【提言】ワット・ビット連携:AI時代のインフラ国富論
データセンター分散配置で描く脱炭素と地域活性化のビジョン
株式会社三菱総合研究所(代表取締役社長:籔田健二、以下 MRI)は、国内でのデータセンター(以下 DC)投資拡大で注目を集める「ワット・ビット連携」について、脱炭素電源活用等を踏まえ、5つの大規模集積拠点に加え2つのタイプの地域DCを数十カ所程度最適配置したDC分散の将来像と、地域DCを活用した地域活性化策を提言します。
1. 背景
AIの社会浸透により、国内でもDCへの投資が拡大しています。それに伴い、DCの電力需要増・適地不足への対応が課題となっています。この背景の下、電力インフラ(ワット)と情報通信インフラ(DCやネットワーク、ビット)を連携させ、急増するDC需要と電力の制約を同時に解決しようとする「ワット・ビット連携」への注目が高まっています。
ワット・ビット連携で必要となるDC分散立地について、MRIはこのたび、脱炭素電源の有効活用等を考慮した将来像を定量的に分析しました。さらに、インフラ配置の最適化にとどまらない、地域DCを活用した地域活性化策や日本の競争力強化策も提言します。
2. 本提言の概要
ワット・ビット連携は、短期的なDC需要を満たすためのインフラ整備にとどまらず、地域の社会・経済を支えるインフラとして長期的な視点で検討することが重要です。
MRIでは、日本が生成AIの利活用に乗り遅れないために大規模なDC集積拠点を整備することを「ワット・ビット1.0」、電力と通信の連携による運用の最適化を図ることを「ワット・ビット2.0」と定義しました。さらに、地域DCを活用した社会課題の解決と地域活性化や国力向上に向けた取り組みを「ワット・ビット3.0」と定義し、2040年のワット・ビット連携の最適な姿を提示します。
ワット・ビット連携の概念図(1.0~3.0)

(1) DC集積地の分散(ワット・ビット1.0)
AI需要を満たすDCの大規模集積拠点を形成するに当たっては、GX(グリーントランスフォーメーション)の視点も重要です。MRIのモデルを基にした定量分析結果では、DCの集積地を5エリア(東京・大阪・北海道・東北・九州)に分散させることで、東阪に集中する場合と比較して、再エネ出力抑制量が減少し、化石燃料消費量とCO2対策コストが年間約650億円削減されるなど、再生可能エネルギーの有効活用の観点で最も望ましい姿となりました。また、現在のDCの立地は東阪のネットワーク(IX※等)へのアクセスが重視されますが、オール光ネットワークが実装されれば、DCが分散しても遅延は大きな問題とならないと予測します。
※Internet Exchangeの略。インタネットサービスプロバイダ(ISP)やDC事業者などが相互に接続するための設備のこと。
2040年時点の集積地分散による燃料費等のコスト削減効果(左図)とネットワーク技術変化による平均遅延時間の変化(右図)

注2:オール光ネットワークが全国に普及したと仮定した場合の試算。「③5エリア」は、東京・大阪・北海道・九州・東北にDCを分散配置するシナリオ。ここでは、各エリアの代表都道府県における平均遅延時間を例示。
三菱総合研究所作成
(2) DC運用の最適化(ワット・ビット2.0)
電力需給の変動と計算負荷の変動をマッチングすることにより、ワットとビット双方の運用効率は向上します。この実現には、計算負荷を柔軟に移動させるワークロードシフト(以下 WLS)の実装がカギとなります。そのためには、WLSを実現する技術的な取り組みだけではなく、WLSを実装するための価格シグナルの整備や、WLSの運用を担うアグリゲーター(仲介者)を含む事業モデルの設計などが必要です。
WLS実現に向けた環境整備

(3) 国力向上に資するDC地域分散(ワット・ビット3.0)
DC分散を単なるインフラ整備にとどめず、国内DC事業者の競争力確保や地域活性化につなげることが重要です。そのためには、自治体や企業が地域DCを活用し、AIやロボティクスを活用した地域内の産業のスマート化(ヘルスケアや農業、モビリティ分野等)を進める必要があります。また、地域DCの立地を契機として、人材や産業の集積を目指すことでDC立地による便益を拡大できます。MRIはこのような「地域DCを起点として地域活性化を目指す地方都市」を「ワット・ビット・シティ」と名付けました。ワット・ビット・シティの萌芽事例は生まれつつあり、この取り組みを拡大していくことがワット・ビット3.0実現に向けて必要です。
ワット・ビット3.0実現により期待される便益

(4) 2040年のワット・ビット連携の全体像
定量分析結果等を踏まえ、2040年の日本におけるワット・ビット連携の最適な姿を整理しました。ワット・ビット連携で目指すDX・GX・地域活性化の価値実現には、複数タイプのDC拠点を並行して整備する必要があります。ワット・ビット連携の最適な姿を目指すためには、技術・制度・事業運営面でのボトルネックを解消していくことが求められます。
2040年のワット・ビット連携の全体像

詳細はレポート本文をご参照ください。
3. 今後の予定
ワット・ビット連携は、具体的な取り組みが今後進展する見込みです。MRIは情報通信分野、エネルギー分野、地方創生分野の知見を統合し、ワット・ビット連携の実現に向け、データに基づく分析および政策提言、実装支援を継続します。
レポート全文
【提言】ワット・ビット連携:AI時代のインフラ国富論 [2.8MB]
https://www.mri.co.jp/knowledge/insight/policy/i5inlu000002np58-att/nr20251008pec.pdf
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