【提言】人口減少社会における地域レジリエンスの実現に向けて
居住エリアのコンパクト化がもたらす効果とその実現可能性
株式会社三菱総合研究所(代表取締役社長:籔田健二、以下 MRI)は、今後の少子高齢化が進む日本において、人口規模が小さくても社会インフラを維持でき、災害時にも回復力(レジリエンス)を発揮できる地域の実現に向けた方向性を、国内全市区町村を対象とした数値シミュレーション、および2,000名のモニターを対象としたアンケート調査の結果に基づいて提言します。
1. 背景
公助のひっ迫が指摘されている今日、平時から地域全体で「災害に備えて優先的に守るもの」や「効果的な復興の道筋」について共通認識を持つことは極めて重要です。将来的な人口減少を前提とすれば、被災した後に被災前の状態へ「原状回復」することは将来世代に過大な費用負担を強いるだけでなく、インフラや公共施設の過剰供給にもつながる可能性があるからです。そのため、地域の将来の人口規模に見合った現実的なビジョンを共有し、平時からコンパクトなまちづくりを推進する必要があります。さらに、それに連動した復興計画を事前に策定しておくことで、万が一災害が発生した際にも、地域の持続可能性を高めることができます。
MRIでは上述の問題意識に基づき、2024年12月に「人口減少社会における地域レジリエンスのあり方」を提言しました。今回は、その実現可能性を高めるために「居住エリアのコンパクト化」に着目した分析結果に基づいて提言します。
2. 概要
「居住エリアのコンパクト化」がもたらす効果とコンパクト化の実現可能性について、数値シミュレーションとアンケート調査の結果に基づいて検討しました。主なポイントは以下の3点です。
人口あたり土木費が50年後に倍増する自治体も。小規模自治体は積極的なコンパクト化が必須
-
数値シミュレーションによると、人口減少に合わせた「穏やかなコンパクト化」だけでは、住民1人あたりの土木費歳出を現状の水準で維持するには不十分であり、より「積極的な地域内中心地区への転居促進策」が必要(図表1)。
-
一方で、例えば現在人口が1万人未満の自治体では、平均値ベースで「住民の12%が8kmの転居」をこの先50年以内に実現できれば、50年後も1人あたりの土木費歳出が現在と同等の水準に保たれ、さらに転居協力者は生活の利便性が高まる。
-
上記の受け止めについて、生活上不便な場所に住む方々へのアンケート調査では、「地域内中心地区への転居」に対する協力が得られる可能性が十分にある。
図表1: 1人あたり土木費歳出(推計)の増加率 (2070年/2025年比)

居住エリアのコンパクト化は住民の人生に寄り添う長期戦の覚悟で
-
数値シミュレーションによると、「今すぐ対策に着手」し、かつ「少しずつ・長期にわたってコツコツと継続」することで、50年先にも現在と同等の住民1人あたり土木費歳出を維持できる可能性がある(図表2)。長期間をかけるこのアプローチは、リロケーションダメージ(生活環境の急変による心身への悪影響)やコンフリクト(関係者同士の意見対立)を抑えるうえでも有効。
-
アンケート調査の結果、生活上不便な場所に住む方々は、30代という若いうちから将来の住まいに対する不安を抱えているものの、「地域内中心地区への転居」に対する関心が極めて低い。
-
従って、30代のうちから住民がライフステージの変化に合わせた住まい方を具体的にイメージできるような情報提供の強化が必要。また、行政や関連企業、地域コミュニティが連携し、個々の住民の生涯にわたる住まい替え行動をプッシュ型で後押しする仕組みの構築や、個人の価値観や状況に応じたきめ細やかな支援策の検討が必要。
図表2: 1人あたり土木費歳出(推計)の増加率 (各年/2025年比)

人口減少の問題は「地域レジリエンス経営」の問題として包括的に捉える
-
地域のレジリエンスを高めるためには、①次世代・世界を引き付ける魅力のある地域産業・ブランドの確立、②インフラや住宅、公共施設をコンパクトかつ効率的に配置する都市計画、③少子高齢化に即した新たな地域運営の仕組みの3要素を同時に強化する必要がある(図表3)。本提言で示した方策は、手を打つ必要のある数あるオプションのうちの一つ。
-
人口減少が引き起こす各種の問題や現象を、それぞれ単一のものとして解決を図るのではなく、人口減少に端を発する一連の問題として全体の構造を捉え、専門分野や世代を超えて地域レジリエンスの3要素を同時に鍛え上げていく新しい地域経営の実現が重要。
-
地域レジリエンスの3要素を地域の実情に合わせて複合的に実施する「地域レジリエンス経営」の推進には、専門分野や部局を超えた対応を可能とする体制整備と制度改革、そしてリーダー層のマインドセット変容とスキル習得を支援する取り組みが不可欠
図表3: 地域のレジリエンスを高める3つの要素

詳細はレポート本体をご参照ください。
3. 今後の予定
災害の激甚化が懸念される昨今、防災・レジリエンスの重要性は今後ますます高まります。MRIでは政策提言からコンサルティング、ソリューション提供などを通して、都市・地域・企業の持続的な発展に寄与する活動をこれからも続けます。
レポート全文
【提言】人口減少社会における地域レジリエンスの実現に向けて [4.2MB]
https://www.mri.co.jp/knowledge/insight/policy/i5inlu000002pm73-att/nr20251020pec.pdf
本件に関するお問い合わせ先
株式会社三菱総合研究所
〒100-8141 東京都千代田区永田町二丁目10番3号
【内容に関するお問い合わせ】
政策・経済センター 山口健太郎、古市佐絵子、山崎大夢、木根原良樹
電話:03-6858-2717 メール:pecgroup@mri.co.jp
【報道機関からのお問い合わせ】
広報部
メール:media@mri.co.jp
すべての画像