第5回 不動産投資オーナーのESG意識調査~環境関連法令・諸制度の変更 運用に良い影響~
グローバル都市不動産研究所 第32弾(都市政策の第一人者 市川宏雄氏監修)
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投資用不動産を扱う株式会社グローバル・リンク・マネジメント(本社:東京都渋谷区、以下GLM)は、(1)東京という都市を分析しその魅力を世界に向けて発信すること、(2)不動産を核とした新しいサービスの開発、等を目的に、明治大学名誉教授 市川宏雄 氏を所長に迎え、「グローバル都市不動産研究所(以下、同研究所)」を2019年1月1日に設立しました。
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同研究所では、調査・研究の第32弾として、全国の投資用不動産保有者400名を対象に、ESGに対する意識調査を実施しました(本調査は2021年から毎年実施し、今回が5回目)。
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【01】ESGの知名度が初の5割超
・「ESG」という言葉を聞いたことがある 初の5割超となる51.3%
・企業のESG推進によって株価に直接的な影響が出るとは考えていないようす
不動産投資家のESG意識高まる
グローバル都市不動産研究所では、全国の投資用不動産所有者400人に、不動産投資のESGに関わる意識調査を行いました。この調査は、2021年から実施しており、今回が5回目です。
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①ESGの知名度
そもそも「ESG」という言葉を聞いたことがあるかを尋ねた結果、聞いたことが「ある」は51.3%でした。前年の47.5%から7ポイント強増加し、初めて半数を超えました。
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②ESGに対する理解度
「ESG」という言葉を聞いたことがあると回答した人に対し、その内容の理解度として、ESGについて知っていることを複数回答で尋ねました。「環境・社会・ガバナンスの略語だということを知っている」と「企業等がESGの枠組みで情報を開示し、投資家が投資判断・評価に用いるものだと知っている」は共に56%前後でした。一方、「ESGに関する投資家の判断・評価は、短期的なリスク・リターンではなく、中長期なリスク・リターンや、投資の環境・社会への影響を考慮するものだと知っている」は48.8%と半数を割り、中長期的な時間軸や社会的な影響範囲に関する理解や認識は比較的伸びしろが大きいといえるでしょう。また、ESGという語句のみを認知しており、知識・理解がない層は約9%弱となりました。
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③投資活動におけるESGへの意識
「ESG」という言葉を聞いたことがあると回答した人に対し、投資活動の中でESGを意識しているかどうかを尋ねました。この結果、「時々意識している」が36.6%で最多となり、次いで「常に意識している」の31.1%と合わせ、7割弱がESGを念頭においた投資を行っていることがわかります。他方、「全く意識していない」は1割を下回り、内容理解の深度を問わず、そもそもESGの語を認知しているかどうかが日頃の投資活動における意識に影響するものといえるでしょう。
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④ESG対応企業に感じるメリット
「ESG」という言葉を聞いたことがあると回答した人に対し、ESG対応が優れている企業に対して感じるメリットを複数回答で尋ねました。この結果、「社会的意義が高いと感じる」が58.5%で最多となり、「長期的な安定成長が期待できる」が45.9%、「投資リスクが低いと感じる」が32.7%、「ブランド価値が向上している」が27%弱と続いています。一方、「株価の持続的な上昇が期待できる」は約12%で、唯一1割台にとどまっています。ESG対応が評価される企業には、直近での株価収益向上に対する期待はさほど高くないながら、企業活動としての社会性の高さが安定経営や将来的な成長に繋がる要素が感じられているものとうかがえます。
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⑤投資先のESG情報の取得方法
「ESG」という言葉を聞いたことがあると回答した人に対し、投資先のESG情報をどのように取得しているかを複数回答で尋ねました。この結果、「専門メディアやレポート」(62.9%)と「企業のIR資料やサステナビリティ報告書」(61.7%)が共に6割超となりました。次いで「証券会社からの情報提供」が約43%、「投資関連のSNSやブログ」が約26%となっていて、「個人調査や企業への問い合わせ」は8.6%にとどまっています。
投資先のESGに関する情報は、株式評価機関や投資関連媒体等の第三者によるものと、企業・団体自らが開示・発信するものが概ね同程度の質・量で取得されているといえるでしょう。また、投資家が証券会社による発信情報にも目を通していることがうかがえます。
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⑥ESG対応企業において重視するポイント
「ESG」という言葉を聞いたことがあると回答した人に対し、ESG対応が進んでいる企業についてどの要素を特に重視するか複数回答で尋ねました。この結果、「社会貢献」が59.0%で、「環境対応」の57.6%をわずかに上回り最多となりました。対して「ガバナンス」は37.6%と、両者より20ポイント低くなっています。投資判断においてESGを一定以上意識している層にとっては、企業のS(社会貢献)とE(環境対応)の取り組みの重要度が高いことがうかがえます。同時に、これら二つの領域に比べG(ガバナンス)の取り組みや開示情報の質・量については、各企業が独自性を打ち出しにくい状況にあるともいえるでしょう。
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【02】ESG物件の価格上昇許容度 許容層は高付加価値傾向
・「不動産のESG投資」の注目度は低下傾向
・ESG物件の価格上昇 5~6%は許容が最多
⑦不動産のESG投資の認知度
ESGとは別に、「不動産のESG投資」の認知を尋ねました。「知っていた」は30.0%で、前年に続き微減しました。ESGの語自体の認知度が増加している点とは対照的です。なお「不動産」と「ESG」の両語を合わせて報道する新聞記事数は、2021年をピークに減少しています。
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⑧不動産のESG投資で重要だと思う分野
不動産のESG投資の認知有無を問わず、どのような分野で重要だと思うかを複数回答で尋ねました。この結果、「健康性・快適性」が48.3%でトップ、次いで「気候変動への対応」が40%、「地域社会・経済への寄与」「災害への対応」が約30%となりました。2024年までの調査では、別の設問で「『不動産のESG投資』が投資先を判断する材料・要素として重要だと思う」と答えた人のみを回答対象としていたため割合の単純比較はできませんが、各項目の順位は前年と同様になっています。
なお、これまで「災害への対応」の割合は「地域社会・経済への寄与」より5ポイント以上低かったのに対し、今回は1.8ポイントと肉薄しています。コロナ禍において、テレワークや地方移住の促進で上昇した地方創生の機運が一段落したこと、年々多様化・甚大化が著しい災害への対応意識が高まっていることがうかがえます。
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⑨ESG投資を意識する物件
不動産のESG投資の重要度を問わず、どのような物件ならESG投資を意識するか複数回答で尋ねました。
この結果、「ワンルーム区分マンション」が37.3%で最多、「ファミリー向け区分マンション」が30.8%、「一棟マンション」が25.8%で次ぎました。前問と同じく2024年までと調査条件が異なるため割合の単純比較はできないものの、トップは前年と同様ながら「一棟マンション」 は「ファミリー向け区分マンション」 と順位が入れ替わり、「戸建て」にも肉薄されています。
また、非レジデンスでは「商業施設」と「ホテル」が13%前後と比率が高くなっており、過去最高を記録した訪日外国人客を中心とする観光消費の活性化を背景に、ESG投資のインパクトを期待する意向があると考えられます。
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⑩ESG対応物件の購入額
不動産のESG投資の重要度を問わず、 ESG対応を進めている物件について、購入額の増額に対する意識を尋ねました。
「意識はするが、購入費用に差が出ることは許容できない」の回答比率は31.3%で、約7割が増額を許容する結果となりました。許容する層が前年比で約1割減少しましたが、これは前問までと同じく、不動産のESG投資を重視しない層を回答者に含むという調査条件が影響したと考えられます。
なお、増額を許容する層のみに着目すると、 前年は「3~4%」の回答比率がトップだったのに対し、今回は「5~6%」が最多となっています。加えて、比率は少ないながら「11%以上」の割合も5年連続微増しています。
不動産のESGを重視する層においては、ESG対応物件に対する投資額増加の許容幅が、年々広がっているものと読み取れるでしょう。
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【03】環境関連法令・諸制度変更 認知度・良い影響ともに向上
・環境関連法令・諸制度の変更 認知度が向上
・変更によって「運用に良い影響」 51.3%
⑪不動産の環境対応の法令・制度変更認知
住宅・非住宅の環境に関わる法令・諸制度の変更について、当面の主な動きをいくつか提示し、変更された、ないし今後されることを知っているか尋ねました。
前年同様、各キーワードともにおおよそ4~5割が認知していました。認知している割合の増加幅が最も大きいのは、2025年4月の新築物件に対する省エネ基準適合の義務付けで、3.2ポイント増となりました。なお義務化以降は、建築主は建築確認時に適合性審査を受け、基準に合致していないと着工できなくなるため、投資家に対する影響は比較的大きいといえるでしょう。
一方で省エネ性能ラベル表示の努力義務化は、昨年4月にすでに開始されているものの、認知層は前年比0.7ポイント増で半数にとどまっています。新築住宅の省エネ性能の政府目標も、認知層は前年比0.8ポイントの微増でした。
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⑫環境関連法令・制度変更の投資への影響度
住宅・非住宅の環境に関わる法令・諸制度の変更について、知っているかどうかを問わず、こうした変更が不動産投資の運用に影響を与えると思うかを尋ねました。
この結果、各キーワードともに、55%前後が「良い影響を与える」(「とても良い影響を与えると思う」「良い影響を与えると思う」の合計)と回答し、半数以上がポジティブにとらえていることが分かりました。また、いずれのキーワードについても、ポジティブにとらえている層は前年比で4.5ポイント前後増加しています。
投資家においては、法令・制度の認知や変更内容の理解には未だ伸びしろが大きいといえるものの、認知拡大に伴い投資家の影響度評価も向上が進み、環境対応物件に対する投資を後押しすると考えられるでしょう。
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【04】都市政策の第一人者 市川宏雄所長による分析結果統括
・「ESG」の知名度は51.3%に増加し、調査開始以来初の半数超え
・ESG対応物件への投資の意味が定着しつつある
ESGの知名度が前年の47.5%から51.3%に増加し、初めて半数を超えました。
「環境・社会・ガバナンスの略語だということを知っている」と「企業等がESGの枠組みで情報を開示し、投資家が投資判断・評価に用いるものだと知っている」は共に5割を超える回答でした。さらに、7割弱がESGを念頭においた投資を行っていることも判明しました。
ESG対応が優れている企業に対して「社会的意義が高い」、「長期的な安定成長が期待できる」と感じています。特に重視するのが、 企業の「社会貢献(S)」と「環境対応(E) 」で、「ガバナンス(G)」をはるかに上回りました。また、投資先のESG情報は、 「証券会社からの情報提供」 よりも、「専門メディアやレポート」と「企業のIR資料やサステナビリティ報告書」が多くなっています。
ところが、不動産のESG投資についての認知度は約3割と下がります。不動産のESG投資で重要な分野は、5割弱の回答が「健康性・快適性」で、これに「気候変動への対応」、「地域社会・経済への寄与」、「災害への対応」と続き約3割となります。
ESG投資を意識する物件は何かの問いには、約3分の1が「ワンルーム区分マンション」と答えていますが、その比率は年々下がっています。
ESG対応物件の購入額の増額について、7割弱が許容していますが、5年間で過去最低となっています。ただし、増額を許容する層のみに限ってみると許容幅が1%上がっており、 ESGの必要性が認識される比率が上がれば、増額受け入れが進むことが予想されます。
不動産の環境関連法令や諸制度の変更についての認知度も上がってきています。省エネ性能ラベルの表示が努力義務、省エネ基準適合が義務化、むこう5年でZEH水準の省エネ性能の確保を政府が目指していることなど、こうしたことが良い影響を与えると考える人の回答が約55%となっています。
今回が5回目の調査ですが、 ESG対応物件への投資の意味が定着しつつ、そのための対価を払うことの覚悟も芽生えつつありそうです。
取材可能事項
本件に関して、下記2名へのインタビューが可能です。
ご取材をご希望の際は、グローバル・リンク・マネジメントの経営企画室 広報担当までお問い合わせください。
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・氏名 :市川 宏雄(いちかわ ひろお)
・生年月日 :1947年 東京生まれ(77歳)
・略歴 :早稲田大学理工学部建築学科、同大学院修士課程、博士課程(都市計画)を経て、カナダ政府留学生として、カナダ都市計画の権威であるウォータールー大学大学院博士課程(都市地域計画)を修了(Ph.D.)。一級建築士。
世界の都市間競争の視点から大都市の将来を構想し、東京の政策には30年間にわたり関わってきた東京研究の第一人者。
現在、明治大学名誉教授、日本危機管理防災学会・会長、日本テレワーク学会・会長、大都市政策研究機構・理事長、日本危機管理士機構・理事長、森記念財団都市戦略研究所・業務理事、町田市・未来づくり研究所長、Steering Board Member of Future of Urban Development and Services Committee, World Economic Forum(ダボス会議)in Switzerlandなど、要職多数。
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・氏名 :金 大仲(きむ てじゅん)
・役職 :株式会社グローバル・リンク・マネジメント 代表取締役社長
・生年月日 :1974年 横浜生まれ(50歳)
・略歴 :神奈川大学法学部法律学科卒業。新卒で金融機関に入社。その後、家業の飲食店を経て大手デベロッパー企業に転職し年間トップセールスを達成。そこでの経験を経て30歳の時に独立し、グローバル・リンク・マネジメントを設立。
会社概要
会社名 :株式会社グローバル・リンク・マネジメント
会社HP :https://www.global-link-m.com/
所在地 :東京都渋谷区道玄坂1丁目12番1号渋谷マークシティウエスト21階
代表者 :代表取締役社長 金 大仲
設立年月日 :2005年3月
資本金 :5億82百万円(2024年12月末現在)
業務内容 :不動産ソリューション事業(投資用不動産の開発、販売、賃貸管理)
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