【福井県坂井市】三国湊に古民家ホテルが増えるワケ…(その1)

空き家リノベによるオーベルジュ、ゲストハウス…10年で13棟

坂井市役所

三国湊のメインきたまえ通りの路地奥にひっそりたたずむ、大木道具展の土蔵を改修した「三国湊オーベルジュ サミュゼ」の宿泊棟

 福井県内を流れる大河・九頭龍川、その河口部分に沿って〝帯の幅ほどあるまち〟と称されるまち・三国湊に、古い町家の和風情緒を残しながらリノベーションした古民家ホテルが、ここ10年ほどで相次ぎオープンしている。情報通信大手NTTと地元企業群が組む大型オーベルジュをはじめ、地元の個人経営、温泉旅館が運営するタイプなど経営スタイルはさまざまだが、その宿泊棟数は13棟にも上る。

いずれの宿泊施設も、三国湊エリアに残る空き家の町家をリノベーション改修するスタイル。三国湊は、北前船の寄港地として江戸~明治期には海運業の豪商を何軒も輩出するなど栄華を極めた商港、ただし明治中期以降は、鉄道による陸運に主役を奪われ衰退。しかしながら、湊が栄えた頃をそのままを彷彿させる通りや路地、町並みが魅力で、85ヘクタールほどのエリアに「かぐら建て」という、三国独特の町家建築物も残っている。その旧市街に今、古民家風ホテルが増えるのはなぜか、その理由を探ってみた。

2階は屋根裏や太い梁を生かした空間になっている

登録文化財の蔵をリノベし、オーベルジュに

 三国湊エリアのほぼ中央、「きたまえ通り」と呼ばれる、まち歩きでも人気が高い通り沿いに、そのフレンチ料理店はある。明治か大正期に建てられたと思われる入り母屋造りの2階建て町家。2階の黒壁に『大木道具店』『骨董書画』の文字を残した外観には、思わずスマホを向けたくなる。町家は国の登録有形文化財だが、フランス料理店「サミュゼ」となって再生し7年目になる。さらに、その裏手に建っていた土蔵を大幅改築し、今年の春に「古民家ホテル」に改造、フレンチレストランと合わせて宿泊ができるオーベルジュとして生まれ変わった。土蔵の本体改築の事業費約5,000万円には、坂井市事業で県の「ふくい地方創生推進事業(地方創生推進型)」制度が活用されている。

 「土蔵はかなりボロボロだったんですが…」と経営者の畑和也さん(47)はリノベーションの出来に満足そう。宿泊棟は1棟貸しで、蔵座敷の面持ち残す1階の和室、太い梁や屋根裏の組み柱がむき出しの2階寝室など和の面持ちが心地よい。完成は4月だが、6月から予約受付を始め、実質7月からの宿泊客を受け入れた。部屋の稼働率は、9月が夏場の家族連れを中心に70%ほど、9月、10月は20~30%程度に下がったが、11月は越前がにシーズンも始まり「40%ほどに上がる」と言う。客は大半が県外。「関東が意外に多く、関西・中国、九州から。インバウンド?海外はヨーロッパから1組ぐらい」と外国人観光客はまだ少ない。すぐ近くに大手オーベルジュの宿泊棟をはじめ素泊まりの古民家ホテルも点在するが、「値段も違うし、客層も異なる。泊まりだけのゲストハウスもあって、うちはレストラン付きだし…。だから、うまく棲み分けできている」という。もともと郊外で店を持った経験のある畑さんも、年齢を重ねたことで古いものに価値があるという考えも芽生え、自分が育った三国湊の情緒あふれる街中に店を持ったことを「正解かな」と感じている。ただ、客は三国湊の観光を目的にここに泊まりに来たわけではない、近くの東尋坊観光からの立ち寄りと言った感が多い。「そういう意味で三国湊はまだまだ知名度不足」と感じている。

■三国湊オーベルジュ S'Amuser

福井県坂井市三国町北本町4丁目5-31

℡:0776-97-9237

営業時間、宿泊予約は公式HPなどから


古民家だけど…「恐竜と泊まる」がコンセプト

 九頭龍川沿いの山王2丁目、クランクのような通りの角に建つ古民家ホテル&カフェ「だいな荘」。ここは、不動産・住宅大手の飯田グループホールディングス傘下の木材製造業「ファーストウッド」(本社・福井市)が手掛けた古民家再生物件で、角地だけにその大きさもあって古民家の存在感が際立つ。5月の三国祭では、巨大な人形山車(やま)がこのクランクで大勢の曳き手が方向転換する迫力シーンが、窓から覗ける。建物は「ミナト&みなとと」と名付けられ、一階はカフェと雑貨店が入り、2階には宿泊部屋が2室。

 2室ともベッド仕様だが、天井は大きな梁がむき出しで、古材の味わいが落ち着きある和空間となっている。内装の壁紙などあちこちに福井のキラーコンテンツである「恐竜」がたくさん散りばめられているものの、それが和の持ち味を邪魔していない。客室運営は、芦原温泉の大手温泉旅館「グランディア芳泉」が手がける。あわら市の本館とは車で15分ほど離れることもあり、フロントもない完全ネット予約制。

まるで首長竜を思わせる太い梁が天井を走る「だいな荘」の客室「フクイティタン」
さりげなく室内を飾る恐竜柄のインテリア

泊まり客は、携帯でチェックイン、アウトや精算を済ませる。

 なぜ、温泉旅館が三国で古民家ホテルを?「ファーストウッド社から運営の提案を要請されたのが、4年ほど前。(当旅館は)三国とは多少ご縁のある土地柄ですし、最終的にやりますと決断をしました」と、グランディア芳泉の山口高澄常務(38)。ただし、ファーストウッド社からの案をそのままストレートに受け入れたではなく、宿泊客の想定から、部屋のコンセプトまで計画段階で「方向性や詳細変更をデザインさせていただいた」(山口常務)という。

開放的な1階カフェの吹き抜けの上が客室となっている。右は古民家再生に携わった北浜取締役

その結果、プランは部屋数を「3」から「2」に減らし、さらに部屋の内装に「恐竜」を基調とするアイデアもグランディアからだったと言う。

 長年の旅館経営の経験から、古民家ホテルを選ぶ旅行客は料金が概ね2万円以下ぐらいで、比較的若い方が多く、食事や観光、まち歩きを楽しむ傾向にあるという。「三国湊はその点、まち歩きを楽しめる味わいあるまちだと思う。三国祭や帯のまち流し…という歴史や和の文化を感じるイベントもある」と常務。女将の山口由紀さんもやはり、「三国湊は歴史を感じられるまちが魅力。私どもは芦原の地で旅館をやって、市は異なるけれど、これだけ近い距離、できれば三国と芦原の橋渡し役になりたい」と言う。女将自身も毎年、帯のまち流しの踊りの列に加わるほど三国湊への思いは強い。

 ならば、古民家改修のモチーフを歴史文化にせず、なぜに恐竜となったのか。

山口常務は、三国湊が北前船文化のまちと言っても「観光客はそれを目的に足を運ぶだろうか?」と疑問だった。「今は、福井といえばまず恐竜です。まずは福井に来てもらうことが大事で、ここへ来るきっかけは恐竜でもいい。泊まっていただいて、ああ、三国湊ってこんなところなのか、まち歩きもしてもらって…。三国湊の歴史や文化の良さを感じてもらうのはそれからじゃないですか」と語る。

飯田Gホールディングス・北浜氏「三国湊で挑む実証実験」

 だいな荘の宿泊客層は、ネット対応のみということもあって旅館本館の客層とは異なり、大半が県外。それも北海道から九州まで幅広く全国からで、家族連れや高齢の夫婦、時に出張のビジネスマンらも1人で泊まることもあるという。改修工事に当たり、坂井市から300万円の「空家リノベーション起業者育成事業補助金」を受けている。

 建物のオーナーでもあるファーストウッド社の北浜甲一取締役経営企画部長(39)は、今回の三国湊での古民家再生は、飯田グループとしても「実証実験である」と言う。「親会社は日本の住宅業界の流れを見ていて、今は新築ばかりでなく、ストックの時代にある。古いものを生かす時代です。ただし、古民家再生というのは実はかなりの高額な経費がかかる。再生させて、ちゃんと元が取れるのか、そこのバランスをよく見る必要がある」と指摘する。そのうえで、三国生まれの北浜部長はこうも付け加えた。「私は仕事がら全国の観光地もよく回るんですが、この三国湊ほど、食やまちの雰囲気、祭りなど観光素材でポテンシャルが高いところはない、と実感してます。だから、(古民家再生挑戦の)第1号が、ここなんです」

■恐竜古民家ホテル だいな荘

福井県坂井市三国町山王2丁目9-38

℡:0776-77-2555(グランディア芳泉)

宿泊予約などは公式HPなどから


アレックス・カー氏の監修で始まった町家再生

旧薬局時代からのくすりの古看板や梁に飾られた調度品が、味わいある和空間を演出する「行雲」

 三国湊に古民家ホテルが建つきっかけは、三国湊のまちづくり団体「一般社団法人 三國會所」が2013年度から、坂井市や県などと取り組んだ「三国湊町家活用プロジェクト」だった。その数年前、進む“まちの空洞化”対策として空き家・空き地調査が行われ、三国湊市街約2,600戸のうち7%に当たる約190戸が空き家という事実が明らかになり、急速な人口減少と高齢化とともにまちの活力の低下が危惧された。そうした中で街並み保存活用の一環で、4軒の空き家の町家や蔵を雑貨店や惣菜店などのショップ等に改修するプランが打ち出され、そのうちの1軒が旧薬局を改修したゲストハウスだった。

 実は、このゲストハウスづくりには、日本の伝統的な町家活用の第一人者で、東洋文化研究家、アレックス・カー氏が深く関わっている。プロジェクトが動きだす前年、會所の中心メンバーである大和久米登さん(現三國會所直前理事長)、副理事長の小針悟さんら4人がたまたま香川県内子町で開かれたまちづくり会合に参加、その場に居合わせたA・カー氏や古民家再生のコンサルタント「篪庵(ちいおり)」のメンバーらと意気投合。その帰途、予定を変えてA・カー氏が古民家再生の拠点としていた日本三大秘境の一つとされる徳島県祖谷(いや)にあるゲストハウスを見ていくことになった。そこで見た築300年余の古民家は、三国湊の町家とはデザイン的にも機能的にも異なるものの、「周囲の自然ともマッチし、味わいある古民家である一方で、風呂場や洗面所はセンスのいい現代風のホテルのようで、格好いいと思った」(小針さん)という。

笏谷石を巧みに配置した「行雲」の中庭。向こう側に建つ蔵は、「流水」の離れ棟

 その後、坂井市はきたまえ通りにあった明治中期に建てられた空き家「旧田中薬局」の改築監修をA・カー氏に依頼。A・カー氏らは2014~15年に、何度か足を運び、古民家再生のポイントを助言した。

 「あそこはほぼ全面的な改修でした。道路にはみ出してしたので一度、揚げ屋して後ろに引いて移築しているんです」とこう話すのは、4軒の改修を設計したグループ「越ノ作事方」のメンバーの1人、福井工業大学デザイン学科准教授の丸山晴之さん(54)。

 丸山さんは実際に改修現場でA・カー氏と設計監理について話し合ったことを思い出しながら、「彼は建築の専門家ではないので、設計段階から細かい指示を言うのではなく、『清潔感を大事に』とか『(宿泊客を呼ぶので)水回りをきれいに』とか言われましたね。あと『窓枠などにアルミサッシは使わないで、古い町家にはふさわしくない』とか。

見えない箇所でも使わない、とも指示されました」と言う。印象深かったのは、建築的なことよりA・カー氏の日本文化への造詣、敬愛の深さだったという。「薬局に残っていた古い看板や古道具を部屋のアクセントに活かし、三国湊の町家の雰囲気を大事にしていました。あと、単に古いものを残すだけではなく、古民家再生というプロジェクトの目的を完遂させるために、何が大切なのか、そういった視点が明確でした」

 ゲストハウスは「詰所三國」として、2015年に母屋が完成、木造2階建てで、吹き抜けのリビングを持つ「行雲(こううん)」と中庭を挟んで離れのリビングにしつらえた蔵を持つ「流水」(りゅうすい)」の2室が再生された。天井部吹き抜けの空間は、梁や柱など古材がむき出し、一方、壁には「浅田飴」「ねつさまし キナピリン」など薬屋時代の古看板を並べたり、和箪笥や食器類などの味ある調度品を梁の上に置くなどして、客に三国湊の歴史文化の奥深さが感じられるようにした。今では県外客を中心に固定客も増え始めた。「10年が経って、リピーターの客が増えましたね。5月の三国祭と11月のカニ解禁の時は、決まって同じお客さんが県外、主に岐阜県から来ます。三国祭が大好きというお客はその日泊まってすぐに来年の予約をしていくほど。三国を好きになってくれました」(運営する下村禎勝さん)と話し、宿泊経営も波に乗り始めたよう。

丸山晴之さんは、「詰所三國」開業の後、「んだこ」、「オーベルジュほまち 三國湊」のプロジェクトにもHYAKKA(設計事務所)として関わっている

 A・カー氏は改築工事前、地元新聞社の取材に「古い町並みに手を加えていけば、人口減少が進む地方都市の観光資源として、大きな可能性がある」と町家の積極的な活用を提言。「三国湊は歩いていて楽しい町。だがこのままにしておくと、古い家はどんどん壊されていく。今が(最後の)チャンス、手を加えて残していかないと…古いものをそのまま残すのではなく、どこかで現代的なセンスを取り入れ、普通の現代人が快適に使えるようにすべき」と語っている。「詰所三國」は、その思いをリアルに可視化した三国湊で最初の古民家再生となった。

■詰所 三國(ゲストハウス)

福井県坂井市三国町南本町3丁目3-17

℡:080-2964-9613

宿泊予約などは、公式HPなどから


「詰所三國」開業(2015年12月)当初は、地元でもさほど大きな話題にならなかった。が、三国湊のごく限られた人間には大きな刺激となったようだ。 

【その2に続く】 

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会社概要

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業種
官公庁・地方自治体
本社所在地
福井県坂井市坂井町下新庄1-1
電話番号
0776-66-1500
代表者名
池田禎孝
上場
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資本金
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設立
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