【国立科学博物館】1種のハチが9回新種記載されていた!体長3mmのハチがもつ特殊な生態がもたらした混乱に終止符
本研究は、クヌギハケタマバチの形態的特徴を最新の分類体系に合わせて明確化し、本種に与えられた複数の学名を1つに整理することで、その学名の使用における混乱を解消するとともに、タマバチ科における生態解明の重要性を強調したものです。
本研究成果は、2021年4月6日、アメリカ昆虫学会が発行する国際学術雑誌『Annals of the Entomological Society of America』のオンライン版に掲載されました。
【クヌギハケタマバチの成虫と虫こぶ(単性世代)】虫こぶはクヌギの葉につくられ、その内部を食べて幼虫が育つ。身近な公園にも生息。
- 研究の背景
タマバチ科は世界で約1,400種が知られる、体長1~6mmほどの小型のハチで、日本からも80種以上が記録されています。その多くは身近な公園などにも生息し、「どんぐりの木」として知られるコナラ属の樹木に「虫こぶ」という巣のようなものをつくって暮らしています。虫こぶの形やつくられる部位はさまざまで、タマバチの種ごとに決まっています。
コナラ属に虫こぶをつくるタマバチの多くの種は、年2回成虫が出現します。このうち1回はオスとメスが出現しますが、もう1回はメスだけしか出現せず、単為生殖をおこないます。前者を両性世代、後者を単性世代とよびます。この両性世代と単性世代の間では、虫こぶの形やつくられる部位、さらには成虫の形態までもが同種とは思えないほど異なっている場合がほとんどで、誤ってそれぞれが別種として扱われていることもあります。
【クヌギハケタマバチの生態】オスとメスがいる両性世代とメスだけの単性世代を交互にくり返す。成虫の姿、虫こぶの形やつくられる部位は2つの世代で異なる。
- 研究の内容
さらにこの標本を、オランダのマーストリヒト自然史博物館、アメリカのスミソニアン国立自然史博物館に所蔵される日本産のタマバチのタイプ標本※や新種記載がおこなわれた論文中の記述、九州大学や国立科学博物館に所蔵される日本産のタマバチの野外採集標本と比較し、過去にクヌギハケタマバチの2つの世代が別種として扱われていないかを調査しました。
その結果、クヌギハケタマバチは1904年に初めて新種記載されて以降、9回にわたって新種として発表されていたことが判明しました。最初に新種記載されて以降、両性世代と単性世代の結びつけや種内での形態変異の幅が十分に明らかにされないままであったことが、1つの種が何度も新種記載されるに至った主な要因と考えられます。
そこで、1904年にクヌギハケタマバチの単性世代に最初に与えられた学名を有効な学名として残し、最新の分類体系に合わせて、ケロネウロテルス・ヤポニクス(Cerroneuroterus japonicus)とするとともに、その他の学名をその異名とすることで、本種に対して複数存在していた学名を1つに整理し、本種の学名の使用における混乱を収拾しました。
※タイプ標本:新種記載の際の根拠とされた(または指定された)標本。
【クヌギハケタマバチの虫こぶ(両性世代)】クヌギの雄花につくられ、綿のようにふわふわとした毛で覆われる。
【クヌギハケタマバチの成虫(両性世代)】単性世代の成虫より体は一回り小さく、橙色と黒色のツートンカラーの体色が特徴。
- 今後の展望
■発表雑誌:Annals of the Entomological Society of America
■論文タイトル:The heterogonic life cycles of oak gall wasps need to be closed: a lesson from two species of Dryophanta (Hymenoptera: Cynipidae: Cynipini)
■著者: Tatsuya Ide、Yoshihisa Abe
■2021年4月6日 オンライン公開
本研究はJSPS科研費JP17H07387、JP19H00942の助成を受けたものです。
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