<第5回サステナブルファッションセミナーレポート>「お客様とともに、ファッションの次世代を考える」 ~業界注目のバイオベンチャー企業×積極導入&支援する「ゴールドウイン」がトークセッション~
地球環境に配慮した人工構造タンパク質素材を開発する 「Spiber(スパイバー)」と衣料から肥料へ還し、食を育む循環型テクノロジー「クレサヴァ」を紹介
豊島株式会社(本社:名古屋市中区、代表取締役社長:豊島半七)は、第5回 サステナブルファッションセミナーとして、「お客様とともに、ファッションの次世代を考える」を、2024年1月15日(月)に開催しました。
当日は、植物由来のバイオマスを主な原料に、微生物による発酵でつくられる人工構造タンパク質素材のBrewed Protein™繊維を開発するSpiber株式会社 枡野 恵也さんと、Brewed Protein™繊維の開発にも携わり、タンパク質素材を使用しているアパレルの販売をグローバルで開始した株式会社ゴールドウイン 新井 元さんをお招きし、商品開発の苦労や現場の手応えをお話しいただきました。
また、セミナー後半では不要な衣類を「捨てる」のではなく「土に還す」テクノロジー”サーキュラー ファーム”を開発し、化学繊維を含むすべての衣類を再資源化し肥料にすることで、循環型の衣食住事業を展開するクレサヴァ株式会社 園部 皓志さんにもご登壇いただき、次世代の素材と循環システムの最前線についてのトークセッションを行いました。
■第一部:「Brewed Protein™繊維の可能性とタンパク質素材を使用したアパレルの店、オープン後の顧客の反応」
第一部ではまず、Spiberの枡野さんから、Spiberの概要や取り組みについてご説明いただきました。
「Spiberは2007年に山形県鶴岡市で創業したバイオベンチャー。生産拠点としてタイにも工場を設立しており、累積1,000億円程度の資金調達を行っている。2015年にゴールドウインさんからの出資を受け、アパレル向けの繊維開発によりフォーカスをした。2020年には豊島さんからの出資を受け、量産化を進めたことで、ようやく日本のお客さまにも手にとっていただける段階にきている」と述べ、自身が今着用しているのが、豊島と開発した自社の繊維を使った商品である、2023年9月にゴールドウインから発売されたシャツと、同年12月にロンハーマンから発売されたフーディー・パンツであると、自らモデルになってご紹介されました。
続けて、Brewed Protein™繊維の製造工程について「『ブリュー』とは『醸造』を意味している。タンクの中にSpiberの技術により設計された微生物がおり、糖類(現在はサトウキビ由来の糖)を入れ発酵させることでタンパク質の粉が抽出できる。タンパク質の粉を用いて様々な素材を開発できるのだが、微生物の遺伝子からデザインしている点が、Spiberがバイオベンチャーたるゆえんでもある」とお話しされました。
また、Brewed Protein™繊維の環境負荷についても「タイの工場をフルで稼働した場合、カシミヤと比較すると、GHG(グリーンハウスガス)は79%、土地の使用は99%、水の使用は97%、富栄養化は82%の削減が見込まれており、非常に環境負荷の低い素材といえる。また、生分解性においても、海中では約30日で約75%を分解、土中では6か月でほぼ分解される」とサステナビリティにおける優位性を説明。
「今年は、『自然界の素材は動物性・植物性を問わず、微生物の分解によりアップサイクルができるのではないか』という考えから『バイオスフィア・サーキュレーション(生物圏循環) 』というプロジェクトを立ち上げた」とまとめられました。
その後、ゴールドウインの新井さん、ファシリテーターの鎌田さんも登壇し、トークセッションを展開。
新井さんはSpiberとの取り組みのきっかけについて、「2014年にゴールドウインの代表取締役社長 渡辺 貴生と鶴岡市を訪れる機会があり、先進的な考え方や将来へのモチベーションに感銘を受けて、一緒に将来を作っていこうと、2015年に取り組みをスタートした」と当時を振り返りました。また、商品化までの道のりについて「これまで世の中になかった素材のため、未経験のことが多く、魅力的な製品にしていくまでの段階ですべてにおいて難しかった」と語りました。一方、枡野さんは、「幅広い方が商品を着ていただく段階となり、機能性や耐久性といった着やすさと、環境負荷を下げるという点の両立について手探りをしている日々」だと、供給側の苦労をにじませました。
さらに、秋にゴールドウインからSpiberの繊維を使った商品を展開した際のお客さまの反応について話題が移ると、新井さんは「国内外を問わず、多くの人に興味をもっていただき、特に若い方の意識が高いことを痛感した。丸の内の期間限定ポップアップショップでは、スタッフにたくさんの質問をしていただくケースもあった。興味を持っていただいていることを直感的に知ることができる、よい機会だった」と体験談を披露。枡野さんも「店頭で触れられる点はすごく喜ばれた。一方で、価格的な面ではもう少し手に取りやすくしてほしいという声もいただいている。ただ、Spiberとしては、『消費者』という言葉に非常に違和感がある。バイオスフィアサーキュレーションにおいて、消費ではなく、循環の中に入っていただける価値観や使命感を共有してくれる存在と考えている。価値観と価格のバランスをどうとるかがチャレンジの一つだと思っている」と述べました。
今後の展望について聞かれると、新井さんは「継続して取り組み、多くの人に着ていただくことが、よりよい世の中を作っていくためのアイデアの一つであると捉えていただけるといいですね」と答えました。
「お取り組みを検討されている企業にBrewed Protein™繊維の魅力を伝えるとしたら?」という質問に対し、枡野さんは「環境負荷低減という価値については自信をもってお伝えできる。一方で、衣類としての着心地のよさをどのように表現するか悩んでいるところ。個人的には素材の質感に優しさを感じるが、個々人の感じ方もあるし、観念的で表現しにくい。Spiberの強みは遺伝子の組成から作り変えることができ、ブランドさまのそれぞれの価値観にあわせて開発ができるところ。まずはお客さまに様々な形でフィードバックをもらい、次の開発に活かしていくといった循環を作り上げていくことができる」と語りました。
新井さんは、共に取り組んでいる立場からSpiberに期待していることについて、「アウトドアウェアでは機能性が求められる。現在は単体の素材で使う段階だが、今後はサーキュレーションを意識した機能の在り方を模索して作っていかないといけない。様々な素材と組み合わせていくことが、アウトドア・スポーツ分野のアパレルであるゴールドウインにとって重要だと思っている。最終的に、自然環境の中にSpiberの製品で遊びに行ってもらえるような将来がくれば」と未来への期待をのぞかせました。
■第二部:「お客様とともにファッションの次世代を考える~次世代の素材と循環技術~」
第二部では、クレサヴァの園部さんによるサーキュラー ファームについてのご説明で開幕しました。「サーキュラー ファームは、衣類の大量廃棄問題に挑むには業界の垣根を超えた新しい衣類からの循環を作り出す必要があると考え、農業に着目したことで誕生した。なぜ農業かというと、衣類はもともと農業から始まった側面もあるからだ。アパレル業界と農業の連携を模索し、化学繊維や天然繊維を分別せずに資源化する方法を考えた。その結果、あらゆる衣類から土に還すことのできる安全な肥料を生成するテクノロジーを開発し、2023年4月に『サーキュラー ファーム』という循環モデルを発表した」と紹介されました。
衣類を肥料にする工程について、「まず、衣類を分別することなく回収し、破砕・粉砕する。化学繊維や天然繊維、付属品なども分けることなく処理することができるのが特徴だ。その後、細かくした繊維を窒素の温度を上げて加熱分解し、炭化させる。ちなみに、焼却した場合と比べて約85%以上のCO2を削減できている。炭化物は京都の美山にある自社農園で実験を重ね、大豆や米ぬかなどの天然の有機物と混ぜて発酵させることによって優れた肥料ができあがった」と説明。「衣類を廃棄するのではなく新しい資源として活用することにより、肥料以外にも土壌改良剤やエネルギーといったものを幅広く開発し、繊維産業から異なる業界に横断できる世界的なビジネスモデルを目指している」と語りました。
その後は、園部さんと第1部のメンバーに、豊島の桜井が加わり、クロストークを行いました。
従来、繊維産業における循環は主に「衣類から繊維に戻す」ものだったのに対し、様々なものが混ざった状態から肥料にするクレサヴァのソリューションについて、Spiberの枡野さんは「2年ほど前までは、自然界ベースの素材で製品を作ることで、Spiberのサーキュレーションを循環させることを考えていた。だが、急速に石油素材も循環させる技術が確立しつつある。分離については『まだ数年かかりそう』という考えだったが、すでに土に還す技術を確立していることに驚いている」と感嘆していました。
園部さんは「サトウキビの肥料など、繊維産業と連携がとれるような循環型も視野に入れており、CO2の削減と、微生物の活性化によるメタンガスの削減について、今後着目していくこともあるだろう」とコラボレーションの可能性を示されました。
また、それぞれの立場での循環への取り組みについての話題では、新井さんは「ゴールドウインでは、1,500店以上の店頭で、自社の製品に関わらず衣類の回収を行っている。また、洋服のリペアについての問い合わせや依頼件数も増えている。一方で、なかなか衣類の処理のされ方についての知識が広まっていないと感じている。わからないことが多いという感覚と、確実にアクションが増えているという双方の実感がある」と回答。
豊島は商社の立場として大きく2つの役割があるとし、「1つ目はSpiberさんやクレサヴァさんのような新しい技術の普及を手助けすること。もう1つは今ある技術をしっかりと守っていくこと。例えば、ウールの反毛と呼ばれる日本で古くから行われている、ウールの製品を回収し、中綿に戻して糸を作る技術があるが、後継者不足や海外生産への置き換えで少しずつ担い手が減っている。新しい技術を増やすとともに、国内の重要な工場や技術を守っていくことが大事だと思っている」と述べました。
一方、Spiberやクレサヴァといった新たな技術を用いた循環の仕組みへの企業の関わり方について、回収の立場であるクレサヴァの園部さんは「循環に加わっていただくことで事業価値をあげていただきつつ、かつ農業にどう繋げていくかを一緒に挑戦していきたい。コラボレーション先としては、アパレルだけでなく、食や農業分野とも一緒に取り組めたら」と回答。例としてあげられた、ゴールドウインの衣服から肥料を作り、野菜を作るといった取り組みに、新井さんも「実現できれば素晴らしい取り組みになる」と賛同しました。
素材を提供する立場のSpiberは「関わり方としては、第一に、環境価値的なことと、お客さまが衣類に期待されることの両輪のバランスをとること。第二に、バイオスフィアサーキュレーションについて、アップサイクルしやすいモノづくりに一緒に取り組むこと。地球上の表面にあるものだけで社会を作っていくという考えでモノづくりをしてくことが一番大事だと考えている」と答え、バイオスフィアサーキュレーションについても「一年でも早く、できることから進めるために、最初はタンパク質と石油系に分けて商品を設計していく。一方で、革新技術を取り入れながら進化させていくつもりだ。その点では、Spiberとクレサヴァさんで発酵技術という共通点があるのが興味深かった」と今後の展望を語られました。
商社の立場として、ブランドから寄せられる循環に関するリクエストについて、桜井は「売れ残りの商品をいかに循環させるかが、一番多いご要望である」とし、新井さんも「そういった売れ残りや製品化されていない材料の余剰在庫など、アパレル業界内で共通の課題がある。素材循環や反毛といった循環だけでは処理できないものは、クレサヴァさんのような異なった角度から循環をさせる。弊社のような機能製品や付加価値を生む会社は、ブランドのバリューを高めて競争しつつも、循環型社会を形成するという部分のバリューをオープンにし共有するという発想が必須になると考えている」と締めくくられました。
【ライフスタイル提案商社】豊島株式会社
1841年創業。180年を超える実績を礎として、時代の変化に応じて事業領域を拡大。グローバルな原料手配から最終製品の企画・生産管理・納品まで、ファッション産業のサプライチェーンを総合的に担います。また持続可能なライフスタイルを提案する企業として、Society5.0の社会に向かってサステナブル素材や機能的な商品の開発を進めるとともに、テックベンチャーへの投資や提携を通じてインフォメーション・テクノロジーを活用したサービスの提供を進めて参ります。2019年より「MY WILL(マイ・ウィル)」をステートメントとし、当社の姿勢を打ち出しています。
https://www.toyoshima.co.jp/
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