グリチルリチン酸ジカリウムが口腔内の歯周病原細菌(※1)を選択的に抑制する作用を確認
~口腔内細菌叢(※2)(口内フローラ)のバランスを整える、歯周病予防の新たなアプローチ~
ライオン株式会社(代表取締役兼社長執行役員:竹森 征之)は、グリチルリチン酸ジカリウム(以下、GK2)が口腔内の歯周病原細菌を選択的に抑制し、「口腔内細菌叢(以下、口内フローラ)のバランスを整える作用(※3)」を有することを見出しました。この研究成果は、2024年9月付けで基礎歯科医学に関する国際的な雑誌である『Journal of Oral Biosciences』に掲載され、2025年10月17日(金)~18日(土)に開催される第68回秋季日本歯周病学会学術大会(新潟県、新潟コンベンションセンター)にて関連情報を発表予定です。
(※1) 歯周病に関わる細菌の代表菌種であるPorphyromonas gingivalis。この菌は歯肉に炎症を引き起こすだけでなく、フローラの乱れを引き起こすキーストーン細菌としても報告されている(G. Hajishengallis, et al. Low-abundance biofilm species orchestrates inflammatory periodontal disease through the commensal microbiota and complement. Cell Host Microbe, 10(5)(2011):497-506., J. Mysak, et al. Porphyromonas gingivalis: major periodontopathic pathogen overview. J Immunol Res, (2014):476068.)
(※2)口腔環境に生育する細菌の集団
(※3)口内フローラのバランスを歯周病原細菌の比率が少ない状態に整える作用

■研究背景
歯周病は、口腔内細菌が原因で引き起こされ、歯の喪失などにも繋がる口腔疾患です。歯周病の発症や進行には口内フローラの乱れが関わるとされ(※4)、予防には、従来のプラークコントロールに加えて口内フローラのバランスを整えることが重要であると考えられています。当社では、この口内フローラの重要性に着目し、10年以上にわたり研究を進めてきました。その中で、口内フローラが乱れている人では、歯科治療完了後も歯周病原細菌が唾液中に多く存在したままであることを明らかにしました(※5)。この知見から、歯周病の発症および再発を防ぐためには、まず口内フローラを乱す原因と考えられる歯周病原細菌を選択的に抑制し、口内フローラを整えることが重要であると考え、本検討を行いました。
(※4) M. Kilian, et al. The oral microbiome - an update for oral healthcare professionals. British Dental Journal, 221(10)(2016):657-666.
(※5) K. Yama, et al. Dysbiosis of oral microbiome persists after dental treatment-induced remission of periodontal disease and dental caries. mSystems, 26;8(5)(2023):e0068323.
■主な研究結果
(1) 口内フローラの乱れの抑制作用を評価可能な独自評価系の構築
世界的な歯科研究機関ACTA(Academisch Centrum Tandheelkunde Amsterdam)が開発した実験モデル(※6)を基に、神奈川歯科大学と共同で、歯周病原細菌の抑制作用を評価する新しい実験系を検討しました。これまでに口腔細菌を扱う実験で得た知見を活かし、歯周病原細菌とヒト唾液由来の口腔細菌が共存するフローラを評価可能な独自評価系を構築することに成功しました。
(※6) Amsterdam Active Attachment biofilm modelと呼ばれる、ヒト由来の口腔細菌で構成されるバイオフィルムを形成・評価可能な実験モデル。ヒトの唾液を用いることで複数の口腔細菌から成るフローラを歯面モデル上に再現可能。また、培地成分の変更が容易なため、培地の工夫によって評価対象となる菌の存在状態を調整できるという特徴がある
(2) GK2による口内フローラのバランスを整える作用の確認
歯周病原細菌に対する抑制作用を有する成分を探索したところ、GK2が歯周病原細菌の増殖を抑制することを見出しました。さらに、(1)で構築した評価系を用いて検討した結果、GK2を添加することでフローラを構成する歯周病原細菌の存在比率が有意に低下し、歯周病原細菌を添加していないフローラ(※7)の菌バランスに近づく傾向を確認しました(図2)。

フローラ形成条件:37℃嫌気環境下で1週間培養
** Porphyromonas属についてのSteel Dwass検定結果(p<0.01)
(※7)歯周病原細菌によってフローラが乱されていない状態のモデル。歯周病原細菌未添加群の棒グラフ中の赤色で示したセグメントは、Porphyromonas属の歯周病原細菌以外の菌の存在比率を示す
また、フローラ全体の細菌構成の違いを把握するため、主座標分析(※8)を行ったところ、GK2未添加の系よりも、GK2を添加した系で、歯周病原細菌未添加の系に近づくことが示されました(図3)。この結果は、GK2がフローラを構成する歯周病原細菌を抑制し、口内フローラのバランスを整える作用を有することを示唆しています。
(※8)フローラを構成する細菌の情報を二次元にプロットし、類似性を解析する手法。構成が類似するフローラが近い位置に配置される

点線の囲みは、各条件N=8のプロットから予想される分布範囲(95%信頼区間t分布)を示す
以上の結果から、GK2は、フローラを構成する歯周病原細菌の存在比率を低下させ、歯周病原細菌を添加していないフローラの細菌構成に近づける作用を有することが明らかになりました。このことから、歯周病原細菌が引き起こす口内フローラの乱れがGK2によって抑制され、結果として歯周病に繋がる炎症の抑制に貢献することが期待されます。
■今後の展望
当社は、繰り返し生じる不具合を防ぐために、原因菌の一時的除去だけでなく、その場に存在する菌全体のバランスを整える「フローラケア」が口腔健康を保つために重要であると考えています(※9)。今後も、口内フローラに着目した新たな視点での予防法の重要性を踏まえ、お口を起点とする健康増進への貢献を目指してまいります。
(※9)微生物との共存関係構築により、繰り返される不具合の予防を目指す菌叢制御研究
https://www.lion.co.jp/ja/rd/basic/analysis/case01.php
【論文情報】
・タイトル: Dipotassium glycyrrhizate prevents oral dysbiosis caused by Porphyromonas gingivalis in an in vitro saliva-derived polymicrobial biofilm model
・著者: Kanta Ohara, Kiyoshi Tomiyama, Takuma Okuda, Kota Tsutsumi, Chikako Ishihara, Daiki Hashimoto, Yuto Fujii, Takashi Chikazawa, Kei Kurita, Yoshiharu Mukai
・掲載雑誌名:Journal of Oral Biosciences DOI: 10.1016/j.job.2024.07.001.
【第68回秋季日本歯周病学会学術大会】
〇期間 2025年10月17日~18日
〇場所 朱鷺メッセ 新潟コンベンションセンター
〇発表日 2025年10月17日~18日
〇演題 グリチルリチン酸ジカリウムによる多菌種複合バイオフィルムモデルのディスバイオーシスに対する影響
ライオン株式会社 小原 幹太、奥田 卓馬、堤 康太、石原 央子、橋本 泰樹、藤井 裕大、近澤 貴士、栗田 啓
神奈川歯科大学 歯科保存学講座 保存修復学分野 富山 潔、向井 義晴
【関連情報】
・乳幼児期の早い段階からのお口のケアが大事!生後6か月~1歳半は大人の口腔細菌叢に大きく近づく重要な時期
https://doc.lion.co.jp/uploads/tmg_block_page_image/file/8021/20220324.pdf
・3歳までに口腔細菌叢の基盤が確立される 乳幼児期の縦断研究から口腔細菌叢の形成が進む時期を解明
https://doc.lion.co.jp/uploads/tmg_block_page_image/file/10319/20241114_01.pdf
・う蝕・歯周病罹患者の口腔細菌叢は歯科治療後も口腔状態が良好な人と異なることを解明
~口腔細菌叢を考慮した予防法の提案を目指す~
https://doc.lion.co.jp/uploads/tmg_block_page_image/file/9312/20231109_01.pdf
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