新種の巨大ウイルス「フルティヴォウイルス」を神奈川県鎌倉市の淡水から発見 ~新しい「科」の創設と、新しい高次分類群「目」の提唱~

東京理科大学

研究の要旨とポイント

神奈川県鎌倉市稲瀬川から、巨大ウイルスの新種「フルティヴォウイルス」を発見しました。

フルティヴォウイルスは宿主細胞の核膜を崩壊させながら核質内でウイルス粒子を形成するという、独自の複製戦略をもつことが明らかになりました。

比較ゲノム解析により、フルティヴォウイルスを含む4種が新しい科「マネスウイルス科」を構成し、既知の巨大ウイルスであるマモノウイルス科の姉妹群であることが示され、両者を統合する新しい「目(order)」の創設を提唱しました。

【研究の概要】

東京理科大学大学院 理学研究科 科学教育専攻のペ・ジワン氏(2026年度 博士課程1年)、同大学 理学部第一部 科学コミュニケーション学科の武村 政春教授の研究チームは、神奈川県鎌倉市の淡水環境から、巨大ウイルス(*1)の新種「フルティヴォウイルス」を発見しました。

ゲノム解析の結果、このウイルスはフランスで先行発見されていた巨大ウイルスのひとつ、クランデスティノウイルスに近縁であることが明らかになりました(図1左)。

また、比較ゲノム解析の結果、フルティヴォウイルスを含むこれまでに発見されていた4種のウイルスが新しい科である「マネスウイルス科」を構成し、マモノウイルス科の姉妹群として位置づけられることが明らかになり、これまで分類されると考えられてきたパンドラウイルス目ではなく、両者を統合する高次分類群である「新目」(名称は未設定)の創設を提唱しました。

さらに、電子顕微鏡解析により、フルティヴォウイルスは宿主細胞の核膜を崩壊させ、核の内部でウイルス粒子を形成するという、独自の複製戦略を有することが明らかになりました(図1右)。この戦略は、既に発見されていた巨大ウイルスであるメドゥーサウイルスやウシクウイルスとも異なる独自のものです。複製時における宿主の細胞核の使い方が異なるこれらのウイルスを比較することにより、ウイルスと細胞核との相互作用の進化的道筋を紐解くことができると期待されます。

本発見は、武村教授が提唱する『細胞核ウイルス起源説』の検証にさらなるエビデンスを与えるとともに、私たち人間を含む真核生物(細胞核を持つ生物)の起源と進化の理解に貢献するものと期待されます。

本研究成果は、2026年5月14日に米国微生物学会発行の国際学術誌「Journal of Virology」にオンライン掲載されました。

図1. 本研究の主要な結果。

左:遺伝子共有ネットワーク:フルティヴォウイルス(赤字)とクランデスティノウイルスなどほかのウイルス(青丸)との近縁性を示す。小さな黒い点は一個一個の共有遺伝子を示す。

右:フルティヴォウイルスに感染した細胞の電子顕微鏡像。核膜の崩壊(黄矢印)と核質内でのウイルス粒子の形成(白い指示棒)が観察される。

【研究の背景】

巨大ウイルスは、通常のウイルスとは桁違いに大きなゲノムと粒子サイズをもつウイルス群です。武村教授は2001年、真核生物の細胞核が大型のウイルスを起源とするとの仮説『細胞核ウイルス起源説』を世界で初めて提唱しました。その後、この仮説を支持する巨大ウイルスを相次いで発見しており、近年では本仮説への注目も高まりつつあります。

武村教授らは2019年にマモノウイルス科に属するメドゥーサウイルスを、2025年にはウシクウイルスを発見しており、これらは宿主の細胞核との関わり方がそれぞれ異なることが示されています。具体的には、メドゥーサウイルスは細胞核内で複製する一方、ウシクウイルスは核膜を破壊して細胞質に独自のウイルス工場を形成します。また、フランスでは2021年にマモノウイルス科に近縁なクランデスティノウイルスも発見されていました。

しかし、宿主の細胞核と密接にかかわるこうした巨大ウイルス群の系統関係はまだ明らかになっておらず、それぞれが異なる細胞核との関わり方を示す進化的背景については、未解明な点が多く残されていました。

【研究結果の詳細】

研究チームは、神奈川県鎌倉市に位置する稲瀬川の淡水サンプルから、単細胞アメーバの一種であるヴェルムアメーバに感染する、新種の巨大ウイルスを分離しました。

このウイルスは、スクリーニングで分離される際、サンプル中の別のウイルス(ファウストウイルス)による感染の陰にこっそりと隠れるように存在していました。このことから、ラテン語で「隠れた、こっそりとした」を意味する「furtivus」にちなみ「フルティヴォウイルス(Furtivovirus)」と命名しました。

本ウイルスのゲノムは全長560,176塩基対の線状二本鎖DNAであり、656の推定コード配列を含んでいました。タンパク質共有ネットワーク解析、平均ヌクレオチド同一性(ANI)解析、および372ゲノムを用いた系統ゲノム解析の複数の手法により、フランスで2021年に発見されたクランデスティノウイルスと近縁であり、両者は同じサブクラスターを形成することが示されました。

本ウイルスを電子顕微鏡により時系列観察したところ、宿主への感染初期に、細胞質に空のカプシド(*2)が出現するとともに宿主細胞の核膜が崩壊し、感染が進むにつれてカプシドが核の内部(核質)に移行してウイルスDNAが充填されることが確認されました(図2)。

この観察から、フルティヴォウイルスは核膜を崩壊させて核質内に移行し、そこでウイルス粒子を形成・パッケージングするという、これまで知られていなかった複製戦略をとることが明らかになりました。

この複製様式は、細胞核内で複製するメドゥーサウイルスとも、核膜を破壊して細胞質にウイルス工場を形成するウシクウイルスとも異なる新しい様式です。この3つのウイルスの比較から細胞核との相互作用の進化的道筋が明らかになりつつあります。

今回の発見は、ヌクレオサイトウイルス門(*3)における新しい科(family)と目(order)の提唱にもつながりました。比較ゲノム解析の結果、フルティヴォウイルス、クランデスティノウイルス、ウシクウイルス、ウサルパティウイルスの4種の巨大ウイルスは、明確な単系統群を形成することが、複数の解析手法によって一貫して支持されました。研究チームはこの4種からなる新しい科を、スクリーニングの際に幽霊のようにひっそりと姿を現したという発見の経緯にちなみ、古代ローマ神話の冥府の神「マネス」から「マネスウイルス科(Family Manesviridae)」と命名しました。

さらに系統ゲノム解析により、マネスウイルス科はマモノウイルス科の姉妹群として高いブートストラップ値(*4)で支持されることが示され、研究チームは、これまで考えられていたパンドラウイルス目とは独立した、両者を統合する新しい「目」の創設を提唱しました(図3)。

本研究は、新しい巨大ウイルスの発見を通じて、マモノウイルス科とその近縁ウイルス群の系統的枠組みを大きく更新するものです。細胞核との関わり方が異なる3つのウイルスの比較により、巨大ウイルスと細胞核との相互作用の進化的道筋の理解が進み、私たち真核生物の起源と進化に巨大ウイルスがどのように関わってきたのか、より詳細なレベルで明らかになることが期待されます。

武村教授は「近縁な巨大ウイルス同士であっても、複製時における細胞核との相互作用が大きく異なるという発見は、私たちにとっても予想外でした。本研究では、こうした進化過程の解明を通じて、私が25年前に提唱した『細胞核ウイルス起源説』をさらに裏付けるエビデンスを得ることを目指しました。本研究は基礎科学として巨大ウイルスの生物学的意義を明らかにするものですが、ウイルスと宿主の相互作用や進化の理解が進めば、“ウィズ・ウイルス”の時代におけるウイルスとの新たな向き合い方や共生のあり方に関する知見につながる可能性もあります」とコメントしています。

本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(20H03078)および自然科学研究機構 生命創成探究センター(ExCELLS)共同研究(プログラム番号:22EXC601-4)の支援を受けて実施されました。

図2. ウシクウイルス、フルティヴォウイルス、メドゥーサウイルスの宿主細胞内における複製戦略の比較。細胞核に対する影響が、それぞれのウイルスで異なる。

図3. 巨大ウイルス(ヌクレオサイトウイルス門)の系統樹。従来は未分類だったフルティヴォウイルスを含むグループは、メドゥーサウイルスを含むマモノウイルス科と共にパンドラウイルス目に含まれると考えられていた(上)。しかし本研究により、これらのウイルスはパンドラウイルス目とは大きく異なることが明らかとなり、マネスウイルス科が新たに形成され、マモノウイルス科と共に属する新しい「目」が提唱された(下)。

【用語】

*1  巨大ウイルス

厳密な定義はないが、通常のウイルスとは桁違いに大きなゲノムと粒子サイズをもつウイルスの総称。分類的にはヌクレオサイトウイルス門(*3)に含まれるウイルスを指すことが多い。

*2  カプシド

ウイルスゲノムを取り囲む、多数のカプシドタンパク質からなるタンパク質の殻。正二十面体、らせん状など、ウイルスごとに様々な形態をとる。

*3 ヌクレオサイトウイルス門

巨大ウイルスの分類学上の名称。2本鎖DNAウイルスのグループであるヴァリドナウイルス域、バンフォードウイルス界に含まれる。

*4 ブートストラップ値

系統樹の各分岐がどの程度統計的に信頼できるかを示す指標。一般に95%以上で高い信頼性があるとされる。

【論文情報】

雑誌名

:Journal of Virology

論文タイトル

:Refining a giant virus lineage: a novel order unifying 

   Mamonoviridae and “Manesviridae,” unveiled by the discovery of 

   furtivovirus

著者

:Jiwan Bae, Masaharu Takemura

DOI

10.1128/jvi.02031-25

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未上場
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設立
1881年06月