アジドからジアゾ化合物を一挙に合成する新反応を開発 ~医薬品開発に有用な含窒素複素環化合物の合成に新たな道を拓く~
【研究の要旨とポイント】
ジアゾエステル類は、医薬品や機能性分子の合成に広く用いられる重要な化合物ですが、より実用的で安全な製法が求められていました。
2-アジドアクリル酸エステルとホスフィンから生じるホスファジド中間体を経て、Michael付加反応とN-N結合の切断が一挙に進み、有用なジアゾエステル類を穏やかな条件で合成できる新反応を開発しました。
本手法はチオールやアミンなどの求核剤に適用でき、得られたジアゾエステル類はエナミノン、インドール、ピラゾールなどへ変換できることから、医薬品合成を支える基盤技術としての応用が期待されます。
【研究の概要】
東京理科大学 先進工学部 生命システム工学科の吉田 優教授、同大学大学院 先進工学研究科 生命システム工学専攻の真野 友希氏(2026年度 修士課程2年)、安田 貴裕氏(2026年度 博士課程1年)、織本 雅久氏(2023年度 修士課程修了)の研究グループは、2-アジドアクリル酸エステルから有用なジアゾエステル(*1)を得る新しい合成反応を開発しました。今回の反応は、アジド化合物(*2)とホスフィン(*3)から生じるホスファジド(*4)という比較的安定な中間体を活用し、Michael付加反応(*5)とN-N結合切断を一挙に進められる点に特徴があります。
ジアゾエステルは、医薬品、機能性分子などの合成に広く用いられる重要な化合物です。従来その合成には危険なジアゾメタンが用いられており、より実用的で安全な製法が求められていました。研究グループは、アジド化合物を安定なホスファジドとして活用する独自手法を基盤に、アジド基の新しい利用法を探ることでこの課題に取り組みました。
本研究では、チオールやアミンなどを用いて、さまざまなジアゾエステルを穏やかな条件で合成できることを明らかにしました。さらに、得られた化合物がエナミノン、インドール、ピラゾールなどへ変換できることも実証しました。本研究は、医薬品や機能性分子の合成を支える基盤技術として役立つことが期待されます。
本研究成果は、2026年4月20日に国際学術誌「Angewandte Chemie International Edition」にオンライン掲載されました。

【研究の背景】
ジアゾ酢酸エステル誘導体は、多様な含窒素化合物を合成するための重要な化合物です。これまでに、双極子付加環化反応や還元反応、遷移金属触媒を用いる反応などへの利用が報告されており、有機合成の幅広い場面で活用されてきました。
一方で、これらの化合物の合成には、ジアゾメタンなどの危険な試薬を用いる工程が含まれており、より実用的で安全な製法の開発が課題となっていました。また、アジド化合物をジアゾ化合物へ変換する手法そのものはすでに報告されていましたが、安定な中間体を活かして新しい反応形式へと展開する方法は十分に開拓されていませんでした。
このような背景のもと、本研究グループは、アジド化合物を安定なホスファジドとして活用する独自手法を基盤に、アジド基の新しい利用法を見いだすことを目指しました。特に、2-アジドアクリル酸エステルから生じる安定なホスファジド中間体の性質を活かすことで、有用なジアゾエステル類をより実用的な条件で得られる新しい反応設計につながるのではないかと考え、本研究に取り組みました。
【研究結果の詳細】
ホスフィンの一種であるAmphosを用いて、2-アジドアクリル酸エステルからホスファジド中間体を形成させた後にチオールを加える反応を検討しました。その結果、当初の予想に反して、N-N結合の切断を伴うジアゾエステルが生成することを見いだしました。すなわち、安定なホスファジド中間体を経ることで、Michael付加反応とアジドからジアゾへの変換が連続して進む新しい分子変換が起こることが明らかになりました。2-アジドアクリル酸エステルは対応するアクリル酸エステルから2段階で調製できるため、この発見は、有用なジアゾ酢酸エステル誘導体を簡便に得る新手法につながる成果といえます。
本反応には、かさ高く電子豊富なホスフィンが適しており、中でもAmphosが最も効果的でした。基質適用範囲については、第一級および第二級アルキルチオール、芳香族チオール、保護システイン誘導体などのチオール類に加え、鎖状・環状の第二級アミンも利用できることを確認しました。また、ブロモ基やヒドロキシ基、エステルなど多様な官能基を持つ基質にも対応でき、フルオキセチン誘導体の合成にも展開できることを示しました。さらに、10 mmolスケールでも合成できており、本手法の実用性が示されました。一方、遊離カルボン酸を持つプロリンでは目的物が得られないなど、官能基の種類によっては制約があることも明らかになりました。
反応機構については、ホスフィンイミン副生成物の単離、TEMPOを用いた対照実験、およびNMR測定によって検証しました。その結果、ホスファジド中間体の形成がMichael付加とN-N結合切断を駆動する重要なステップであることが確認されました。また、Amphos処理後にホスファジド中間体が1時間後も安定に存在することがNMRで観測され、その高い塩基性が反応性の源であると考察されました。
得られたジアゾエステル類は、酸化、還元、ロジウム触媒反応、環化付加など多様な変換に供することができ、エナミノン、インドール、ピラゾールなどの含窒素複素環化合物への展開も実証されました。これにより、本手法が医薬品や機能性分子の合成に資する基盤反応であることが示されました。
本研究を主導した吉田教授は、「これまでの研究で培った知見と手法を最大限に活かし、アジド基の新しい利用法を開拓することができました。ジアゾ化合物は医薬品や機能性分子の合成に広く用いられる重要な化合物であることから、本手法が多様なジアゾ化合物をより実用的かつ柔軟に合成できる基盤技術として、幅広い研究分野の発展に貢献できると期待しています」と、コメントしています。
※ 本研究は、日本学術振興会 科学研究費助成事業(JSPS KAKENHI、課題番号:JP23K17920)および旭硝子財団の助成を受けて実施したものです。
【用語】
*1 ジアゾエステル
ジアゾ基を持つエステル化合物。反応性が高く、還元、環化、金属触媒反応などを通じて、医薬品や機能性分子の合成に広く利用される重要な中間体。本研究では、得られたジアゾエステルからエナミノン、インドール、ピラゾールなどの含窒素複素環化合物へ変換できることが示されている。
*2 アジド化合物
窒素3個からなるアジド基を持つ化合物。本研究では、このアジド基を出発点として、ホスフィンとの反応で安定な中間体を形成させ、その後の分子変換に利用した。
*3 ホスフィン
リン原子を含む有機化合物群。本研究では、Amphosのようなホスフィンを用いてアジド化合物からホスファジド中間体をつくり、その後の反応に活用した。
*4 ホスファジド
アジド化合物とホスフィンが反応して生じる中間体。本研究では、この中間体が比較的安定に存在し、その性質を活かすことで、Michael付加反応とN-N結合切断が一挙に進む新反応につながった。
*5 Michael付加反応
電子を引き寄せやすい炭素-炭素二重結合に対して、チオールやアミンなどの求核剤が付加する反応。有機合成で広く用いられる基本反応の一つ。
【論文情報】

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雑誌名 |
:Angewandte Chemie International Edition |
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論文タイトル |
:Azide-to-Diazo Transformation Facilitated by Michael Addition via Phosphazide Formation |
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著者 |
:Tomoki Mano, Takahiro Yasuda, Gaku Orimoto, and Suguru Yoshida |
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DOI |
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