エシカル消費の普及には「よだれの戦い」から逃げてはならない−学術研究から示したエシカル特性を価値に転換するコンセプトとデザイン・UX・プロモーションの具現化
明治大学商学部加藤拓巳准教授は、2025年5月20日、経団連会館で開催された、経団連 消費者政策委員会企画部会にて「コンセプトに基づく価値づくりとエシカル消費への適用」をテーマに講演を行いました。
消費者のよだれが出ない商品は世に普及しないため、エシカル商品でも「よだれの戦い」から逃げてはならない旨について事例を含めて説明しました。
本研究のポイント
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日本が高度成長期を成し遂げたのは、家電メーカーや自動車メーカーを中心に、「日本製は壊れない」という価値を提供してきたことが一つの要因である。しかし、「壊れない」が当たり前になった現在では、商品・サービスの存在目的である消費者の困りごとを発見するところから始める必要がある。困りごとを発見することは、困りごとを解決するよりも難しい場合すらある。競争力のある商品・サービスを生み出すには、「消費者が高いお金を払ってでも解決したい困りごと」の探求(=消費者理解)にリソースを割かねばならない。
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価値づくりの出発点は「誰に(Who)/何を(What)/どのように(How)」で構成されるコンセプトの定義である。この中で最も重要な要素はWhoであり、「どんな実用的・心理的な問題を抱えている人か?」を具体的に特定する必要がある。コンセプトが曖昧なままでは、どれだけ優れた技術・デザインも、猫に小判になってしまう。優れた技術や社会的に意義のある活動を価値に転換するには、消費者価値を捉えたコンセプトが不可欠である。
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キーコーヒーの実店舗での実証実験では、店舗と農園の人権・環境を価値に転換するコンセプトとして、喫茶店文化に着目した。クラフトパーソンシップの知見に基づき、マスター、「もったいない精神」、素材の質・産地のこだわりという喫茶店文化に則った商品は、サステナビリティを純粋に訴求した商品よりも販売が向上することが確認された(注)。
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コンセプトを策定した後は、デザイン・UX(ユーザーエクスペリエンス)・プロモーションでそれを一貫して具現化し続けることが重要である。つまり、企業は消費者にコンセプトの提供を約束し、それを守り続けることで、消費者から信頼を得る。この地道な積み重ねこそがブランドマネジメントであり、決して派手で場当たり的な広告やキャンペーンでは強固なブランドは成し得ない。デザイン・UX・プロモーションの具現化での課題は、感覚的・属人的な意思決定からの脱却であり、そこには科学的なアプローチが効果的である。
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夏の猛暑や未曾有の自然災害などの経験を通して、消費者は環境問題の深刻さに気づき、自分ごととして考える瞬間が増えている。よって、消費者は環境に配慮された商品を購入する姿勢を示している。しかし、実際の消費者行動は伴っていないのが現実である。エシカル消費は、消費者の言行不一致が大きな問題である。この乖離が生まれる主な理由としては、調査環境では社会的望ましさバイアスによって肯定的な態度が引き出され、一方で実環境ではエシカル商品の便益の曖昧さと価格の高さによって否定的な行動を引き起こしていると考えられる。
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この乖離を解消するためには、消費者の利己的要素から目を背けずに、価値を定義したコンセプトを起点に商品・サービスづくりを徹底することである。「後世のために社会を変えたい / 社会的弱者を救いたい」のような利他的要素に高いお金を払ってくれる消費者が世に溢れているなら美しい世界であるが、そうでないなら、消費者の利己的要素を満たすことを前提条件として捉えるしかない。消費者の購入意向・支払意思額(高い値段を支払う意向)を喚起できない商品は世に普及しないため、エシカル商品でも「よだれの戦い」から逃げてはならない。社会的に意義のある環境配慮・人権配慮の活動を止めないためには、価値づくりが不可欠である。
(注)当該プロジェクトは、東京大学未来ビジョン研究センター/グローバル・コモンズ・センターにおいて、キーコーヒー株式会社、株式会社博報堂、日本電気株式会社(現在関連事業は株式会社hootfolioに移管)の協力のもと実施したものである。加藤拓巳准教授は、東京大学未来ビジョン研究センターの客員研究員として本プロジェクトに参画し、本研究を担当した。


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東京大学グローバル・コモンズ・センター Webサイト
https://cgc.ifi.u-tokyo.ac.jp/
加藤拓巳准教授Webサイト
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