【福井県坂井市】三国湊に古民家ホテルが増えるワケ…(その2)

空き家リノベによるオーベルジュ、ゲストハウス…10年で13棟

坂井市役所

 坂井市三国町の旧市街、三国湊と呼ばれるエリアに、江戸や明治期から残る町家をリノベーションし古民家ホテルとして“再生”する例が増えている。その数はここ10年で一気に13棟。北陸新幹線の福井延伸で観光で注目される福井県だが、なぜ三国湊にこうも古民家ホテルが増えるのか、そのワケを追ってみた。(その1からの続き)


「俺の夢」が生んだ 三国湊第2の古民家ハウス 

 徳島県三好市の祖谷(いや)でアレックス・カー氏のゲストハウスを見た三國會所の小針悟さん(67)は、「三国の古い町家でも、やれるんじゃないか」と思い立つ。その後、勤めていた遊覧船会社の社長を61歳で辞すると、退職金全額を投じて、自ら古民家再生によるゲストハウス造りに乗り出した。

 小針さんは、生まれは東尋坊のある安島地区で三国湊出身ではないが、まちづくりに長年携わった縁で三国湊には顔が広い。その交友ぶりから物件探し、改修のコーディネイト役と次々に適任者を見つけ、意中の古い町家に出合ってからは基本設計をHYAKKAの丸山晴さんに依頼、わずか1年半ほどでオープンにこぎつけている。「ちょうど兄貴や無二の親友が亡くなる不幸が続いて、あ~俺もいつ死んでもおかしくない年齢になったんだなと実感した。

渋い青色が持ち味の笏谷石の「通り土間」をガラス越しに見える「んだこ」の廊下

そう思うと、『お前はゲストハウスをやりたかったんだろ』という心の叫びみたいのが沸いてきて…。詰所ができたのもいい刺激だったのかもしれない」 

部屋の飾りに法被や植物を施した2階寝室

 2021年8月、三国町南本町4丁目の通り沿いに、「湊と暮らす宿 んだこ」と名付けられたゲストハウスが開業。「んだこ」とは、安島弁で「わが家」の意味だという。「家業はもともと何だったのか よく分からない」(小針さん)ながら、江戸時代に建てられた築100年以上の町家は、裏手の九頭竜川と表通りの玄関をつなぐ笏谷石製の「通り土間」が今も残り、そこが遠く蝦夷地から北前船で運ばれた海産物などの荷揚げ場として使われたのはほぼ間違いないだろう。

独特の青が鈍く光るように見える笏谷(しゃくだに)石製の土間の上にはガラスを敷き、お客は床のガラス越しに青い土間を見ることができる。小針さんと建築士が工夫を凝らし、客に見てもらいたかった箇所でもある。小針さんは「この改修は、とても満足している」という。また通りに面した玄関口の土間は、昼には地元民や観光客がふらりと入れる開放空間となっており、訪れる人に「おかえり」と声を掛けているかのようなスペースだ。

 古民家改修に当たり、坂井市の市民民宿リニューアル支援事業補助金や県の制度を活用し1千万円の補助を得ている。開業から4年余りが経過したが、小針さんは「道楽半分で始めたから…」と収支などの数字に執着していない。ただ、「今年8月だったか、岐阜の高山市から来た夫婦連れが泊まった後、続けて2組のお客が高山からあってね。あれ、と思って尋ねたら、『とっても居心地がよかったから、と薦められた』と言われた時には…ああ、コレやってよかったな」と笑う。

■湊で暮らす宿 んだこ

福井県坂井市三国町南本町4-10-26

℡:090-9441-5055

※宿泊予約などは公式HPなどを参考に


NTTが古民家再生を足掛かりに挑む地域再生

 「んだこ」の開業から2年、古民家再生の大波は外からやって来た。2023年2月初旬、NTT西日本が、地元銀行やマスコミなど10社と組んで観光まちづくり会社「アクティベースふくい」(坂井市)を立ち上げ、三国湊の複数の古い町家をリノベーションして、ホテルとレストランを整備すると発表。北陸新幹線の福井開業を翌年24年春に控えているとはいえ、改修する古民家の数は10棟、しかもレストラン棟を中心に宿泊棟はまち全体に点在させる、という大がかりな仕掛けに、地元住民は驚いた。

ゆるやかな坂道に建つ「オーベルジュほまち 三國湊」の町家。建物と前と後部に「井桁」「七宝」が入る
ほまちの町家は、玄関口にある紺地の暖簾と盆栽が目印

総事業費は県からの補助金を含め12億円、翌年1月、全棟の改修とフロント施設も完成し、「オーベルジュほまち 三國湊」として開業した。「ほまち」は、出航する船風が順風を待つ「帆待ち」から名付けられた。

 そもそも、なぜ情報通信大手のNTTが古民家再生なのか。少子高齢化による地方の衰退は、NTTにとっても悩みどころあり、ICT(情報通信技術)分野で強みを持つ同社が、地域活性化として何ができるかを見極める実証の場を全国で探していた。そこで三国湊は観光を切り口に地域創生を模索する実証フィールドに選ばれた、という。事業を担う「アクティベースふくい」の樋口佳久社長(56)は「オーベルジュほまちは当社のものだけではなく、三国湊のもの。レストランもそう。地域の人たちにそう思っていただいて、一緒に三国湊を盛り上げていきたい」と意気込む。

 三国湊の旧市街一帯をホテルに見立てる「ほまち」は、フロントやレストランを中心に徒歩で5~10分ほどの位置に9棟の町家が1つ1つ点在。客室は全部で16あり、チェックインの後、宿泊棟に着くまでについでにまち歩きもできる。例えばレストラン前の目抜き通りを歩いて数分行くと、「毘沙門」と「矢羽根」、さらに「麻の葉」と「鱗」のそれぞれ2室が入る2軒並びの町家に着く。客室名はいずれも日本古来の文様から付けられている。

 玄関には渋い盆栽鉢が飾られ、足元の土間は、笏谷石の青が美しい。どの客室も「Homachi」とデザインされた英文字の暖簾が出迎える。「麻の葉」がある木造2階建て町家は、元は漁師が暮らしていたという。2階には通りに面した格子出窓、天井の梁や屋根裏の造りが昔を忍ばせる。さらに屏風などの調度品が和の空間により落着きを与え、「泊まる」というより「暮らす」という感覚へと誘う。

 昔の遊郭街、出村へ向かう坂の途中にある「井桁」「七宝」、さらに笏谷石の通り土間で玄関部が連なる「分銅」「青海波」「蔵鍵」「亀甲」も、もともとの町家の外観を生かしながら改築され、何ひとつ同じ造りがない。宿泊料はインバウンドなどを意識し、やや高めの設定ではあるが、フレンチ料理界の匠・吉野建氏が監修する優雅な料理が古民家で堪能できる「タテルヨシノ 三國湊」もひとつの売りとなっている。

 ほまち誕生には、キーパソンとなった一人の女性がいる。現在はNTT西日本の「地域プロデュースアドバイザー」の肩書をもつ豊島順子さんだ。USJ などの幹部を務めた彼女は2017年に初めて三国湊を訪れた時から、まちの持つ雰囲気、地元民の人柄に惚れこみ、NTTの幹部に古民家再生による観光まちづくりを強く進言したという。豊島順子さんは開業前、地元新聞社の取材に三国湊の魅力を「人工的でない歴史から紡ぎ出された本物のまち」と表現、

天井部に古民家の古材を生かしながら、和と洋の面持ちを巧みに融合させた客室「毘沙門」

「三国湊は別品のまちなの。インバウンドは、東京、京都などの都会にだけ来るのではないのよ。地方にある本当に地方の日本らしい姿を見たいはず。旅人は感情的なつながりを求め、居心地のよい土地に滞在したいの。そこをどうつくれるか、私は三国湊はイタリア・フィレンチェ近くにあるシエナのようなまちになれると思っているの」と答えている。豊島さんに空き家の町家を仲介した三国會所理事長(現直前理事長)の大和久米登さん(70)も「オーベルジュ開業は、少子高齢化で急速にまちがしぼむ三国湊にとって、最後の一手ともいえる打開策。ほまちなどの開業は、われわれが長年やってきた空き家になった古民家を再生するというまちづくりの方向性が間違っていなかったと証(あかし)。こうした町家の生まれ変わりが地元にも具体的なカタチで見えてくることで、住民の三国湊の誇りの醸成にもつながってほしい」と熱く語る。

 ほまちは開業後まもなく2年になろうとしている。宿泊客に出村コースなど3つのまち歩サービスを提供するなど、地域と手を携えた取り組みで、地道にファンを増やしている。樋口社長は、食を生かしたアウトドアダイニングや地元に伝わる手仕事を生かした体験コースなど新たに「湊の輪プロジェクト」と題したアクティビティーのメニュー考案を進めている。

■オーベルジュほまち 三國湊

福井県坂井市三国町南本町3-4-39(フロント住所)

レストラン1棟・宿泊棟9棟

℡:0776-82-0070

※宿泊・食事の予約は公式HPなどを参考


“不定調和なまち”の魅力 いかに伝えるか

 こうして三国湊と呼ばれるエリア(約85ヘクタール)には、現在、古民家を再生した宿泊施設が13棟(経営主体は5業者)にもなった。「詰所三國」開業(2015年12月)からわずか10年。全国的にもまだ知名度がない三国湊に、なぜ、こうも古民家ホテルが増えるのか。もちろん、背景には、三国湊の住民が高齢化し、古い空き家が増えていることが大きな要因だが、それだけなら、どの地方も同じ状況だ。三国湊だけに、集中する理由があるとすれば何だろうか。

 古民家ホテルの経営者らの多くが指摘するのが、江戸時代からの古い町家が残るまち並みと言う。三國神社から通称“出村”と呼ばれる旧遊郭街のエリアまで、うねりながら続く路地、その通り沿いに「かぐら建て」と呼ぼれる三国湊独特の造りの町家が並ぶ。

三国湊エリアに点在する13の古民家ホテル(地図内の●(赤丸)が宿泊棟やゲストハウスの位置)
毎年5月20日の三国祭には、県内外から大勢の観光客らで三国湊がにぎわう

そのまち並みを舞台に、巨大な山車(やま)を町衆が引き回す5月の「三国祭」や、艶やかな浴衣姿の踊り手たちが踊り列を連ねる夏場の「帯のまち流し」などの祭事も、魅力の要素となっている。

2004~07年ごろ、三國湊座やジェラート店の開店、芝居の上演など、今のきたまえ通りのにぎわいづくり企画に関わった、まちづくり会社「PTP」代表の福嶋輝彦さん(60)は、三国湊独特のまちの構造を挙げる。「江戸時代から変わらないまちの骨格が、そのまま残っている。…通りも歩いていて、うねるように曲がったり、直角の通りがあったり、広小路があったり、これ何差路? という不思議な交差点があったり…そんな予定不調和さがとても気持ちよい。

 時代時代によって、三国湊は三國神社付近から、川に沿うように長くまちが形成されてきたようですが、それが計画性をもってつくられてきたのではなく、人々の生活や商人の生業が先にあって、それに合わせるように通りや住居ができあがっていった。そして、そんなここにしかない路地を練る祭りの山車や踊り手の人たち…。住んでいる人が、このまちを大好きだという気質。三国湊の魅力は、まちが持つ構造をはじめ、いくつもの要因が絡まり、どこかが懐かしい、こころのふるさとを感じさせるまちであることなんです」と話す。

三国湊の通りを練るように繰り広げられる秋の恒例「帯のまち流し」

 いま、三国湊のまちづくりに大事なことは「素敵な三国湊の魅力を観光客に分かりやすく発信する」(樋口アクティベースふくい社長)ことだという。坂井市は本年度から、NTT西日本、事業構想大学院大学と組んで「三国湊の観光に資する事業」をテーマに、三国湊の活性化事業創出を目指す「三国湊共創プロジェクト」に取り組み始めた。県内外の20~60代の様々な職業の人材12人が集い、三国湊に今までにない業態店舗を創り出したり、安島地区など他地域と連携したり、アーティストやまちづくりプレーヤーの流入を促すなどの活性化プランが練られている。外部から人を引き寄せる古民家ホテルが相次いで誕生する流れの、さらなるウェーブとなるか、こうしたプランの練り上げでの三国湊の魅力の深掘りが期待される。

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会社概要

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業種
官公庁・地方自治体
本社所在地
福井県坂井市坂井町下新庄1-1
電話番号
0776-66-1500
代表者名
池田禎孝
上場
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資本金
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設立
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