コロナ禍で消えた“ハレの日”需要が大打撃 「写真スタジオ」で倒産急増、過去10年で最多確実に
写真撮影の需要回復が見通せないなか、ビジネスモデルの再変革が急がれる
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写真スタジオの倒産が、2020年1-10月までに20件発生した。この時点で昨年(11件)の約2倍となり、年間の倒産件数は過去10年間で最多になることが確実となっている
- デジタルカメラやスマホの普及が進んでも、写真需要は近年横ばいで推移するなど持ち直している。「写真」そのものが付加価値の高い商品として受け入れられ、「子供向けポートレート」などハレの日需要を開拓・拡大させてきた点が貢献したとみられる
- しかし、コロナ禍でハレの日イベントの多くが中止・自粛を余儀なくされ、需要は急減。20年のフォトイメージング市場予測は前年度比約2割減と予想されるなど厳しい。需要の回復が見通せないなか、再び訪れた危機をどのように乗り切るかが注目される
「街の写真スタジオ」が苦境に立たされている。帝国データバンクの調べでは、写真スタジオなど写真撮影業の倒産が10月までに20件発生。2019年通年の件数(11件)から既に約2倍の水準に達し、この時点で既に過去10年間で最多となった。ピークとなった2008年(33件)から減少傾向にあったが、今年は一転して急増傾向となっている。
デジタルカメラやスマートフォンの普及により写真の「コモディティ化」が進み、現像やプリント需要減に直面した写真ビジネス。近年は「ハレの日」需要の掘り起こしに成功し、業容が持ち直しつつあった。しかし、新型コロナの影響でその大部分が消滅。行き場を失った写真スタジオの閉館や倒産が相次ぎ発生しており、写真撮影ビジネスは再び大きな苦境に立たされている。
「スマホ」普及でも崩れなかった写真ビジネス、 3つの「ハレの日」需要が市場を牽引
帝国データバンクが推計した写真撮影市場は、2019年で約2000億円。08年頃までは急激な需要縮小が続いたが、近年は下げ止まりの傾向が見られる。「撮る・見る・保存する」のすべてがスマホで完結する近年も需要が大きく崩れない背景には、子育て世代を中心とした現役世代での需要減を小幅に食い止めることができた点が大きそうだ。60歳以上など高齢者層では写真への支出額が減少する一方で、子育て世代に当たる40代以下では写真支出の減少幅は小幅にとどまっている。
要因の一つに挙げられるのは、近年定着した「コト消費」も追い風として、「ハレの日の思い出を残す」という付加価値が写真業界でも市民権を得た点だ。とりわけ、少子化の中で相対的に子ども一人当たりへの支出が増えやすい環境、「七五三」「成人式」など節目を迎えた我が子の姿を綺麗に残したい、といった子育て世代のウォンツを受けた「子ども向けポートレート」市場は、写真ビジネスの中でも安定して成長が見込める魅力の高い市場となった。そのため、スタジオアリスなど専門店の他にも、カメラ販売店や子供用品店など異業種が参入。子育て世代を集客する大型ショッピングモールに積極的な出店を続けてきたことも、子ども向け写真市場の魅力度の高さを裏付ける。
結婚式を控える「ナシ婚」が増えたブライダルでも、「記念写真だけはプロの手で残したい」というカップルのニーズは根強い。そのため、中小の写真スタジオでも大手と差別化したロケーション撮影といった独自のプランの設定など、高額でもオリジナル商品の提案が受け入れられやすい土壌が残り、比較的安定した収益を確保できていた。近年増加した、観光客向けの写真需要の開拓も進むなど、総じて「ハレの日」需要の強化・新規獲得で成功した街の写真スタジオも多かった。
しかし、コロナ禍でこうしたハレの日やイベントなどの多くが中止や自粛に追い込まれたほか、インバウンドも消失したことで、写真需要が急激に収縮。もともと、スマホなどに機会を奪われた撮影事業の「テコ入れ」としてハレの日に注力した写真スタジオにとっては、大きな打撃となっている。
専門家マッチングフォームを運営するミツモアが3月に行った調査では、カメラマン・写真スタジオのうち4割が前年同月から売上半減と回答、8割超が売り上げを落とすなど厳しい現状が明らかになった。コロナ禍による景況感の悪化で一層の写真需要低迷や単価下落が想定されるなか、同社は「企業努力で許容できない可能性が大きい」と指摘している。
コロナ禍で需要消滅、写真市場2割減の予測も 新たなビジネス開拓など変革起こせるかがカギ
日本フォトイメージング協会が9月にまとめた調査によると、20年度の同市場は前年度比2割の減少と予測。11月から本格化する今年の七五三は、記念撮影を前向きに検討しているのが約6割にとどまる、といった調査結果もあるなど、主軸となるハレの日需要がコロナ以前の水準まで回復が見込めないことも要因にある。そのため、写真スタジオにとってはしばらく忍耐の時期が続く。
他方で、コロナ禍をチャンスに新しいビジネススタイルを模索する写真スタジオも出てきた。出張フォト撮影事業を展開するラブグラフは、写真共有アプリ「みてね」を運営するミクシィと事業提携し、9月から「みてね出張撮影」を開始した。「コロナ禍でフォトスタジオでの撮影が不安」というニーズから、記念日などにプロのカメラマンが同行する出張撮影サービスの事業拡大を目指している。また、写真をストーリー形式でまとめるフォトブックサービス、ネットプリントサービスの展開など、撮影周辺のビジネス強化で他社との差別化を図る写真スタジオもある。
デジタルカメラやスマホの普及による「写真のコモディティ化」という危機を、「高付加価値化」への転身で乗り切った写真業界。コロナ禍で再び訪れた危機にどのような変革で打破していくのかが注目される。
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