共生菌が植物培養細胞の“眠れる代謝能力”を呼び起こす ~共培養による有用化合物の効率的生産技術の開発~

東京理科大学

【研究の要旨とポイント】

 

植物培養細胞は有用化合物生産の有望な手段ですが、生産可能な化合物の種類は限られており、潜在的な代謝能力を引き出す新たな手法が求められています。

本研究では、植物の内部で生息する共生細菌(植物内生細菌)と共培養することで、植物培養細胞の代謝が大きく変化することを見出しました。

多くの場合、微生物との共培養は植物培養細胞の増殖を阻害しますが、本研究で対象とした植物内生細菌との共培養では増殖への悪影響はありませんでした。

医薬品や機能性素材の開発につながる基盤技術として今後の応用が期待されます。

【研究の概要】

東京理科大学 創域理工学部 生命生物科学科の古屋 俊樹教授、橋本 貴史助教、同大学大学院 創域理工学研究科 生命生物科学専攻の相川 結衣氏(2022年修士課程修了)、籔内 彩乃氏(2024年修士課程修了)、金子 宏槻氏(2022年修士課程修了)らの研究グループは、植物培養細胞であるタバコ培養細胞BY-2(BY-2細胞)とコマツナから分離した植物内生細菌Delftia sp. BR1R-2(BR1R‐2株)を共培養することで、BY-2細胞の増殖を妨げることなく代謝を大きく変化させられることを明らかにしました。本研究は、有用化合物生産の新たな基盤技術の開発につながる成果であり、将来的には医薬品や機能性素材の開発に貢献できると期待されます。

植物は医薬品や機能性素材の原料となる多様な化合物を生産します。植物培養細胞(*1)は、屋内で培養可能で天候や季節に左右されず、効率的に培養生産が可能なことから、安定的に有用化合物を製造する手段として注目されています。しかしながら、植物培養細胞を用いて生産可能な化合物は未だごく少数に留まっており、その潜在的な代謝能力を引き出す新たな手法の開発が求められています。

そこで本研究では、植物の成長や機能に深く関わる植物内生細菌(*2)に着目しました。具体的には、当研究グループが以前コマツナから分離した植物内生細菌BR1R‐2株とBY-2細胞の共培養を行い、植物内生細菌が植物培養細胞の生育および代謝に及ぼす影響について詳細な解析を行いました。

その結果、BR1R‐2株はBY-2細胞の増殖を阻害することなく、代謝プロファイルを大きく変化させることがわかりました。さらに、BR1R-2 株がBY-2細胞において防御関連遺伝子の発現および抗菌化合物の産生を誘導していることも明らかとなりました。

本研究成果は、植物培養細胞の代謝プロファイルを改変して有用化合物を生産する手法として、内生細菌の活用が有望であることを示しています。本手法は、医薬品や機能性素材の開発へ展開できる基盤技術として、今後の応用が期待されます。

本研究成果は、2026年1月8日に国際学術誌「Microbial Biotechnology」にオンライン掲載されました。

【研究の背景】

単独培養では得られない化合物を生産できる手法として、異なる二種類以上の細胞や微生物を同時に培養し、それらの相互作用を利用する共培養技術があります。これまで、微生物同士の共培養が広く研究されてきた一方で、微生物と植物培養細胞の共培養の研究は微生物同士の共培養ほど進んでいません。その理由の一つとして、微生物が植物培養細胞の増殖を阻害し、細胞死を引き起こしやすいことがあります。

しかし、微生物は非常に多様であり、植物培養細胞の増殖を阻害しない種も存在する可能性があります。実際、植物の体内には、植物内生細菌と呼ばれる病原性のない微生物が生息しています。そこで、本研究グループはもともと植物体内に共生している内生細菌であれば、植物培養細胞とも良好に共存できるのでないかという着想に至りました。

古屋教授らはこれまでに、コマツナから分離した植物内生細菌BR1R‐2株が、植物の免疫を活性化することを報告しています。そこで本研究では、このBR1R‐2株を植物培養細胞であるBY-2細胞と共培養し、植物内生細菌が植物培養細胞の生育および代謝に及ぼす影響について詳細な解析を行いました。

【研究結果の詳細】

本研究では、コマツナから分離した植物内生細菌Delftia sp. BR1R-2株を使用しました。この菌株は、シロイヌナズナの植物体の成長を阻害することなく免疫を活性化する性質を有します。そこで、このBR1R-2株をタバコ培養細胞BY-2と液体培地中で共培養し、その影響を調べました。その結果、比較対象として使用した植物病原菌や大腸菌は、BY-2細胞との共培養により、細胞死を誘導し、増殖を阻害した一方で、BR1R‐2株はBY-2細胞の増殖にほとんど影響を与えませんでした(図1)。

図1. 各種細菌をBY-2細胞と共培養した際の増殖(A)と、死細胞率(B)の変化。

グレーのダイヤは微生物なし、赤の丸はBR1R-2株、緑の三角は軟腐病菌、青の四角は大腸菌との共培養を示す。

さらに、共培養したBY-2 細胞の代謝産物を高速液体クロマトグラフィー(*3)で解析した結果、代謝産物のプロファイルが大きく変化していることを確認しました(図2)。有意に増加した化合物を調査したところ、化合物はアセトフェノン(*4)誘導体または構造異性体であると推定されました。これより、BR1R-2株は植物培養細胞の増殖を妨げることなく代謝を大きく変化させられることが明らかになりました。

図2. BY-2細胞を単独培養した場合(上)とBR1R-2株と共培養した場合(下)の代謝産物プロファイル。

次に、BR1R-2株とBY-2 細胞の共培養による変化をより詳細に検証しました。トマトの代表的な植物病原体であるPseudomonas syringae pv. tomato DC3000(DC3000株)を用いて、抗菌活性を検討しました。単独培養した BY-2 細胞由来の抽出物は、DC3000 株の増殖に影響を与えなかった一方、BR1R-2株とBY-2細胞を共培養した抽出物は、DC3000 株の増殖を阻害しました。これらの結果より、BR1R-2株がBY-2細胞において抗菌化合物の産生を誘導することが明らかになりました。また、BR1R-2株の共培養がBY-2細胞の遺伝子発現に与える影響をRNA-seq(*5)で解析したところ、防御関連遺伝子の発現量が増加していることがわかりました。

以上の結果より、BR1R-2株とBY-2 細胞の共培養によって、(i) BY-2細胞の防御関連遺伝子の発現が増加、(ii) アセトフェノン類の生産が誘導され、(iii) 細胞抽出物の抗菌活性が高まっていることが明らかになりました(図3)。このことから、タバコ培養細胞は植物内生細菌との相互作用により、免疫応答の一環として抗菌活性などの優れた性質を持つアセトフェノン類を生産することが示唆されました。

図3. 本研究から示唆されたBY-2 細胞との共培養がBR1R-2株の代謝に与える影響。


これらの結果は、植物内生細菌が植物培養細胞の増殖を妨げることなく、代謝を大きく変化させられることを示唆しています。当研究グループが以前ダイコンから分離した植物内生細菌もタバコ培養細胞の代謝プロファイルを大きく変化させました。さらに、これらの植物内生細菌はタバコだけでなくシロイヌナズナの培養細胞にも代謝変化を誘導しました。今回はモデル植物の培養細胞を用いた概念実証を行いましたが、本手法を多様な植物の培養細胞へ展開することで、これまで未利用だった植物代謝能力を活用した有用化合物の生産が可能になると期待されます。

なお、本研究は、植物研究を専門とする東京理科大学の朽津和幸教授らとの共同で行いました。東京理科大学大学院 農理工学際連携コースでは、学問領域や研究室の枠を超えて、農業や食料・環境・エネルギー問題の解決を目指した学際的な研究を展開していますが、今回、同コースに所属する微生物と植物の研究者の共同研究により、こうした新たな研究成果が得られました。

  • 本研究は、日本学術振興会(JSPS)の科研費(20K05812)、長瀬科学技術振興財団の助成金、および野田産業科学研究所の支援を受けて実施されました。

【用語】

*1  植物培養細胞

植物から取り出した細胞を、人工的な培地を用いて増殖させることで作製した細胞。

*2  植物内生細菌

植物の内部に生息し、植物に病気を引き起こさない微生物のことを内生菌(エンドファイト)と言い、それら微生物が細菌の場合、内生細菌と言う。植物の成長や健康維持に深く関与している。

*3  高速液体クロマトグラフィー

液体試料に溶解した成分を分離し、代謝産物やタンパク質などの生体分子を定量分析する手法。

*4 アセトフェノン

植物や微生物が産生する化合物の一種で、一部の誘導体は抗菌活性や防御応答に関与する。

*5  RNA-seq

細胞内のRNAを網羅的に解析し、遺伝子発現を解析する手法。

【論文情報】

雑誌名

:Microbial Biotechnology

論文タイトル

:Plant Immunity–Activating Endophytic Bacteria Induce Dynamic 

   Metabolic Changes in Cultured Plant Cells Without Inhibiting Their 

   Growth

著者

:Yui Aikawa, Ayano Yabuuchi, Hiroki Kaneko, Takafumi Hashimoto, 

   Kazuyuki Kuchitsu, Toshiki Furuya

DOI

10.1111/1751-7915.70297

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未上場
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1881年06月