新型コロナウイルスによる肺炎CT画像のAIによる解析手法開発
~ COVID-19胸部CT画像典型度分類において83.3%の精度を達成 ~
順天堂大学は日本医学放射線学会所属の施設(東京大学、京都大学、大阪大学、九州大学、慶応義塾大学など)の研究代表機関として、国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学、国立情報学研究所などと共同で、新型コロナウイルス(COVID-19)肺炎CT画像をAIによって解析する手法を開発いたしました。人工知能技術(AI)を用いることで、胸部CT画像を入力すると、そのCT画像のCOVID-19肺炎典型度(*)を判定できるようになっています。また、この解析を可能とするために、炎症などによって肺の形状がCT画像上で非常に識別しづらいような場合でも、AIが的確に肺の形状を推定できる手法も実現しています。今回開発された手法を用いたCOVID-19肺炎が疑わしい症例とそうでない症例の識別において、令和2年8月時点83.3%程度の典型度識別性能を達成しました。
本研究では、日本医学放射線学会と国立情報学研究所が中心となって進め、AMEDが支援するプロジェクト「臨床研究等ICT基盤構築・人工知能実装研究事業」「医療ビッグデータ利活用を促進するクラウド基盤・AI画像解析に関する研究」において構築・運用される画像情報収集プラットフォーム上に収集された、我が国におけるCOVID-19症例のデータベースが重要な役割を果たしています。ここでは国立情報学研究所が全国に展開する超高速学術情報ネットワークSINET5も大容量CT画像の収集とAI研究に大変役立っています。今後もこれらのシステムを活用して、さらなる精度向上が見込まれます。
*)放射線診断専門医がCT画像を以下の4つに分類した。1.COVID-19肺炎に典型的な所見を有するもの、2.典型的とは言えない非特異的な所見で不確定なもの、3.非典型的なもの、4.肺炎の所見がないもの。これらを2群に分けて、COVID-19肺炎典型度の高い疑わしい症例(1と2)とそうではない症例(3と4)とした。
背景
2019年末ごろに発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は急速に世界に広まり、多数の患者が発生しています。2020年8月上旬における世界の累計感染者数は約3200万人、死亡者数は約98万人となっています[1]。本邦の累計感染者数は約8万人、死亡者数は約1500人で[2]、さらに増加を続けています。COVID-19患者に対し適切な治療を行い、他者への感染を防ぐ上で、正確な診断方法が必要とされています。現在、COVID-19の検査ではRT-PCR(reverse transcriptase polymerase chain reaction)が多く用いられますが、その感度は、42~71%と低い値が示されています[3]。これに対し、CT画像によるCOVID-19検査の感度は97%と高いといった特徴があります[4]。日本は人口あたりのCT撮影装置保有数が高いことから、COVID-19検査におけるCT画像の活用が有用となることが考えられます。こうした背景から、CT画像を用いた医師の診断を支援し、判断の定量化を目指す上で、コンピュータによる肺の状態の定量評価手法の確立が求められています。そこで、本研究の実施においては、日本医学放射線学会と国立情報学研究所が中心となって進め、AMEDが支援するプロジェクト「医療ビッグデータ利活用を促進するクラウド基盤・AI画像解析に関する研究」の画像情報収集基盤で収集された、我が国におけるCOVID-19症例のデータベースを活用し、新型コロナウイルスによる肺炎CT画像のAIによる解析手法開発に取り組みました。
開発された技術
今回、名古屋大学をはじめとする研究グループでは、COVID-19症例のCT画像をAIによって解析する手法を開発いたしました。この研究開発においては、
(1) 炎症により肺領域の境界の識別が難しい症例でもAIが的確に識別する手法実現 (図1)
(2) 肺領域内部の領域を障害の程度に応じて3つの領域に自動分類 (図2)
(3) 胸部CT画像のCOVID-19肺炎典型度をAIが的確に判断
の3つの技術開発がなされています。それぞれの処理において、ニューラルネットワークやクラスタリングなどのAI / 機械学習の技術を用いています。
なお、本研究の一部は、2020年9月に開催された第39回日本医用画像工学会大会にて発表しました。
医療ビッグデータ利活用を促進するクラウド基盤
本研究の実施にあたっては、日本医学放射線学会、国立情報学研究所、ならびに、医用画像に関連する臨床学会が中心となって運用されている「医療ビッグデータ利活用を促進するクラウド基盤」(以下、クラウド基盤と略記)を活用しています。これは、国内の病院等からCT画像などを収集し、匿名化等の処理を行ったうえで、学術ネットワークSINET5を介して国立情報学研究所が運営するクラウドコンピューティング基盤へ転送し、蓄積するものです。画像処理研究者はこのクラウド基盤にアクセスし、医用画像AIの研究開発を行います。医用画像AIにおいて、データは極めて重要です。本クラウド基盤には、CT画像に限ってみても、1億6千万以上の画像が格納されています。また、全国の様々な臨床機関から収集されるデータベースとなっていることにも特色があります。特に医用画像AIの研究では、一病院だけではなく、様々な病院で取得された多様な画像を用いてAIを学習させることが重要となります。本クラウド基盤はこのような医用画像AI研究を可能とするものであり、このクラウド基盤を核として画像処理研究者が集結しています。
今回のプレスリリースにおけるCOVID-19肺炎のCT画像処理においても、本クラウド基盤の特色が生かされ、国家的な緊急課題への対処にも、本基盤やSINET5ネットワークが有効であることが確かめられました(表1)。
[1] Coronavirus Update, https://www.worldometers.info/coronavirus/(2020年8月11日アクセス)
[2] 厚生労働省 国内の発生状況など, https://www.mhlw.go.jp/stf/covid-19/kokunainohasseijoukyou.html
[3] Simpson S, Kay FU, Abbara S, et al.: Radiological Society of North America Expert Consensus Statement on Reporting Chest CT Findings Related to COVID-19. Endorsed by the Society of Thoracic Radiology, the American College of Radiology, and RSNA. Radiology: Cardiothoracic Imaging 2(2): 2020
[4] Ai T, Yang Z, Hou H, et al.: Correlation of Chest CT and RT-PCR Testing for Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) in China: A Report of 1014 Cases. Radiology 296(2): 2020
*)放射線診断専門医がCT画像を以下の4つに分類した。1.COVID-19肺炎に典型的な所見を有するもの、2.典型的とは言えない非特異的な所見で不確定なもの、3.非典型的なもの、4.肺炎の所見がないもの。これらを2群に分けて、COVID-19肺炎典型度の高い疑わしい症例(1と2)とそうではない症例(3と4)とした。
背景
2019年末ごろに発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は急速に世界に広まり、多数の患者が発生しています。2020年8月上旬における世界の累計感染者数は約3200万人、死亡者数は約98万人となっています[1]。本邦の累計感染者数は約8万人、死亡者数は約1500人で[2]、さらに増加を続けています。COVID-19患者に対し適切な治療を行い、他者への感染を防ぐ上で、正確な診断方法が必要とされています。現在、COVID-19の検査ではRT-PCR(reverse transcriptase polymerase chain reaction)が多く用いられますが、その感度は、42~71%と低い値が示されています[3]。これに対し、CT画像によるCOVID-19検査の感度は97%と高いといった特徴があります[4]。日本は人口あたりのCT撮影装置保有数が高いことから、COVID-19検査におけるCT画像の活用が有用となることが考えられます。こうした背景から、CT画像を用いた医師の診断を支援し、判断の定量化を目指す上で、コンピュータによる肺の状態の定量評価手法の確立が求められています。そこで、本研究の実施においては、日本医学放射線学会と国立情報学研究所が中心となって進め、AMEDが支援するプロジェクト「医療ビッグデータ利活用を促進するクラウド基盤・AI画像解析に関する研究」の画像情報収集基盤で収集された、我が国におけるCOVID-19症例のデータベースを活用し、新型コロナウイルスによる肺炎CT画像のAIによる解析手法開発に取り組みました。
開発された技術
今回、名古屋大学をはじめとする研究グループでは、COVID-19症例のCT画像をAIによって解析する手法を開発いたしました。この研究開発においては、
(1) 炎症により肺領域の境界の識別が難しい症例でもAIが的確に識別する手法実現 (図1)
(2) 肺領域内部の領域を障害の程度に応じて3つの領域に自動分類 (図2)
(3) 胸部CT画像のCOVID-19肺炎典型度をAIが的確に判断
の3つの技術開発がなされています。それぞれの処理において、ニューラルネットワークやクラスタリングなどのAI / 機械学習の技術を用いています。
なお、本研究の一部は、2020年9月に開催された第39回日本医用画像工学会大会にて発表しました。
医療ビッグデータ利活用を促進するクラウド基盤
本研究の実施にあたっては、日本医学放射線学会、国立情報学研究所、ならびに、医用画像に関連する臨床学会が中心となって運用されている「医療ビッグデータ利活用を促進するクラウド基盤」(以下、クラウド基盤と略記)を活用しています。これは、国内の病院等からCT画像などを収集し、匿名化等の処理を行ったうえで、学術ネットワークSINET5を介して国立情報学研究所が運営するクラウドコンピューティング基盤へ転送し、蓄積するものです。画像処理研究者はこのクラウド基盤にアクセスし、医用画像AIの研究開発を行います。医用画像AIにおいて、データは極めて重要です。本クラウド基盤には、CT画像に限ってみても、1億6千万以上の画像が格納されています。また、全国の様々な臨床機関から収集されるデータベースとなっていることにも特色があります。特に医用画像AIの研究では、一病院だけではなく、様々な病院で取得された多様な画像を用いてAIを学習させることが重要となります。本クラウド基盤はこのような医用画像AI研究を可能とするものであり、このクラウド基盤を核として画像処理研究者が集結しています。
今回のプレスリリースにおけるCOVID-19肺炎のCT画像処理においても、本クラウド基盤の特色が生かされ、国家的な緊急課題への対処にも、本基盤やSINET5ネットワークが有効であることが確かめられました(表1)。
表1 新型コロナウイルス肺炎CT画像をAIによって解析する手法を開発(まとめ) - 炎症により肺領域の境界の識別が難しい症例でもAIが的確に識別 - 肺領域内部の領域を障害の程度に応じて3つの領域に自動分類 - 胸部CT画像のCOVID-19肺炎典型度をAIが的確に判断 - 国立情報学研究所を中心とした「医療ビッグデータ利活用を促進するクラウド基盤」と学術情報ネットワーク「SINET5」を活用 |
参考文献
[1] Coronavirus Update, https://www.worldometers.info/coronavirus/(2020年8月11日アクセス)
[2] 厚生労働省 国内の発生状況など, https://www.mhlw.go.jp/stf/covid-19/kokunainohasseijoukyou.html
[3] Simpson S, Kay FU, Abbara S, et al.: Radiological Society of North America Expert Consensus Statement on Reporting Chest CT Findings Related to COVID-19. Endorsed by the Society of Thoracic Radiology, the American College of Radiology, and RSNA. Radiology: Cardiothoracic Imaging 2(2): 2020
[4] Ai T, Yang Z, Hou H, et al.: Correlation of Chest CT and RT-PCR Testing for Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) in China: A Report of 1014 Cases. Radiology 296(2): 2020
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