受賞の言葉を公開!第35回(2025年度)Bunkamuraドゥマゴ文学賞

最相葉月氏の選考により、川内有緒氏『ロッコク・キッチン』に決定した第35回Bunkamuraドゥマゴ文学賞。著者による受賞の言葉を公開しました。

株式会社東急文化村

1990年の創設以来、Bunkamuraドゥマゴ文学賞は、毎年かわる「ひとりの選考委員」によって受賞作を決定してまいりました。第35回となる2025年度の選考を務めたのは最相葉月氏です。
この度、受賞作『ロッコク・キッチン』の著者・川内有緒氏からの受賞の言葉を公開しました。ぜひご高覧ください。

名称

第35回Bunkamuraドゥマゴ文学賞

受賞作

『ロッコク・キッチン 浜通りでメシを食う』

(「群像」2024年10月号~2025年8月号隔月連載 講談社刊)

受賞者

川内有緒 (かわうちありお)氏

選考委員

最相葉月 (さいしょうはづき)氏

正賞:賞状+スイス・ゼニス社製時計
副賞:100万円

主催

株式会社東急文化村

https://www.bunkamura.co.jp/bungaku/winners/35.html

【受賞作内容】

福島第一原発事故から13年が経過した福島県の浜通り。人の暮らしが戻りつつあるその地で暮らす人は、いまどんなキッチンで、何をつくり、誰とどんなものを食べてるんだろう?国道6号線・通称ロッコクを旅して探した、温かくておいしい記憶の数々。「食」を通じて暮らしや人生を描く新しい生活史。

※連載に書き下ろしを加えた単行本『ロッコク・キッチン』が講談社より2025年11月20日頃刊行。

また、ドキュメンタリー映画『ロッコク・キッチン』が、2025年10月12日に「山形国際ドキュメンタリー映画祭2025」にてプレミア上映。

撮影/齋藤陽道

【受賞者プロフィール】

川内有緒(かわうちありお)

ノンフィクション作家。1972年東京都生まれ。アメリカ、南米、フランス、日本を転々としながら12年間国際協力分野で働いた後に、フリーランスの物書きに。東京を拠点に評伝、旅行記、エッセイなどを執筆。『バウルを探して 地球の片隅に伝わる秘密の歌』で新田次郎文学賞、『空をゆく巨人』で開高健ノンフィクション賞、『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』でYahoo!ニュース|本屋大賞 ノンフィクション本大賞を受賞。ドキュメンタリー映画『目の見えない白鳥さん、アートを見にいく』共同監督。

撮影/平瀬拓

【選考委員プロフィール】

最相葉月(さいしょうはづき)

1963年東京生まれの神戸育ち。関西学院大学法学部卒業後、会社勤務を経てノンフィクションライターに。音楽、スポーツ、生命科学、災害、精神医療、宗教などをテーマに取材執筆。1997年『絶対音感』で小学館ノンフィクション大賞、2007年『星新一 一〇〇一話をつくった人』で講談社ノンフィクション賞、大佛次郎賞、08年日本SF大賞、日本推理作家協会賞、星雲賞、2024年『証し 日本のキリスト者』でキリスト教書店大賞。

[受賞の言葉]美味しいスープを煮込んでいます/受賞者 川内有緒

あつかましい。最相葉月さんの選評の言葉がその通りすぎて、大笑いした。確かに、私はあつかましいやつである。なにしろ福島県の浜通りに暮らすたくさんの人たちに手料理を食べさせてもらい、それを文章や写真、映像で記録し続けてきた。食べてきたのは、中華丼や餃子、お味噌汁という家庭料理のほか、チャイやクラムチャウダーもあった。

きっかけは、ふとしたことだった。ある日、原発事故による避難指示が解除されたばかりの地区を通った時、深い闇と静寂が支配する中、一軒の家から灯りがもれていた。なにひとつ根拠はないのだけれど、あの家の人はいまご飯を食べているのかもしれないと思った。スーパーもコンビニもない町で、いまなに食べているんだろう?

浜通りは、もともと海の幸も山の幸も豊かで、農業や酪農、漁業も盛んだった地域である。しかし、二〇一一年の震災直後から、地域は食の問題で大いに揺れ続けてきた。放射能汚染、農産物や海産物の出荷制限、風評被害、一次産業の衰退、そこにさらにALPS処理水の海洋放出の問題も加わった。さまざまな情報やニュース、異なる意見、感情や痛みが錯綜するなかで、私は知りたかった。いまそこに暮らす人は、何を食べ、どう生きているのか――。

そんな野次馬的発想の自分が恥ずかしい。でも、そのことがもはや頭から離れないんだからしかたない。それは、被災地だからとか、原発事故があった場所だからとか、そういう理由だけではなかった。ただその地に通い、誰かに会って、ゆっくりご飯を食べながら話がしてみたかった。

こうして出来上がりつつあるのが、書籍「ロッコク・キッチン」である。「つつある」というのは、この原稿を書いている今日も執筆中だからだ。1ヶ月前、受賞のお知らせのお電話をもらった時、私は連載してきた原稿の加筆修正の真最中だったのだが、もう全てを投げ出したくなり「回転寿司屋に行こう」と家族を誘っているところだった。だから、「受賞……」と言われても、「まだ本になってないんです!」と繰り返した。その原稿は、これからじっくり煮込もうとしているスープのようなものなんです、と言えばよかったのかも。果たして美味しいスープになるかどうか、実は今も緊張している。

10年余り福島に通いながら、この地を描くことの難しさを痛感してきた。問題や課題があまりにも多く、何かをとれば何かが足りないような気がしてくる。そこで暮らす人の中には、もちろん元々の住民もいるけれど、移住してきた人も多くて、さらには、「そもそも東日本大震災を覚えていない」という若い人や、外国から来た人たちもいる。さらにいえば、原発事故の被害者もいれば、事故を起こした会社の人たちもいる。だからこそ、あれもこれも書かねばという気持ちになるが、それをひとつずつ振り払い、とにかく偶然に出会えた人たちのご飯や言葉のひとつひとつを丁寧に記録していくことを指針にしてきた。様々な体験や価値観が行き交う地だからこそ、私にできることは、ただ、今日もその地で暮らしている人たちをそのまま肯定することだったように思う。

私は日本全国の人の誰もが一度は浜通りに来てくれることを願っている。長いこと私たち人類の歴史は、夜の闇を眩しい光で満たそうとするものだった。だからこそ、一度はすべての光が消えてしまったこの地に来てほしい。そして、考える。人生で大切にしたいことはなにか。これからの社会をどうしていきたいのか。そして、「ロッコク・キッチン」を読んだ後だったら、どんな人に会って、どんなご飯を食べたいのかも。

最後になってしまったが、最相葉月さんは私にとってはノンフィクション界の大先輩である。最初に読んだ本は『絶対音感』で、まだ自分が大学院生だった27年前になる。長年憧れを抱いてきた最相さんに選んで頂いたことは、この先の私の物書き人生を大いに勇気づけ続けてくれることは間違いない。心からありがとうございました。

最相氏による選評は、下記よりご覧ください。

https://www.bunkamura.co.jp/bungaku/winners/35.html

【Bunkamuraドゥマゴ文学賞とは】

パリの「ドゥマゴ賞」のユニークな精神を受け継ぎ、1990年に創設。権威主義に陥らず、既成の概念にとらわれることなく、先進性と独創性のある、新しい文学の可能性を探りたいと考えています。受賞作は、毎年交代する「ひとりの選考委員」によって選ばれ、選考委員の任期は1年です。

次回、第36回(2026年度)選考委員は荒俣宏氏です。

https://www.bunkamura.co.jp/bungaku/

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会社概要

株式会社東急文化村

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業種
サービス業
本社所在地
東京都渋谷区道玄坂2-24-1
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代表者名
嶋田創
上場
未上場
資本金
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設立
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