機物が分解され天然ガスが生じる現象は世界中で普遍的に起こっており、私たちが日常用いる天然ガスは、それらが特殊な地質構造の部分に溜まったものです。また、地層中から漏れ出た天然ガスが冷たい海水に触れると、水分子でガス分子を取り囲んだ天然ガスハイドレートとして海底に固体として溜まることもあります。しかし、天然ガスハイドレートは、海水温の上昇や地殻変動に伴って、最終的に大気中に放散して行ってしまいます。一方、シリカ系鉱物は水分子でガス分子を囲んだ天然ガスハイドレートとは異なり、常温~高温下において安定で、しかも一般的な環境では溶解・潮解することはありません。ただし、地層中で地下水にさらされた場合には、長い年月をかけて少しずつ溶け、溶けた部分が、より安定な石英に置き換わる反応が進みます。そのため、これまでは普通の石英と思われ、見過ごされていた場所でも、今後、房総石が見つかることが期待されます。これは、房総石が天然ガスの起源を探る新たな指標にも成りえる事を示唆しています。

 加えて、本「かご」型構造中には、ガス分子としては二酸化炭素を閉じ込めることもできるため、房総石の結晶の生成・分解条件の詳細が明らかになれば、二酸化炭素の地層処分技術につながる可能性をも秘めています。
 


 本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金(科研費)若手研究(B)(JP24740359), 基盤研究(B)(JP16H05742)のサポートを受けて実施されました。またデータの測定には高エネルギー加速器研究機構フォトンファクトリー (Proposal No. 2012G112, 2014G173) およびSPring-8 BL15XU (Proposal No. 2007A4503) を用いました。
 
  •  用語解説
注1 国際鉱物学連合 科学の最も古い分野の1つである鉱物学を推進するため、1958年に設立。38の国と地域の鉱物学会または鉱物学関連団体が加盟。鉱物学の着実な発展のため、委員会と作業部会を設け、4年に1回、総会として国際会議を開催し、国際的な鉱物学者の相互交流を通じて学術の進歩を促進する。日本からは日本鉱物科学会が加盟。加盟金は日本学術会議が負担。

 注2 新鉱物・命名・分類委員会 2006年の国際鉱物学連合神戸大会で、新鉱物委員会と分類委員会が合併。新種の記載、種の再定義、種の抹消ならびに命名規約、分類規約を司る。新種鉱物の記載など、学術誌等に先立ち委員会の承認を要する国際制度を維持管理する。現委員長:宮脇律郎(国立科学博物館)。現日本代表委員:門馬綱一(国立科学博物館)。

 注3 新鉱物の名称 新たに発見された鉱物に命名するには、一連のデータを添えて、国際鉱物学連合(IMA)の新鉱物・命名・分類委員会に申請書を提出し、各国代表委員の投票による承認を得る必要がある。データの妥当性だけでなく、名称についても審査があり、「発見者本人にちなむ名称を使わない」などのルールが定められている。

 注4 メタンハイドレート メタンの起源には、海底堆積物中の微生物により生合成されるものと、有機物の熱的分解により生じるものがある。I型メタンハイドレートの多くは微生物起源のメタンを主とするが、II型, H型のガスハイドレート、および私たちが日常的に使用している天然ガスは熱分解起源である。
 
  • 掲載論文
【題 名】Bosoite, a new silica clathrate mineral from Chiba Prefecture, Japan. (千葉県から発見された新種のシリカクラスレート鉱物、房総石)

【著者名】Koichi Momma, Takuji Ikeda, Toshiro Nagase, Takahiro Kuribayashi, Chibune Honma, Katsumi Nishikubo, Naoki Takahashi, Masayuki Takada, Yoshitaka Matsushita, Ritsuro Miyawaki and Satoshi Matsubara

【掲載誌】 Mineralogical Magazine  (DOI: http://dx.doi.org/10.1180/mgm.2020.91 )
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