-細胞内のタンパク質合成工場を試験管で再現-リボソーム生合成の試験管内再構成に成功

国立大学法人熊本大学

【ポイント】

遺伝子を使ってリボソームを試験管内で合成すること(リボソーム生合成)に成功

リボソーム生合成は、約200種の因子を必要とする極めて複雑なものであり、試験管内での再構成は困難だった

「生体内環境を試験管内で模倣する」ことを指針に、それら200種の因子を適切な環境で組み合わせることで、リボソーム生合成の試験管内再構成に成功

多様な非天然ペプチド・タンパク質を効率的に合成できる人工リボソームを創出可能になると期待

【研究の概要】

 大阪大学大学院工学研究科の青木航教授らの研究グループは、遺伝子を出発物質としてリボソームを合成するプロセス(リボソーム生合成)を試験管内で再構成することに世界で初めて成功しました。
リボソームとは、20種類のアミノ酸を遺伝コードに従ってつなげることでペプチド・タンパク質を合成する分子機械です。もしリボソームを改変できれば、多様な非天然ペプチド・タンパク質を合成可能になるため、優れた医薬や産業用酵素の創出が可能になると期待されています。しかし、リボソームは生命の必須因子であるため、これを改変しようとすると細胞にとって有害な影響(細胞毒性)が発生します。そのため、リボソームの改変は困難でした。
今回、研究グループが開発した試験管内リボソーム生合成は、遺伝子を出発物質として試験管内でリボソームを合成できます。そのため、細胞毒性を考慮する必要なく、原理的にはあらゆる変異をリボソームに導入できると考えられます。
本技術を応用することで、多様な非天然ペプチド・タンパク質を効率的に重合できる人工リボソームを創出できるようになると期待されます。
 本研究成果は、1月8日(水)に、英国科学誌「Nature Communications」に公開されました。

【本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)】

 本研究成果は、2つの観点から次世代のペプチド・タンパク質工学に資する技術になると期待されます。第一に、リボソームの触媒メカニズムの理解を深めることができると考えられます。リボソームはなぜ20種類の天然アミノ酸を効率的に重合できるのか?なぜ非天然モノマーの重合効率は低いのか?という問いは、まだ正確には明らかになっておりません。本研究は、これまで実現が難しかった多様なリボソーム変異体の構築・評価を可能とすることで、リボソームの触媒メカニズムの理解に大きく貢献すると期待されます。
 第二に、人類が利用可能なペプチド・タンパク質の多様性を大きく拡張すると期待されます(図2)。人工リボソームを設計し、天然アミノ酸とは性質が異なる非天然モノマーを効率的に重合可能とすることで、経口投与性や細胞膜透過性に優れた次世代中分子医薬が創出できるようになります。また、D-アミノ酸を効率的に重合可能となれば、鏡像タンパク質工学の実現にも近づくでしょう。D-タンパク質は、L-タンパク質が触媒する反応のキラリティを反転可能という特徴、また、プロテアーゼ耐性が高く分解されにくいという特徴を持ち、安定性の高い産業用酵素や消化管へ投与可能なタンパク質医薬として活躍すると期待されます。

【論文情報】

タイトル:“Autonomous ribosome biogenesis in vitro”
著者名:Yuishin Kosaka, Yumi Miyawaki, Megumi Mori, Shunsuke Aburaya, Chisato Nishizawa, Takeshi Chujo, Tatsuya Niwa, Takumi Miyazaki, Takashi Sugita, Mao Fukuyama, Hideki Taguchi, Kazuhito Tomizawa, Kenji Sugase, Mitsuyoshi Ueda, Wataru Aoki
DOI: https://doi.org/10.1038/s41467-025-55853-7
なお、本研究は、科研費・JST創発的研究推進事業・JST大学発新産業創出プログラム・JST革新的GX技術創出事業・ExCELLSプロジェクト研究などの一環として行われ、東北大学 多元物質科学研究所 福山 真央 准教授・東京科学大学 総合研究院 田口 英樹 教授・熊本大学 大学院 生命科学研究部 富澤 一仁 教授・京都大学 大学院 農学研究科 菅瀬 謙治 教授・京都大学 成長戦略本部 植田 充美 特任教授の協力を得て行われました。

【用語解説】

※1 リボソーム
リボソームは、細胞内でタンパク質合成を行うための工場のようなものである。具体的には、リボソームは、遺伝情報に基づいて20種類のアミノ酸を重合することでペプチド・タンパク質を合成する。

※2  試験管内再構成
試験管内再構成とは、 細胞内で起こる複雑な生命現象を、試験管内で人工的に再現する実験手法である。試験管内再構成に成功すると、①生命現象に関わる最小限の構成要素を特定できる、②特定の分子の役割や機能を詳細に解析できる、③細胞内では観察が難しい反応を直接観察・操作できるなどの利点が生じる。

※3  非天然ペプチド・タンパク質
天然のペプチド・タンパク質は、20種の天然アミノ酸により構成される。天然には存在しない非天然モノマーを含むリボソームで効率的に重合できるようになれば、さまざまな特殊機能をペプチド・タンパク質に付与できると期待される。

▼プレスリリース全文はこちら

https://www.kumamoto-u.ac.jp/whatsnew/seimei/20250124

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本社所在地
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電話番号
096-344-2111
代表者名
小川 久雄
上場
未上場
資本金
-
設立
1949年05月