戦後75年目の夏、新史料をもとに、太平洋の孤島で日米が激突した「ガダルカナルの戦い」の全貌と「軍という組織」の病理に迫ったノンフィクション『ガダルカナル 悲劇の指揮官』、発売。関連番組の放送も。
大きな反響を呼んだNHKスペシャル「激闘ガダルカナル 悲劇の指揮官」(2019年8月放送)の待望の出版化。NHKスペシャル取材班による書き下しです。
1942年、太平洋戦争で快進撃を続けてきた日本軍が、一転、敗北の道を突き進んでいく端緒となったガダルカナル島の戦い。上陸した3万1400名の兵士のうち、6000名が戦死。飢餓や病気で1万5000名が命を落としました。南太平洋の島で、いったい何があったのか。『ガダルカナル 悲劇の指揮官』(2020年7月30日刊)が、戦場の真実と、学ぶべき教訓をあぶり出します。
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本書「プロローグ」より抜粋
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至るところに戦争の爪痕が残っていた。地面を少し掘り返すと、次々と日本兵の持ち物が現れる。ガスマスク、ヘルメット、飯盒、メガネ、金歯。無数の生きた人間がいた証だ。遺骨は、全身の骨が見つかるものと、一部分しか見つからないものの二種類があった。そばにいた者が埋葬していれば、全身の骨が出てくる。しかし誰にも看取られることなく孤独に死んだ場合や、傍らの仲間が、飢えや疲労から死者を埋葬する余力が残っていない場合、死体は放置され、地表で骨となっていく。ジャングルに雨が降ると、雨水が土砂とともに遺骨を方々に流してしまう。一部分しか見つからない遺骨の方が圧倒的に多かった。
何故兵士たちは、故郷から遠く離れたジャングルで無残な死を遂げなければならなかったのか。
謎を解くカギは、兵を率いる指揮官にあるのではないか。
指揮官の決断が、戦場の様相を一変させ、兵士たちの生死を左右するからだ。巨大組織だった日本軍には、中央の大本営から各地の軍司令部まで、それぞれに指揮官や参謀がいた。現代の会社組織と変わらない人事異動があり、緊密なネットワークでつながっていた。軍も企業も組織をあげて追求する戦略があり、それを達成するための作戦があり、個々の戦場に適した戦術が選ばれる。指揮官が誤った判断を下したり、あるいは迷って決断を先送りにして敵に先手を取られたりしたら、たちまち部隊は全滅の危機に瀕する。指揮官を補佐し、作戦を立案する参謀の役割も極めて重大だった。
ガダルカナルの戦いにおける日本軍の失敗は、決して遠い過去のものではない。その過ちを検証することで、現代にも共通する組織のジレンマやリーダーシップの欠陥をえぐり出すことができるに違いない。陸海軍の指揮官たちが直面した孤独や迷い、そして決断の道程をつぶさに見ていくことで、これまで秘密のヴェールに包まれてきた悲劇の真相に迫ることができるはずだ。
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発見されたアメリカ海兵隊の戦闘記録や初公開の日本軍将校の日記を通じて、最前線の指揮官たちの苦難の原点を探り、日本軍にはびこっていた組織の欠陥を明らかにします。希望的観測で敵兵力を見誤り無謀な計画を立てた作戦参謀、あやまちを認めず反省を拒んだ陸海軍のトップ、責任逃れの隠蔽工作や国民を欺く情報操作に手を染めた大本営。島で全滅した一木支隊の指揮官一木清直大佐もまた組織の軋轢という悲劇に呑み込まれていた事実……。戦後75年目の夏、「地獄の島」の実相が解き明かされます。
関連番組:2020年8月12日の「歴史秘話ヒストリア」(NHK総合、午後10時~10時45分)で、「ガダルカナル 大敗北の真相」、放送予定!
■『ガダルカナル 悲劇の指揮官』構成
プロローグ
巻頭MAP
第一章 発見された戦闘記録
幻のフィルム/アメリカ軍の戦略
恐怖に震えた海兵隊指揮官/浮き彫りになった「苦戦」
ガダルカナルのトラウマ/日本軍は 「スーパーマン」
新発見の戦闘報告書一万ページ
第二章 陸海軍協同作戦
大本営の男たち/運命の日
危機を予見できなかったのか/ラバウル航空隊の反撃
不協和音/陸軍の無知と自信
冷静な情勢分析
第三章 暗闇の死闘
沈没船の墓場/闇夜の“殴り込み”
ニアミス/戦場の“興奮”
アメリカ海兵隊の衝撃/大勝利の陰のほころび
第四章 陸軍精鋭部隊投入
最強部隊 全滅の謎/大本営の敵戦力判断
一木支隊投入の決断/第一七軍 二見参謀長の苦悩
一木支隊派遣 陸海軍の亀裂
第五章一木支隊全滅
破滅への行軍/偵察部隊戻らず
仕組まれたワナ/大本営の反応
第六章 川口支隊の戦略
ねずみ輸送/魔の密林へ
アメリカ軍の悲痛な叫び/戦いの渦中にいた男
何故同じ失敗を繰り返したのか/陸海軍の相互不信
第七章 辻政信と山本五十六
一進一退/陸軍の本腰
鬼才の登場/山本五十六との直談判
ガダルカナル島の現実/夜戦勃発
日本海軍の奇襲作戦/ザ・ナイトの翌日
第八章 終わらない陸海軍の対立
天下一品の夜/急転直下
火力が届かない/アメリカ兵の士気
繰り返される白兵突撃/再検討のチャンス
なすすべはなかった/根深い対立
第九章 地獄の島
青く美しき渚にて/一日二〇〇メートルしか歩けない
悪夢の行軍/地獄のUターン
大本営は把握していた/強行揚陸
新たな悲劇の始まり/困苦すなわち戦争
組織のメンツ/遅すぎた撤退命令
エピローグ
年表
■商品情報
出版社:NHK出版
発売日:2020年7月30日
定価:1,980円(本体1,800円)
判型:四六判
ページ数:304ページ
ISBN:978-4-14-081824-4
URL: https://www.nhk-book.co.jp/detail/000000818242020.html
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