ネットワーク科学の視点から、燃焼振動の挙動解明と抑制

東京理科大学

【研究の要旨とポイント】

 

燃焼振動は燃焼器内で生じる熱音響自励現象であり、燃焼器の破損を引き起こすことがある。

噴霧燃焼振動で形成される大スケールの組織渦構造とネットワーク特性の関係を明らかにした。

乱流ネットワークのコネクターコミュニティに障害物を設置し、噴霧燃焼振動の抑制を行った。

【研究の概要】

東京理科大学工学部機械工学科 後藤田 浩 教授、難波江 佑介 助教、東京理科大学大学院機械工学専攻 加藤 健太(2024年度修了)は、京都大学大学院工学研究科機械理工学専攻 黒瀬 良一 教授、河合 真穂(博士課程1年)との共同研究により、バックステップ型燃焼器で発生する噴霧燃焼振動の挙動解明と抑制を行った。(I) 噴霧燃焼振動の乱流ネットワーク (*1) にスケールフリー性(*2)が現れる。(II) 乱流ネットワーク内に主要なハブ(*3)が形成される。(III) 乱流ネットワークのコミュニティ(*4)を抽出し、コネクターコミュニティ(*5)が形成される領域に障害物を設置することで、噴霧燃焼振動が抑制される。

本研究成果は、2025年7月2日に米国物理学会(American Physical Society)の学術誌Physical Review Applied」にオンライン掲載されました。

【研究の背景】

燃焼振動とは、燃焼器内の圧力変動、火炎からの発熱率変動、流速変動が相互に影響し合うことで生じる熱音響自励振動である。燃焼振動の発生は、燃焼器の致命的な破損やライフサイクルの低下につながる。そのため、燃焼振動の挙動・機構解明や予兆検知・抑制法の開発は重要な研究課題である。液体燃料を用いる噴霧燃焼では、燃料液滴の微粒化や蒸発などの相変化プロセスが加わり、燃焼振動の挙動は気体燃焼の場合よりも複雑になる。共同研究者らのグループは、このような複雑な噴霧燃焼振動の挙動や詳細な形成機構を明らかにしつつある(Pillai et al., Combustion and Flame, vol. 220, 337, 2020) 。そして、本グループと共同研究者のグループは、数理情報科学の観点から噴霧燃焼振動の挙動解明と駆動領域の推定に詳細な検討を加えつつある (Kato et al., Physical Review E, vol. 110, 024204, 2024) 。本論文では、噴霧燃焼振動において形成される大スケールの組織渦構造とネットワーク特性の関係を解明し、噴霧燃焼振動の抑制を目的とする。

【研究結果の詳細】

図1に乱流ネットワークのノード強度の空間分布と確率密度関数を示す。圧力変動が極大となるとき(時刻= 135.67 ms)、ステップ近傍に形成される大規模な組織渦は高いノード強度をもつ。この領域は音響エネルギー流束に基づく空間ネットワークの領域とほぼ対応しており、燃料液滴の巻き込みを伴う大規模な組織渦が音響エネルギーの生成に重要となる。また、ノード強度の確率密度関数にはべき乗則が観察され、大規模な組織渦が形成されるときにスケールフリー性が現れる。大規模な組織渦が崩壊するとき、スケールフリー性が消失する。これらの結果から、乱流ネットワークのスケールフリー性は、組織渦の形成・消失と密接に関連しているといえる。図2に燃焼器の鉛直方向に空間平均した乱流ネットワークのノード強度の時空構造を示す。ステップ近傍から組織渦の形成領域まで高いノード強度が観察され、不均一に多数のリンクを持つネットワークのハブが形成される。ハブはほぼ同じ空間領域に形成されるが、組織渦の崩壊により不規則な挙動となる。図3に乱流ネットワークのコネクターコミュニティの出現数を示す。1.0 ≤ x/H ≤ 2.0, 0.8 ≤ y/H ≤ 1.0の領域で、コネクターコミュニティの出現数が高くなる。そこで、この領域を覆うように、小さな長方形の障害物を燃焼器内に配置し、燃焼振動の抑制を試みた。図4で示されるように、障害物の設置によって、燃焼室内の圧力振幅とパワースペクトル密度のピーク値は顕著に減少し、噴霧燃焼振動が抑制された。

図1(A) 乱流ネットワークのノード強度の空間分布

図1(B) 強度の確率密度関数: (a) t = 135.67 ms, (b) = 136.17 ms

図2 燃焼器の鉛直方向に空間平均した乱流ネットワークのノード強度の時空構造

(a) t = 135.3 ms, (b) = 135.7 ms, (c) = 136.1 ms.

図3 乱流ネットワークのコネクターコミュニティの出現数

図4(a) 障害物の設置位置

図4(b) 障害物を設置したときの圧力変動とパワースペクトル密度の変化

【用語】

*1: 乱流ネットワーク

 渦同士の相互作用に着目した複雑ネットワーク。複雑ネットワークとは、多くの要素(ノード)とそれらを結ぶリンクから構成され、複雑な構造を持つネットワーク。現実世界で見られるネットワークは、スケールフリー性・スモールワールド性などの特徴的な構造が見られる。具体例として、インターネットの接続網、公共交通機関の路線網、SNSのフォロー関係、生態系の食物連鎖などが挙げられる。

*2: スケールフリー性

 ノードの接続数(次数)がべき乗則に従う性質。この性質をもつネットワークでは、ごく一部のノードが非常に多くのリンクを持ち、残りの多くのノードはごく少数のリンクしか持たない。

*3: ハブ

 ネットワークにおいて、他のノードよりも多くのリンクを持つ主要なノード。

*4: コミュニティ

 ネットワーク内におけるノード同士が特に密につながった部分。各コミュニティは内部で密につながり、外部とのつながりは比較的少ない。

*5: コネクターコミュニティ

各コミュニティにおけるparticipation coefficient(自身のコミュニティ以外のコミュニティとどれだけ接続されているかを表す指標)の平均値が最も高いコミュニティ。

【論文情報】

雑誌名

:Physical Review Applied

論文タイトル

:Network dynamics and suppression of  spray combustion instability 

 in a backward-facing step combustor

著者

:Kenta Kato, Hiroshi Gotoda, Yusuke Nabae, Maho Kawai, 

 and Ryoichi Kurose

DOI

https://doi.org/10.1103/zhkg-c3kh

【参考論文の情報】

雑誌名

:Physical  Review E

論文タイトル

:Dynamic behavior and driving region of spray combustion instability 

 in a backward-facing step combustor

著者

:Kenta Kato, Jun Nagao, Hiroshi Gotoda, Yusuke Nabae, 

 and Ryoichi Kurose

DOI

https://doi.org/10.1103/PhysRevE.110.024204

【発表者】

後藤田 浩

東京理科大学工学部機械工学科  教授 

難波江 佑介

東京理科大学工学部機械工学科  助教

加藤 健太

東京理科大学大学院機械工学専攻 修士課程 修了(2024年度)

黒瀬  良一

京都大学大学院工学研究科機械理工学専攻  教授

河合  真穂

京都大学大学院工学研究科機械理工学専攻  博士課程1年(2025年度)

【研究に関する問い合わせ先】

東京理科大学 工学部 機械工学科 教授 

後藤田 浩(ごとうだ ひろし)

E-mail:gotoda【@】rs.tus.ac.jp

【報道・広報に関する問い合わせ先】

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