マイクロプラスチックの体内動態を可視化する技術を確立 ~複数素材に対応した蛍光標識法で実環境に即したリスク評価を加速~
【研究の要旨とポイント】
ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン(PS)のマイクロプラスチック(MPs)粒子に、近赤外蛍光色素を内包させることで、複数素材の蛍光MP粒子を作製することに成功しました。
マウスに経口投与した蛍光MP粒子を、体外から蛍光イメージングで追跡できることを実証しました。
本研究成果はMPsの健康影響や環境動態を定量的に評価するための基盤技術として、今後のリスク評価研究に貢献することが期待されます。
【研究の概要】
東京理科大学 先進工学部 機能デザイン工学科の梅澤 雅和准教授、曽我 公平教授、同大学大学院 先進工学研究科 マテリアル創成工学専攻の永沢 諒氏(2025年度 修士課程2年)、井上 創太氏(2023年度 修士課程修了)の研究グループは、マイクロプラスチック(MPs)に近赤外蛍光色素を導入した蛍光MP粒子を作製し、生体組織や細胞内で粒子の動きや分布を追跡できる技術を開発しました。
MPsは地球上のあらゆる環境に存在し、食品や飲料水を通じて人体にも取り込まれていますが、体内での動態や健康への影響は未解明です。従来の追跡手法は臓器の摘出を伴うため、MPsの体内動態を連続的に観察することができませんでした。そこで本研究グループは、生体深部を非侵襲的に観察できる近赤外蛍光イメージング技術を用いて、生体内でのMPs動態の可視化を目指し、蛍光MP粒子の開発およびMPsの追跡実験を段階的に進めてきました。
先行研究では、生体深部イメージングに有利な第2近赤外(NIR-II, *1)蛍光色素IR-1061を用いて、ポリエチレンテレフタレート(PET)製の蛍光MP粒子の合成法を確立しました(参考文献1)。本研究ではこの手法をさらに拡張し、プラスチックの熱膨潤・収縮特性を利用することで、PET以外の材料(ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン(PS))でも蛍光MP粒子を作製することに成功しました(図1)。これにより、複数の材料のMPsについてもマウス体内での動きを捉えることが可能になりました。この追跡実験から、経口摂取されたMPsが消化管から体内に吸収される割合はごく微量であることが示されており、MPsの健康リスクを議論する際には、こうした「実際の体内取り込み量」のデータを踏まえた定量的な評価が必要であるといえます。

先行研究および本研究では、主に球形のMPsが用いられてきましたが、実際の環境中に存在するMPsの多くは不定形(irregularly shaped)です。球形と不定形とでは細胞への取り込みや細胞毒性が異なる可能性があることから、本研究グループは不定形の蛍光MP粒子の開発にも取り組みました。界面活性剤として作用の弱いアルブミン(*2)タンパク質を用いることで、ナノサイズの不定形MPs粒子の合成に成功しました。さらに、この粒子に赤色蛍光色素であるナイルレッドを導入して追跡したところ、球形MPsの約50分の1の低濃度(2 μg/mL)でも細胞内取り込みが観察されました(図2)。これらの成果は、本研究に続く最新の研究成果として現在報告中です(参考文献2)。
以上の結果は、「体内への取り込み量は少ない」という安心材料がある一方で、「不定形MPsは球形MPsよりも毒性が強い可能性がある」という新たな懸念を示しています。従来の球形MPsを用いた研究ではリスクを正確に評価できていない可能性があり、実環境に即した不定形MPsでのさらなる検討が必要です。

本研究成果は、2026年2月10日に国際学術誌「Environmental Science: Advances」にオンライン掲載されました。なお、本論文はEnvironmental Sciences: Advances誌のHOT Articleに選出され、Collectionに収載されました。
また、本研究に続く最新の研究成果(参考文献2)は、2026年2月18日に国際学術誌「Environmental Science: Advances」にオンライン掲載されるとともに、同誌の HOT Article に選出され、Collection に収載されました。
【研究の背景】
世界のプラスチック廃棄物は、2016年の1億8800万トンから2040年までに3億8000万トンへと大幅に増加すると推定されています。直径5 mm未満のMPsは、土壌、河川、海水、大気中など地球上のあらゆる場所に存在し、食品、飲料水、空気中の粒子などを通じて人体内にも取り込まれています。実際に人間の血液中や糞便中にもMPsが存在することが明らかになっていますが、体内に侵入するメカニズムと健康への影響は未解明のままです。そのため、生物組織や臓器内でのMPsの蓄積と動態のメカニズムを理解することは、その潜在的な健康リスクを評価するために不可欠です。
従来、体内のMPsを追跡する手法としては、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)、ラマン分光法、蛍光顕微鏡などが用いられてきました。しかし、これらの手法は臓器や組織を摘出して解析する必要があるため、MPsの動態のごく一部しか観察できないという課題がありました。この課題を解決するため、本研究では波長1000 nmを超えるNIR-II蛍光イメージングを活用し、生きた個体を傷つけることなく、体内組織の深部における粒子の追跡を目指しました。具体的には、先行研究(参考文献1)で確立したNIR-II領域で発光する蛍光色素IR-1061を導入したPET製の蛍光MP粒子の作製法を拡張し、PP、PE、PS製の蛍光MP粒子の作製に取り組みました。
【研究結果の詳細】
テトラヒドロフランに分散させたPP、PE、PS粒子とアセトニトリルに溶解したIR-1061色素溶液を混合し、窒素雰囲気下、55℃で30分間加熱した後、5分間氷冷しました。プラスチックの熱膨張・収縮特性を利用したこの加熱・冷却プロセスにより、色素の内包が促進されます。その後、ウシ血清アルブミン水溶液を滴下して大気中で撹拌後、有機溶媒を蒸発させることで、NIR-II領域で蛍光を発する水分散蛍光MP粒子を作製しました。
作製したそれぞれの蛍光MP粒子をマウスに経口投与し、体内動態を調べました。消化管以外の組織ではNIR-II蛍光が観察されず、投与48時間後には糞便中でのみ蛍光が観察されたことから、腸管からの吸収はごく僅かで、大部分は糞便として排泄されることが示されました。また、腸管滞留の程度は、MPsの化学組成ではなく、粒子サイズに影響されることが明らかになりました。
さらに、現在報告中の研究(参考文献2)では、ナノサイズの不定形(irregularly shaped)の蛍光MP粒子の作製法とその細胞毒性について明らかにしています。
これまでの研究では、試薬として入手しやすい球状MP粒子が主に用いられてきましたが、実際の環境中に存在するMPの多くは不定形です。そこで、赤色蛍光色素であるナイルレッドと弱い界面活性剤であるアルブミンタンパク質を用いることで、550 nmの光励起下で580 ~ 620 nmの蛍光を発するナノサイズの不定形蛍光MP粒子を作製することに成功しました。
ナイルレッドを内包した蛍光MP粒子の追跡実験により、従来の球形MP粒子の約50分の1という低濃度(2 μg/mL)でも細胞内取り込みが観察され、不定形MP粒子の方が球形MP粒子よりも細胞毒性が高い可能性が示されました。本手法で作製したナノサイズの不定形蛍光MP粒子は、実環境に即したMPsのリスク評価研究への貢献が期待されます。
本研究を主導した梅澤准教授は、「マイクロプラスチックの問題は世界的に提起されていますが、その体内での動きについては不明瞭な部分が多いのが現状です、この問題を少しでもクリアにできる新たな方法を提案することに貢献したいと思い、本研究に至りました。プラスチックの負の側面について、多くの科学研究と実環境のギャップも踏まえたリスクの理解が広がるよう期待したいです」と、コメントしています。
-
本研究は、日本学術振興会(JSPS)の科研費(22K06565, 23K24593, 25K02871)の助成を受けて実施したものです。
【用語】
*1 第2近赤外領域(NIR-II)
波長1000 ~ 1700 nm程度の近赤外光。生体組織に対する透過性が高く、深部組織の観察に適している。
*2 アルブミン
血中に多く含まれるタンパク質で、主に肝臓で生成される。
【参考文献】
【論文情報】

|
雑誌名 |
:Environmental Science: Advances |
|
論文タイトル |
:Synthesis of near-infrared-fluorophore-loaded microplastics with different compositions for in vivo tracking |
|
著者 |
:Sota Inoue, Ryo Nagasawa, Kohei Soga and Masakazu Umezawa |
|
DOI |
※PR TIMESのシステムでは上付き・下付き文字や特殊文字等を使用できないため、正式な表記と異なる場合がございますのでご留意ください。正式な表記は、東京理科大学WEBページ(https://www.tus.ac.jp/today/archive/20260305_9011.html)をご参照ください。
このプレスリリースには、メディア関係者向けの情報があります
メディアユーザー登録を行うと、企業担当者の連絡先や、イベント・記者会見の情報など様々な特記情報を閲覧できます。※内容はプレスリリースにより異なります。
すべての画像
