特集【台湾有事×産業戦略】台湾通信インフラの脆弱性と通信衛星産業の台頭/2025年5月公開〜ワイズリサーチの業界レポート

<台湾情報>最新の産業情報・政策動向を発表、ワイズリサーチ

 ワイズコンサルティング グループ(本社:中華民国台北市、 代表取締役:吉本康志)のワイズリサーチは、2025年5月22日より【台湾有事×産業戦略】特集を公開しました。

 近年、地政学的リスクの高まりを背景に、台湾の通信インフラの脆弱性が深刻な国家的課題として浮上しています。特に、有事における通信・インフラ遮断のリスクと、それに対応する形で進展する宇宙・通信関連産業の台頭は、日本企業にとっても無視できない重要な戦略テーマです。

 ワイズリサーチでは、本特集を通じて、台湾政府の対応、産業構造の変化、技術政策の行方などについて多角的に分析・報道し、台湾を取り巻くリスクとチャンスを、実務的な視点から定期的にお届けしてまいります。

==特集【台湾有事×産業戦略】==

 台湾の通信インフラ、特に海底ケーブルの脆弱性が深刻化しており、国家安全保障はもとより、台湾に拠点を構える企業にとっても大きなリスクとなっている。国際通信の99%を海底ケーブルに依存する台湾では、切断や損傷が発生すれば通信が遮断され、製造、物流、金融、観光など幅広い産業活動が停止しかねない。特に、台湾に拠点を置く、あるいは進出を検討する日本企業にとっては、事業継続計画(BCP)や地政学リスク対策の観点から、この問題への理解と対応は喫緊の課題である。

台湾の海底ケーブル断線の頻発

 2023年初頭、馬祖地域では「台馬二号」「台馬三号」の2本の海底ケーブルが相次いで損傷し、約50日間にわたり通信がほぼ完全に遮断される“インターネット暗黒期”に突入した。バックアップ手段はマイクロ波通信のみで、住民がスマホで1件のメッセージを送るのに20分を要したという。交通、金融、宿泊、物流などのサービスに深刻な麻痺が発生し、生活と産業基盤が脅かされた。

 2019年以降、台湾では年平均7~8件の断線が発生しており、2023年は12件に達した。そのうち8割以上が、浚渫船、貨物船、漁船などによる外的要因に起因している。特に2025年には中国系の便宜置籍船が相次いで断線事故を引き起こし、台湾側の調査では、禁止区域での故意の投錨や航行による破壊が確認された。

衛星通信が最重要なバックアップ手段

 こうした海底ケーブル断線のリスクに対する最重要の代替手段が、低軌道衛星(LEO)による通信である。現在、台湾が導入可能な衛星通信システムには、SpaceXのStarlink、SESのO3b mPOWER、AmazonのProject Kuiper、欧州Eutelsat傘下のOneWebなどがある。

 現時点で最も実現性が高いのはOneWebだが、台湾国内に設置された衛星地上局は10基未満と限定的。全体のバックアップ帯域幅は推定で100Gbps未満であり、最低限必要とされる戦時容量(3Tbps)には30倍以上のギャップが存在する。

 台湾政府は今後2年間で中・低軌道衛星受信機700基を整備する計画を進めているが、制度設計や法整備、民間との連携面では発展途上の段階にある。

有事を契機とした台湾衛星産業の加速と構造変化

 こうした背景のもと、台湾では衛星関連産業の成長が加速している。経済部によると、2024年初めの時点で、台湾企業51社がSpaceXやOneWebから地上機器や高周波部品、プリント基板、アンテナ、電源モジュールなどを受注しており、地上機器分野で世界的な存在感を見せている。さらに、電子機器受託製造サービス(EMS)最大手の鴻海精密工業(ホンハイ・プレシジョン・インダストリー)やノートパソコン受託生産大手の仁宝電脳工業(コンパル・エレクトロニクス)も低軌道通信衛星の分野に参入している。鴻海は台湾の国立中央大学と共同開発した低軌道通信衛星「パール1H」「パール1C」が2023年に打ち上げられた。鴻海は6G時代を見据え、通信モジュール、標準規格、プラットフォーム設計まで含めた垂直統合型の宇宙戦略を展開している。台湾政府も「第3期宇宙計画」の予算を従来の251億元から651億元に拡大し、R&D支援、打ち上げインフラ整備、人材育成に取り組んでいる。

(表1)通信衛星サプライチェーンへの参入台湾企業一覧

日本企業にとっての備えと新たな連携機会

 日本企業にとって、台湾の通信リスクはサプライチェーンのボトルネックであると同時に、新たな協業・調達・投資の機会でもある。

台湾に拠点を持つ企業は、BCPの再構築とともに、衛星通信を含む多層的な通信手段の整備が必要。台湾の衛星地上機器市場や部品産業には、技術提携・調達・共同開発のチャンスが存在する。政府間協力による宇宙通信インフラ整備の共同推進も、今後の地政学的安定性を支える柱となるだろう。

リスクを直視し、戦略に変える視点を

 台湾の通信インフラは、現時点で非常に高いリスクと大きな可能性の両方を併せ持っている。企業としては、リスクに備えるだけでなく、そこに内在する技術革新・産業構造転換のチャンスをどう捉えるかが問われている。

 最悪の事態であるデジタル封鎖と、成長機会としての宇宙産業の飛躍。企業は、どちらの未来にも備えておく必要がある。

※※※執筆者紹介※※※

持ち前の明るく頼れる性格で社内外で前向きなリーダーシップに定評がある。業界・マーケット調査、消費者調査の豊富な経験を有する他、社員研修の講師としても活躍中。ISO27001審査員資格を保有し、クライアントの情報セキュリティ課題もサポート可能。

ワイズリサーチ マネージャー 

段婉婷(ダン・エンテイ)

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【会社概要】
会社名:ワイズコンサルティング グループ
所在地:中華民国台北市襄陽路9號8F
代表者:吉本康志
設立:1996年11月
URL:https://www.ys-consulting.com.tw/
事業内容:
・経営コンサルティング(人事労務・マーケティング・経営戦略・情報セキュリティ)
・人材トレーニング(階層別研修・職種別研修)
・日本語台湾経済ニュース配信
・市場調査・業界調査・顧客調査
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会社概要

URL
https://www.ys-consulting.com.tw/
業種
サービス業
本社所在地
中華民国台北市襄陽路9號8F 富邦銀行襄陽分行大樓
電話番号
-
代表者名
吉本康志
上場
未上場
資本金
7000万円
設立
1996年11月