見落としていた細胞の変化に気づく、新しい観察のかたち

深層学習による画像復元で細胞質分裂のはじまりを明らかに

国立大学法人熊本大学

【ポイント】

植物細胞が分裂するときに形成される「細胞板」の初期形成部位に、アクチン繊維が局在することを明らかにしました。顕微鏡で捉えた映像の画質を深層学習を用いて復元することで、従来の観察では見逃されてきた細胞内の変化を高精度に観察できるようになりました。画像復元によって得られたアクチン繊維の新たな局在パターンの発見は、従来の観察手法や薬剤処理による検証実験でも確認され、深層学習による画像処理に依存しない実在の構造であることが裏付けられました。

【概要説明】 

熊本大学大学院先端科学研究部の菊池涼夏特別研究員(当時)(現・山口大学大学院創成科学研究科・助教)、同大学理学部4年生の神鷹卓己大学生(当時)、同大学院先端科学研究部の檜垣匠教授らからなる研究グループは、深層学習による顕微鏡画像の画質復元技術を活用して、植物細胞の分裂における初期の細胞板形成過程を可視化し、アクチン繊維の新たな局在パターンを明らかにしました。

細胞内の繊細な構造を観察するには、顕微鏡を使って鮮明な画像を撮影する必要がありますが、強い光を長時間当てることで細胞が傷んでしまう「光毒性」や「退色」という問題があります。そのため、できるだけ弱い光で撮影する必要がありますが、そのぶん画像が暗くなり、微細な構造が見えにくくなるというジレンマがありました。

本研究では、この問題を解決するために、短時間の露光で撮影した画像を深層学習で明瞭に復元する技術を活用し、細胞分裂のごく初期段階でのアクチン繊維の挙動を高精度に捉えることに成功しました。その結果、アクチン繊維が細胞板の形成が始まる部位に集まる様子が確認されました。これは、アクチン繊維が細胞板の初期構築に関与していることを示唆する新たな証拠と考えられます。

本研究成果は令和7年5月8日、科学雑誌「Plant Cell Reports」に掲載されました。本研究はJST CREST(JPMJCR2121)の支援を受けて実施されました。

【今後の展開】

本研究で活用した画像復元技術は、細胞へのダメージを抑えながら、これまで見えにくかった細胞内の変化を鮮明にとらえる新しい観察手法として注目されます。細胞分裂のごく初期に起こるアクチン繊維の動きを明確に捉えられたことにより、植物がどのようにして新しい細胞をつくるのか、その仕組みをより深く理解する手がかりが得られました。

今後は、この技術を他の植物や細胞にも応用することで、細胞分裂だけでなく、成長や形づくりといったさまざまな生命現象の可視化が進むと期待されます。また、画像の“見えにくさ”を補い、研究者が細胞のふるまいに気づくためのサポートとして、将来的には幅広い生物学研究や薬剤評価などへの応用が期待されます。

【論文情報】

論文名:Distinct actin microfilament localization during early cell plate formation through deep learning-based image restoration

著者:Suzuka Kikuchi, Takumi Kotaka, Yuga Hanaki, Minako Ueda, and Takumi Higaki*(責任著者)

掲載誌:Plant Cell Reports

DOI:10.1007/s00299-025-03498-7

URL:https://doi.org/10.1007/s00299-025-03498-7

詳細:プレスリリース

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本社所在地
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小川 久雄
上場
未上場
資本金
-
設立
1949年05月