「非営利団体のマネジメント人材育成」に関する実態調査レポート 多くの法人が苦悩している実態が明らかに 7割が「育成に時間を割けない」 半数以上が「育成に使用できる資金が不足」

持続可能な支援活動と社会課題解決を目指して ~ソーシャルセクター基盤強化への提言~

ETIC.

NPO法人ETIC.(エティック、所在地:東京都渋谷区、以下「ETIC.」)は、社会課題の解決のための支援活動を続けている非営利団体(NPO、一般社団法人、公益法人)を対象に、マネジメント人材の育成に関する実態調査を実施しました。本調査の結果に加えて、既存の調査データも含めた分析を行い、人材育成の現状と課題、今後に向けて取り組むべき施策をまとめましたのでご報告します。

現在、国内のNPO法人の認証数は、49,582法人(2024年11月30日現在)。自然災害で被災した人たちの救助や生活再建をはじめ、子どもや若者への教育、経済的支援、医療・福祉の増進、環境保全の対策など、社会課題の解決や地域活性化におけるソーシャルセクターの果たす役割は、年々、多岐に渡り、重要性が高まっています。それに伴い、多様なセクターと連携しながら社会的成果をあげるための「マネジメント人材」の育成は不可欠となっています。一方、内閣府の全国調査では、NPO法人が安定的な経営を行う上での重要課題として、およそ7割の法人が「人材の確保や教育」を挙げています。そこで今回、非営利団体における「マネジメント人材」の採用・育成に焦点をあてた調査を実施しました。

その結果、回答した団体の多くが、人材育成のための要員や資金などのリソース不足に長年苦しんでいる実態や、非営利団体ならではの構造的な課題が明らかとなりました。持続可能な支援活動や社会課題解決のために、どのような取り組みや体制づくりが必要なのか。本調査では、数値データに加え回答者から寄せられた「生の声」を合わせて分析・考察し今後に向けた提言としてまとめました。ETIC.は、今回の結果を広く社会に発信するとともに、非営利団体の関係者をはじめ、民間企業や財団、行政機関などステークホルダーの方々と連携しながら、具体的な施策や改善につなげていくことを目指していきます。

また、報告書の最後に、人材開発・組織開発の第一人者である立教大学経営学部教授・中原淳氏からのメッセージや、新公益連盟共同代表・李炯植氏とコモンライト合同会社代表・宮崎真理子氏の対談インタビューをはじめ、ETIC.が運営する「ソーシャルセクターマネージャー成長支援プログラム」についても掲載していますので、あわせてご覧ください。

本調査の概要

  • 調査対象:日本の民間非営利団体(NPO法人、一般社団法人、一般財団法人、公益法人)

  • 調査時期:2024年11月13日(月)~12月12日(金)

  • 有効回答数:144団体

※尚、本調査は、アポロ財団による資金支援を得てETIC.が実施しています。

調査結果の概要

1. マネジメント人材採用の実態

「年間一人当たりの採用予算」について、年間総収入5,000万円未満の小規模団体では、およそ9割が「5万円未満」と回答。年間総収入5,000万円以上の中〜大規模団体でも、「5万円未満」が半数以上を占めました。

また、マネジメント人材の採用についてどのような課題があるかをたずねたところ、小規模団体では、「予算が足りない」が52.4%で最も多く、次いで「時間的余力がない」が42.9%。一方、中〜大規模団体では、「求めるスキル要件を満たす候補者に出会えない」「年収が低いため採用に至らない」という回答が最も多く、いずれも56.8%でした。

2. マネジメント人材育成の実態

「年間一人あたりの育成予算」について、小規模団体で最も多かったのは「5万円未満」で84.1%。中〜大規模団体では、「10万円未満」の団体が全体の6割。一方「50万円以上」と回答した団体が21%ありました。

さらに「育成における課題」についてたずねたところ、全体を通して「経営層や管理職のプレイヤー兼務比率が高いため人材育成に時間を割けない」という回答が最も多く寄せられました。また、小規模団体の半数以上が、「育成に使用できる資金が不足している」と回答。中~大規模団体では、経営層・管理職にマネジメント人材の育成経験がないことによるノウハウの不足が上位に挙げられており、資金や人員などリソース不足が重要課題であることが示されました。

3. 背景にある構造的要因

マネジメント人材の採用・育成が進まない理由について「自由記述」で聞いたところ、非営利団体特有の構造的要因を指摘する声が多く寄せられました。

1)採用・育成の難しさ

  • 「業務が多岐にわたっていることや、対人関係スキル、社会のしくみ、専門的知識など、さまざまな知識や人的ネットワークが必要とされるため、適正な人材が見つからない」(子ども支援/事務局長)

  • 「事業に求められる専門性と、様々なステークホルダーや価値観を持ったスタッフ、ボランティアとの間に求められる難しいコミュニケーションができる人が必要だが、そんな高スキルの人は給与が見合わないため、部分的な業務委託にとどまる」(子ども支援/代表理事)

2)育成ノウハウの不足 

  • 「組織を学生で立ち上げたので企業などで働いた経験がなく、マネジメント育成を受けた経験もない。どうやったらマネジメント人材として伸びるのか正直分かっていない」(教育・職業訓練/代表理事)

  • 「経営層・管理職の全員がプレイヤーも兼務していたため、人材育成に十分な時間が割けず、組織としてどのような人材を育てていくか、その方法が言語化されてこなかった」(国際協力/人事・総務マネージャー)

3)財政基盤の脆弱さ

  • 「単年予算の補助金や助成金をベースとした事業が多く、中長期での雇用の担保が難しい。プロジェクトを推進するのみで精一杯の状況です」 (人権/代表理事)

  • 「社会課題の解決に対して、資金提供のみがなされてもマネジメント人材の確保ができなければ事業拡大はできず、実際にインパクトを出す活動を行うことは難しいのが現状です。資金提供者の皆さまの力も借りながら、認知・普及啓発の活動に取り組めると良いと思っています(子ども支援/事務局長)

非営利団体では、マネジメント人材が担う業務範囲が広いうえ、関わるスタッフやステークホルダーが多様であることにより、高い実務能力やコミュニケーション力を求められ、そのことが採用や育成の難しさにも影響しています。また、創業経営者や創業期を支えて来たメンバー自身がマネジメント人材として育成された経験がないことから、育成のためのノウハウや手法が組織内に確立されていないといった指摘も多く見られました。さらに、助成金や補助金などを主な収益としているため、人材育成に対する長期的な投資や、管理部門における人件費などの確保が難しい状況にあり、組織の成長を阻むボトルネックになっていることが推察されます。

このような構造的要因を踏まえ、今後は「マネジメント人材の育成」をソーシャルセクター全体の共通課題として捉え、組織を超えた支援体制の構築、財政基盤を強化する施策への取り組みが求められます。

4. 今後の施策に向けた提言

1) セクター全体の「共有資産」として人材育成を外部から支援する体制づくり

2) 非営利団体の「組織基盤強化」を促す資金提供のあり方を再考

※調査報告書の全文は、こちらからご覧いただけます。

「非営利団体のマネジメント人材育成」に関する実態調査レポート 「ひとへの投資」と社会課題解決   

URL:https://file.etic.or.jp/eticreport202502.pdf

有識者からのメッセージ

ひとへの投資 ~共創社会の実現のために~

立教大学経営学部教授 中原 淳氏

私はNPO法人の人材育成にも携わった経験がありますが、非営利団体の人材育成は利益を追求する企業とは違う「独特の難しさ」があると感じています。NPO法人に勤務する方々は、営業利益などの「数字」ではなく「自分たちが活動する意味」を「モティベーションの源泉」として動いている方が少なくありません。たかが意味ですが、されど意味です。そのためNPO法人における人材育成では、民間企業以上に「なぜ今この活動が組織や社会にとって必要なのか」といった数値では表せられないものをメンバーに繰り返し伝えていくことが重要です。組織ぐるみで1on1などを行い対話していく意味も大きいといえます。

つまり、ソーシャルセクターの人材育成は、ビジネスセクター以上に洗練され、特化された育成手法が欠かせません。しかし事業規模や財政的な問題から、マネジメント人材の育成を「内製化」することが難しいという非営利団体は少なくありません。現状を打開するためには、複数のNPO法人が組織の枠組みを超えて学びあう体制作りや、外部から適切な情報や支援を受けられる仕組み作りが不可欠でしょう。

  

ここで重要なのは、人材育成やフィードバックにはお金がかかるということです。ここでのお金は「コスト」ではありません。「投資」です。資金提供者などステークホルダーの皆さんには「非営利活動にも人的投資が必要」という視点で、この部分にまつわる「投資」を許容していただきたいと思います。具体的には、事業規模の数%は人材育成などの管理費に使えるような制度設計を社会全体で考えていく必要があると思います。事業予算だけで組織運営はできないのです。

  

この国を未曾有の社会課題がおそっています。「人口減少のなかで労働力を確保する」という「無理ゲー」は、ますます深刻になります。優秀な人に専門性を発揮してもらう環境がなければ組織も事業も成長できない時代。非営利組織における「ひとへの投資」を通じて、さまざまな社会課題の解決やイノベーションを生み出す共創社会が推進されていくことを願っています。

調査事務局

主体:特定非営利活動法人ETIC.(エティック)/ DRIVEキャリア

助成:アポロ財団

協力:特定非営利活動法人新公益連盟、特定非営利活動法人NPOサポートセンター、コモンライト合同会社


NPO法人ETIC.

Move Forward. ETIC.
行動を起こす人に伴走し、つなぎ、ともに「新しい社会」をつくる。

1993年創業、2000年にNPO法人化、2017年に認定NPO法人取得。起業家育成、企業や自治体などの異なるセクター間の共創コーディネート、コーディネーター育成に取り組んでいます。手がけてきた実践型インターンシップや起業⽀援プログラムへの参加を通して、約12,500名がプログラムに参加し、1900名以上が起業しました。

https://www.etic.or.jp

アポロ・グローバル・マネジメントおよびアポロ財団

アポロ財団は、アポロがその活動地域における機会の拡大を目指し、経済的繁栄を推進する非営利団体に対して1億ドルの投資を行うというコミットメントに基づき、2022年に設立されました。アポロ財団は、キャリア教育、人材開発、経済的エンパワーメントの3本柱を掲げ、従業員主導のアプローチを採用しており、アポロの従業員が推奨する組織と提携し、すべての人々に機会を広げることを目指しています。

アポロは、高成長を続けるグローバルなオルタナティブ資産運用会社です。イールド、ハイブリッド、エクイティの3つの投資戦略に焦点を当て、投資適格からプライベート・エクイティまでリスク・リターンスペクトラムのあらゆる分野で超過収益を創出することを目指しています。アポロは30年以上にわたり、統一されたプラットフォームを活用した専門知識によって顧客のニーズに応え、且つ投資先企業の成長を支援する革新的な資本ソリューションを提供してきました。また、リタイヤメント・サービス事業であるアテネは、退職貯蓄サービスのソリューション・プロバイダーとして、顧客の経済的な安定の実現を支援しています。アポロの投資アプローチは、顧客、投資先企業、従業員、コミュニティとのアライメントを有しています。2024年9月30日現在、アポロの運用資産額は約7330億ドル相当となっています。 

https://www.apollo.com/impact/the-apollo-opportunity-foundation

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会社概要

NPO法人ETIC.

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URL
https://www.etic.or.jp
業種
教育・学習支援業
本社所在地
東京都渋谷区東1丁目1番36号 キタビルデンス402
電話番号
050-1743-6743
代表者名
伊藤順平
上場
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資本金
-
設立
1993年01月