光学的血流計測による出血性ショックの微小循環変化を可視化~早期微小循環不全の診断と治療判断への貢献に期待~

『Intensive Care Medicine Experimental』(2025)掲載

学校法人明治大学

【研究の概要】

明治大学大学院 理工学研究科の黒野晃暉(博士前期課程2年)、明治大学理工学部電気電子生命学科の小野弓絵教授は、国立循環器病研究センター研究所の松下裕貴医師、朔啓太室長らと共同で、拡散相関分光法(Diffuse Correlation Spectroscopy:DCS)を用いた非侵襲的・連続的な微小循環不全のモニタリング技術の実証に成功しました。

本研究では、犬モデルを用いて出血性ショックを誘導し、皮膚および筋肉の深部血流をDCSで測定しました。その結果、DCSによる血流指標(BFI)は、従来の臨床微小循環指標と有意に相関し、乳酸値上昇を高い特異度で予測できることが明らかとなりました。このことから、DCSは微小循環不全を早期に検出する手段として有用であり、これにより重症患者の循環状態をよりリアルタイムに評価し、適切な治療介入につなげる循環管理の実現が期待されます。

【背景】

「ショック」とは、さまざまな理由で臓器に十分な血液が届かなくなる、命に関わる危険な状態です。ショック状態では,心臓に近い太い血管の血圧などが一見正常に見えても、実際には酸素や栄養を細胞に届ける細い血管(微小循環)の働きが早い段階から悪くなっています。そのため、この微小循環の状態を正しく見極めることが不可欠です。現在、ショック患者のモニタリング方法として、乳酸値、皮膚温と中心温の較差(ΔT)、混合静脈酸素飽和度(SvO₂)、中心静脈-動脈二酸化炭素差(PCO₂ギャップ)などが用いられていますが、侵襲性、時間的遅れ、継続的なモニタリングの困難性といった課題があります。これらの背景から、リアルタイムかつ非侵襲的に微小循環を評価できる新たな指標の開発が強く求められてきました。

【研究の成果】

 DCSは、近赤外光の散乱パターンを解析することで、深部組織内の微小な血流速度を連続的・非侵襲的に測定できる光学技術です(図1)。本研究では、DCSを用いて皮膚表面から深部組織内の微小血管内血流速度をBFIとして測定し、従来の臨床指標と比較・検証しました。血液を段階的に脱血して出血性ショックを誘導し、その後、同量の輸血で回復を試みるという実験プロトコルを施行したところ、BFIは出血量の増加に伴って顕著に減少し、輸血により回復することが明らかとなりました(図2)。さらに、BFIはΔT、SvO₂、PCO₂ギャップ、乳酸値と統計学的に有意な相関を示し(図3)、rBFI(基準値に対する相対値)35.5%未満が乳酸上昇(22.5 mg/dL以上)を高い特異度(100%)で予測できることも示されました(図4)。

【研究のポイント】

  •  DCSによる非侵襲・連続的な皮膚・筋血流モニタリングの実現可能性を出血性ショックモデルで実証

  • BFI/rBFIは複数の既存の微小循環指標と有意に相関

  •  従来の微小循環指標では捉えにくい早期の末梢組織の血流低下を可視化

【研究の意義と今後の展開や社会的意義など】

この研究は、微小循環不全をリアルタイムで可視化する新たな技術的ブレークスルーであり、以下の意義が期待されます。

  • 重症患者の早期微小循環不全の診断と治療判断に貢献し、救命率の向上へ

  • 微小血管内血流を非侵襲・連続的に測定可能な医療機器開発につながる

  • 心原性ショックや敗血症性ショックなど、他の重篤な循環不全への応用も視野に入る

今後は、ヒト臨床での実用化、ならびに近赤外分光法(NIRS)など他手法との統合的活用により、集中治療現場への導入が期待されます。

【用語解説】

  1. 拡散相関分光法(Diffuse Correlation Spectroscopy, DCS):近赤外光の散乱を利用して、体内の微小な血流速度を非侵襲で測定する技術。

  2.  BFI(Blood Flow Index):DCSによって計測される血流速度の指標。

  3.  rBFI(relative BFI):基準値に対するBFIの相対変化を表す指標。

  4.  出血性ショック:大量出血により循環血液量が減少し、臓器への血流が著しく低下した状態。

【論文タイトル】

Non-invasive monitoring of microcirculation dynamics in hypovolemic shock: A novel application of diffuse correlation spectroscopy

【著者】

松下 裕貴1)、黒野 晃暉2)、中林 実輝絵2)、佐藤 啓1)、森田 英剛1)、吉田 祐希1)、福満 雅史1)、上村 和紀1, 3)、川田 徹1)、一之瀬 真志4)、小野 弓絵5)、朔 啓太1)

所属

1) 国立研究開発法人国立循環器病研究センター 循環動態制御部

2) 明治大学大学院 理工学研究科

3) 国立研究開発法人国立循環器病研究センター バイオデジタルツイン研究部

4) 明治大学 経営学部

5) 明治大学 理工学部 電気電子生命学科 

掲載紙情報

Matsushita, H., Kurono, K., Nakabayashi, M. et al. Non-invasive monitoring of microcirculation dynamics in hypovolemic shock: a novel application of diffuse correlation spectroscopy. ICMx 13, 53 (2025).

 https://doi.org/10.1186/s40635-025-00761-9

図1. 実験の全体像. DCSは近赤外光を照射するプローブ、拡散光を検知するプローブ、フォトンカウンター等から構成され、皮膚の上に設置することで非侵襲に組織内の微小血管内血流量を測定します.(論文内 図1より引用)

図2. 出血・輸血時におけるBFIの推移。代表的な1例では、BFIは、出血により急激に低下し、輸血によって速やかに回復しました。(B) 全6頭のデータでは、出血が進行するにつれてBFIは有意に低下し、特に2回目および3回目の脱血時には基準値(BL)と比べて統計的に有意な低下が認められました。輸血後にはBFIが回復傾向を示しました。(C) rBFI(脱血前の値を100%とした割合)でも、BFIと同様に出血で低下し、輸血で回復する傾向が見られました。(論文内 図4より引用)

図3. BFIと臨床で用いられている様々な微小循環指標との相関関係。BFI(血流指標)は、臨床で用いられる複数の微小循環評価指標と有意な相関関係を示しました。(A) 皮膚温と中心温の較差(ΔT)とは負の相関、(B) 混合静脈酸素飽和度(SvO₂)とは正の相関、(C) 中心静脈-動脈二酸化炭素差(PCO₂ギャップ)とは負の相関、(D) 血清乳酸値の上昇量とも負の相関がそれぞれ認められました。(論文内 図5より引用)

図4. rBFI 35.5%が高い特異度で有意な乳酸値の上昇を予測しました(感度:62%, 特異度:100%)(論文内 図7より引用)

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正式な表記は、明治大学HPhttps://www.meiji.ac.jp/koho/press/press2025.htmlの 

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設立
1881年01月