対英ビジネスに新たな選択肢 来年発効の日英EPA、日本企業3000社に恩恵
輸出では自動車部品など、輸入では農産品や家具など目立つ
<レポート概要>
日本と英国間の包括的経済連携協定(EPA)が、10月23日に正式に署名され、早ければ来年1月に発効する。本協定は、日本と欧州連合(EU)間で適用されているEPAの内容が概ね踏襲されており、英国からの輸入品のうち約94%、日本から英国への輸出品については約99%について関税が撤廃。商標権や意匠権など知的財産分野の保護をめぐるルールも強化される。
日英間の貿易は、現在日EU・EPAに基づく優遇関税が受けられるが、英国のEU離脱によりこの措置が年末で失効する。そのため、日英間で新たな通商協定が結べない場合、21年以降は関税が引き上げられ、英国で事業を展開する日本企業に影響が出る恐れがあった。しかし、新協定の締結によりその懸念が払しょくされたことで、日英間のビジネス上における「ブレグジット」の混乱は最小限に抑えられる見込みだ。
日英EPAの締結・発効により、今後どのような影響が日本企業に及ぶであろうか。帝国データバンクが蓄積した企業データベースを基に分析した。
「対英ビジネス」全国に約3000社、輸出では自動車部品、輸入は食品など目立つ
輸出企業で最も多い業種は製造業で656社。輸出・進出企業全体の約4割を占めている。次いで卸売業の346社、サービス業の251社が続いた。一方、輸入企業で最も多い業種は卸売業の795社で、輸入企業全体の6割超を占めた。次いで多いのは製造業の157社、サービス業の118社と続く。
より詳細な業種をみると、輸出・進出では、トヨタやホンダ、日産など大手自動車メーカーのほか、製薬や電機など、ホールディングス化した大手企業を含む事業持株会社(投資業)が100社で最多。次いで多いのがソフトウェア業(50社)、電気製品の流通・販売を行う電気機械器具卸(41社)が続く。取り扱う品目をみると、自動車部品や各種センサー、米麦など農産品が多く目立つ。
日本企業の多くは、EU市場への輸出拠点として英国に工場や物流拠点を設置してきた。そのため原材料のほか、日本国内で組み立てた部品など中間材を英国へ輸出するケースが多く、製造業が輸出企業の多くを占める要因となっている。また、欧州有数の人口を有する英国は消費市場としても知られており、食品や消耗品を英国内へ輸出・現地拠点で販売する企業も多い。
日英間のビジネスでは恩恵を受けるものの、英EU間の通商交渉は引き続き最大の関心事に
財務省の貿易統計によれば、日本から英国への2019年における輸出額は約1兆5000億円で、対英輸入額(約9000億円)を大きく上回っている。輸出企業にとっては、日英EPAの締結により日EU・EPAレベルの通商条件が維持されることによる、高関税の回避はプラス材料だ。英政府の試算では、日本から英国への輸出額は約15年後に2019年比で79.9%増加すると試算し、英国の対日輸出の伸び(17.2%増)を上回るなど、対英輸出では今後大きな伸びが期待できる。
ただ、英国とEUの間では自由貿易協定(FTA)締結に向けた交渉が難航している。年内の移行期間が終わるまでに貿易交渉がまとまらない場合、英EU間の貿易で高関税が課せられる可能性がある。英EU間の供給網が今後も不安定な状態が続けば、主に鉱工業製品を生産する企業を中心に、英国からの拠点移動や輸出縮小など、対欧州戦略の全面的な見直しを余儀なくされるケースも出てくる。そのため、「対英ビジネス」を展開する日本企業にとって予断の許さない状況は当面続くと見られる。
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対英国ビジネスを展開する企業は、全国に約3000社判明した。このうち、輸出や現地進出(2019年4月時点)は1608社、輸入は1224社だった
- 業種別では、輸出・進出は製造業が最も多く656社。自動車部品など工業製品のほか、食品などの品目を取り扱う企業が多かった。輸入では卸売業が最も多く795社で、農産品や服飾品、理化学機器などの品目が目立った
- 英政府によれば、日英EPAの締結により日本の対英輸出額は約8割増加と試算するなど、日本企業にとってメリットが大きい。ただ、英EU間の通商交渉がまとまらない限り、日英欧で事業を展開する日本企業にとって予断を許さない状況は続く
日本と英国間の包括的経済連携協定(EPA)が、10月23日に正式に署名され、早ければ来年1月に発効する。本協定は、日本と欧州連合(EU)間で適用されているEPAの内容が概ね踏襲されており、英国からの輸入品のうち約94%、日本から英国への輸出品については約99%について関税が撤廃。商標権や意匠権など知的財産分野の保護をめぐるルールも強化される。
日英間の貿易は、現在日EU・EPAに基づく優遇関税が受けられるが、英国のEU離脱によりこの措置が年末で失効する。そのため、日英間で新たな通商協定が結べない場合、21年以降は関税が引き上げられ、英国で事業を展開する日本企業に影響が出る恐れがあった。しかし、新協定の締結によりその懸念が払しょくされたことで、日英間のビジネス上における「ブレグジット」の混乱は最小限に抑えられる見込みだ。
日英EPAの締結・発効により、今後どのような影響が日本企業に及ぶであろうか。帝国データバンクが蓄積した企業データベースを基に分析した。
「対英ビジネス」全国に約3000社、輸出では自動車部品、輸入は食品など目立つ
帝国データバンクの調べでは、輸出入や現地進出などで「対英ビジネス」を展開する日本企業は、2020年10月時点で計2722社が判明した。このうち、輸出・進出企業全体は1608社、輸入企業全体は1224社が判明(進出企業は2019年4月調査時点)。いずれも、中小企業から大手企業に至るまで、幅広い規模の企業が携わっていた。
輸出企業で最も多い業種は製造業で656社。輸出・進出企業全体の約4割を占めている。次いで卸売業の346社、サービス業の251社が続いた。一方、輸入企業で最も多い業種は卸売業の795社で、輸入企業全体の6割超を占めた。次いで多いのは製造業の157社、サービス業の118社と続く。
より詳細な業種をみると、輸出・進出では、トヨタやホンダ、日産など大手自動車メーカーのほか、製薬や電機など、ホールディングス化した大手企業を含む事業持株会社(投資業)が100社で最多。次いで多いのがソフトウェア業(50社)、電気製品の流通・販売を行う電気機械器具卸(41社)が続く。取り扱う品目をみると、自動車部品や各種センサー、米麦など農産品が多く目立つ。
日本企業の多くは、EU市場への輸出拠点として英国に工場や物流拠点を設置してきた。そのため原材料のほか、日本国内で組み立てた部品など中間材を英国へ輸出するケースが多く、製造業が輸出企業の多くを占める要因となっている。また、欧州有数の人口を有する英国は消費市場としても知られており、食品や消耗品を英国内へ輸出・現地拠点で販売する企業も多い。
輸入企業では卸売など流通関連が最も多く、なかでも精密機械・医療用器具卸は120社で最多だった。次いで電気機械器具卸(101社)、アパレル関連業種の洋服卸(39社)が多い。品目では紅茶やワイン、英国側が輸入拡大を強く要望したチーズを含む乳製品などの農産品や、アンティーク品、分析機器など理化学機器類が含まれている。英国からの輸入では、総じて消費目的の完成品がみられ、国内での流通・販売を目的に英国から輸入するケースが多いとみられる。
日英間のビジネスでは恩恵を受けるものの、英EU間の通商交渉は引き続き最大の関心事に
財務省の貿易統計によれば、日本から英国への2019年における輸出額は約1兆5000億円で、対英輸入額(約9000億円)を大きく上回っている。輸出企業にとっては、日英EPAの締結により日EU・EPAレベルの通商条件が維持されることによる、高関税の回避はプラス材料だ。英政府の試算では、日本から英国への輸出額は約15年後に2019年比で79.9%増加すると試算し、英国の対日輸出の伸び(17.2%増)を上回るなど、対英輸出では今後大きな伸びが期待できる。
ただ、英国とEUの間では自由貿易協定(FTA)締結に向けた交渉が難航している。年内の移行期間が終わるまでに貿易交渉がまとまらない場合、英EU間の貿易で高関税が課せられる可能性がある。英EU間の供給網が今後も不安定な状態が続けば、主に鉱工業製品を生産する企業を中心に、英国からの拠点移動や輸出縮小など、対欧州戦略の全面的な見直しを余儀なくされるケースも出てくる。そのため、「対英ビジネス」を展開する日本企業にとって予断の許さない状況は当面続くと見られる。
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