温度による性決定の背後にある遺伝子発現ダイナミクスを解明 ~爬虫類有鱗目を対象とした世界初の網羅的解析、性決定メカニズム解明に一歩前進~

東京理科大学

研究の要旨とポイント 】

温度依存型性決定(TSD)の分子レベルでのメカニズムの研究は、これまでワニやカメを中心に進められており、トカゲやヘビを含む有鱗目での網羅的な解析は行われていませんでした。

今回、有鱗目のヒョウモントカゲモドキを用いて、生殖腺分化過程を組織学的に解析するとともに、どの段階でどのような遺伝子が発現するか網羅的な解析を行いました。

未解明であった有鱗目のTSDの仕組みを分子レベルで突き止めたことで、他の分類群との比較が可能になり、脊椎動物に共通する普遍的な性決定メカニズムの解明につながることが期待されます。

【研究の概要】

東京理科大学 先進工学部 生命システム工学科の宮川 信一教授らの研究グループは、ヤモリの一種であるヒョウモントカゲモドキ(*1)の網羅的な遺伝子発現解析(RNA-seq)と生殖腺分化過程の組織学的解析を行い、卵が育つ時の環境温度によって性別が決まる「温度依存型性決定(TSD)」(*2)における生殖腺の組織学的な発生・分化と遺伝子発現の全体像を世界で初めて明らかにしました。

TSDは爬虫類で広く見られる現象ですが、分子レベルでのメカニズムの研究は主にワニやカメで進められており、爬虫類最大の分類群である有鱗目における性決定時の遺伝子ネットワークについては調べられていませんでした。本研究では、有鱗目のヒョウモントカゲモドキを対象に、生殖腺の組織学的解析と網羅的な遺伝子発現解析を組み合わせることで、温度がいつ・どのように性の運命を決定づけるのかを明らかにしました。これらの知見は、気候変動などの環境要因が爬虫類の性比や生態系に与える影響を予測・理解する上で重要な基礎的知見となります。

本研究成果は、2026年2月18日に国際学術誌「Developmental Biology」にオンライン掲載されました。

【研究の背景】

本研究グループは、これまでミシシッピワニやクサガメを用いてTSDの解析を進めていましたが、先行研究を含め分子レベルでのTSD研究は有鱗目では前例がありませんでした。そこで本研究グループは、有鱗目トカゲモドキ科のヤモリであるヒョウモントカゲモドキ(Eublepharis macularius)に着目しました。ヒョウモントカゲモドキは低温ではメスが、高温ではオスが産まれる典型的なTSDを示すことが知られています。性別が不可逆的に決定される発生期間(温度感受期、TSP)はおよそステージ32〜37であると特定されていますが、生殖腺の組織像とTSPの正確な関係は不明なままです。さらに、生殖腺分化中の網羅的な遺伝子発現解析も、これまで行われていませんでした。

写真:今回の研究対象であるヒョウモントカゲモドキ

【研究結果の詳細】

本研究では、異なる温度で孵卵したヒョウモントカゲモドキの胚の生殖腺分化過程を組織学的に解析するとともに、RNA-seqを用いて、どの発生段階でどのような遺伝子が発現するかを詳細に調べました。

・形態変化の前に「遺伝子のメス・オス」はすでに分かれている

オスとメスの生殖腺の形態学的な違いが現れはじめるのは発生ステージ37からですが、RNA-seq解析の結果、未分化に見えるステージ34の段階で、すでにオス化・メス化に関わる重要な遺伝子群の発現パターンに明確な違いがあることがわかりました。一方、温度を変化させた実験からは、TSPはステージ36で終了することを特定しました。

本研究で明らかになった組織分化前にすでに性が固定されるというヒョウモントカゲモドキの性分化タイムラインは、他の爬虫類との比較研究における重要な基準となります。

・オス化遺伝子の発現がメス化遺伝子よりも早くはじまる

生殖腺の分化プロセスにおいて、精巣形成に関わる重要な遺伝子群(AMHDMRT1SOX9など)の発現上昇が、卵巣形成の主要なマーカー遺伝子(FOXL2CYP19A1)の発現よりも先行してはじまることが明らかになりました。これは、卵巣への分化(運命決定)プロセスが、精巣への分化よりもゆっくりと進行する可能性を示唆しています。

・温度応答遺伝子KDM6Bの発現パターン

これまでカメやワニでは、エピジェネティック制御(DNAやヒストンへの化学的修飾による遺伝子発現の調節)に関わる温度応答遺伝子KDM6B(*3)が「低温域(カメではオス産生温度、ワニではメス産生温度)」で活性化することが知られていました。しかし、ヒョウモントカゲモドキではまったく逆の「高温域」で、発生初期に一過的に発現することがわかりました。

KDM6Bのような性決定の鍵となる遺伝子自体は爬虫類で保存されているものの、どの温度(高温か低温か)でスイッチが入るのか、どのような遺伝子を標的とするかが、種によって劇的に変化していることが示唆されました。

・選択的スプライシングによるアイソフォーム産生の可能性

高温(オス化する温度)と低温(メス化する温度)における生殖腺での発現量が異なる遺伝子を解析した結果、スプライシング(*4)調節因子で違いが確認できたことから、高温条件と低温条件で異なるアイソフォーム(*5)が使用されている可能性が示唆されました。

【今後の展望】

爬虫類の多くは孵化温度でオス・メスが決まるため、地球温暖化が進行すると、自然界でメスばかり(あるいはオスばかり)が生まれ、絶滅の危機に瀕する種が出ることが危惧されています。爬虫類に代表される、温度依存的に性別を決定する野生動物における性分化の詳細なメカニズムの解明は、地球温暖化が野生動物の繁殖や生態系に与える影響を予測し、生物多様性を保全するための重要な科学的基盤となります。

宮川教授は、「本研究で示唆されたRNAスプライシングの役割の詳細な解析などを通じて、環境要因がどのように生物の発生運命を決定づけるのかという、より根本的なメカニズムの解明を目指したいです」と今後の研究への意欲を語っています。

  • 本研究は、日本学術振興会(JSPS)の科学研究費助成事業(JP21H02522、20K15835、22KJ2802、JP17H06432)の助成を受けて実施したものです。

【用語】

*1  ヒョウモントカゲモドキ(Eublepharis macularius)

アフガニスタンやインド、パキスタンなどのアジア圏に生息し、日本国内ではペットとして広く流通しているヤモリの一種。さまざまな色彩や模様をした個体が人為的な交配や選別によって生み出されており、愛好家も多い。

*2 温度依存型性決定(TSD)

発生期の温度環境によって性が決まる性決定様式。多くの動物では遺伝型で性が決まる「遺伝型性決定」を行うが、多くのワニやカメ、トカゲ類の一部は温度依存型性決定を行う。

*3  KDM6B遺伝子

ヒストン脱メチル化酵素のこと。標的遺伝子の転写を活性化する。アカミミガメでは低温域(オス産生温度)で発現し、DMRT1などのオス関連遺伝子の発現を制御することで、オス化に必須であることが報告されている。

*4 スプライシング

転写された RNA 前駆体の一部を切断して除いた後、残りの部分がつなぎ合わされる反応。

*5  アイソフォーム

単一の遺伝子から産生される、構造や機能の異なるタンパク質のバリエーション。この機構により、生物は限られた遺伝子数から高度な機能的多様性を創出できる。

【論文情報】

雑誌名

:Developmental Biology

論文タイトル

:Gonadal development and gene expression  in the leopard gecko 

 during temperature-dependent sex determination

著者

:Shinnosuke Okano, Yukima Yoshizawa, Shouei Nobuchi, 

 Yoshiki  Takeda, Katsuyoshi Miyazaki, Hiroshi Akashi, Kenji Toyota, 

 Genki  Yamagishi, Shinichi Miyagawa

DOI

10.1016/j.ydbio.2026.02.011

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