【3/1より配信開始・先行受付中】映画「タイマグラばあちゃん」の澄川監督の第２弾！映画「大きな家」上映＆監督からのメッセージ【NHKカルチャーオンデマンド講座】
東京から岩手の山奥に移り住んだ子どもたちの森での日々 ー ７年間の記録 ー
映画の舞台タイマグラとは、岩手県のほぼ真ん中、早池峰山のふもとにある開拓地。早池峰山（はやちねさん）の東側の登山口として神社が祀られており、毎年秋には神楽も奉納される。このかわった地名はアイヌの言葉が語源とされ、「タイ(森)」「マㇰワ(奥)」「ル(道)」から「森の奥へと続く道」という意味ではないかと言われている。この奥深い森に開拓の手が入ったのは第二次大戦後の食糧難の時代で、多い時には10軒ほどの農家があった。しかし高度成長期になると農業だけでは暮らしていけなくなり、「タイマグラばあちゃん」こと向田（むかいだ）マサヨさん夫婦を残してみな山を下りてしまった。1988(昭和63)年の暮れに一軒だけの集落にようやく電気がひかれ話題となった。澄川監督が映画「タイマグラばあちゃん」の撮影をするために単身で移り住んだのは1999年の夏。東京から家族が引っ越してきたのは翌年の春だった。”大きな家”での子どもたちの暮らしが、その時から始まった。タイマグラでの7年間を記録した「大きな家－タイマグラの森の子どもたち」の上映と、澄川監督からのメッセージをオンデマンドでお届けします。
”わたしたち 大きな家に すんでるんだね”
ある日、あきえちゃんがつぶやきました。
大きな家———
自分たちの家だけでなく
いつもかけまわっているまわりの森すべてが
いろいろな生き物たちといっしょに暮らす
ひとつの大きな家だというのです。
大きな家にすんで丸五年がすぎた夏、もうさすがに驚くような出会いはないだろうと思っていたら妻が大発見をした。それも家族みんなが毎日ながめている木での出来事であった。食事をするテーブルから見える木にリスを見つけたのである。妻が大声で呼ぶのでかけつけてみると、木の枝が風に吹かれるのとはちがう揺れ方をしている。双眼鏡でのぞくと茶色のリスが木の実を食べていた。枝から枝へ素早く走りまわり、ときには後ろ足でぶらさがったまま器用に小さな実を食べている。あまりのかわいさに家族みんなでじっと見とれていた。リスのいる木はすぐ向かいにあるハルニレの大木で、五年間毎日のように見ていたのに一度もリスには気がつかなかった。出会うのに五年かかった。
しかし、それでよかったのだと思う。出会うのに五年という時間が必要だったのだ。見慣れている木々のちょっとした変化、風とは違う枝の動き、小動物の気配———そうしたことに無意識に注意が向き五感が反応するようになるために必要な時間だったのだ。効率やスピードばかりが重視される世の中だが、本当に求めることに出会うのには時間がかかるのだと思う。
裏の森でチョウを追いかけることから始まり、カタクリやホタルに喜び、ダニにかまれ、昼寝をしているクマを見つけて驚き、美しい鳥の羽をひろったり、雪の上でウサギの足あとを探して歩いたり・・・。くりかえす四季の中で数えきれない生命たちに出会ってきた。そうした時間が私たち家族の内側に年輪のように積み重なって、ほかの生き物たちと人間を同じように考える気持ち₌「生き物どうし」という感覚をゆっくり育ててくれたように思う。
「時間がかかるのはわるいことじゃないよ。」ようやく出会えたリスはそんなふうにささやいている気がした。
●【澄川嘉彦プロフィール】1963年広島市生まれ。
東京大学文学部卒業後、NHKに入社し仙台放送局に赴任。
主に東北を舞台としたドキュメンタリー番組を担当する。
89年に取材で”タイマグラばあちゃん”こと向田マサヨさんと
出会い、91年にはNHKスペシャル『マサヨばあちゃんの
天地』を制作。99年に退社して岩手県川井村（現宮古市）
タイマグラに移住。向田マサヨさんの記録を15年続け、2004年に映画「タイマグラばあちゃん」≪第20回フライブルグ国際映画祭(スイス)最優秀ドキュメンタリー賞、第13回サルディニア国際民族学映画祭(イタリア)最優秀映画賞、第25回パリ国際民族学映画祭(フランス)マリオ・ルスポリ賞を受賞≫、
2009年に映画「大きな家」をまとめた。
講座名：映画『大きな家 ータイマグラの森の子どもたち—』上映＆澄川監督のお話
講師：映画監督 澄川 嘉彦
受講形態：オンデマンド
配信日：３月１日（火）～３月３１日（木）
受講料金：NHK文化センター会員・一般(入会金不要)税込2,640円
主催：NHK文化センター盛岡教室
▼お申込はこちらから
https://www.nhk-cul.co.jp/programs/program_1226602.html
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