心肺停止患者のAIによる高精度予後予測モデルを開発

~ AIを用いた心肺蘇生治療サポートの実現に期待 ~

学校法人 順天堂

順天堂大学医学部附属浦安病院救急診療科の平野 洋平 助教らの研究グループは、医療機関の外で心臓が停止する院外心肺停止患者のデータベースに、AIの機械学習(*1)手法を用いることにより、電気ショック適応の院外心肺停止患者の予後を高精度で予測するモデルの開発に成功しました。心肺停止患者の生命予後に関しては、蘇生過程の多様な要因が関与することから、早期に予測することは困難でしたが、本研究のAI手法を用いることにより精度の高い予後予測を可能にしました。本成果は、救急現場のAIによる最適な蘇生治療選択のサポートを可能とし、社会復帰可能な状態での蘇生患者の増加につなげられることが期待されます。本論文はResuscitation誌に掲載されました。
本研究成果のポイント
  • 全国規模の院外心肺停止患者データベースに機械学習を適用
  • 心肺蘇生治療の早期に高精度な予後予測が可能なモデルを開発
  • AIを用いた心肺蘇生治療サポートの可能性を提示

背景
医療機関の外で心臓が停止する院外心肺停止事例は、国内において年間約12万件発生しています。心肺停止患者の蘇生には、周りに居合わせた人たちが迅速な救命処置を行うことが重要であり、救命および社会復帰できる可能性が、何もせずに救急車を待った場合と比べて大きく向上します。搬送された医療機関では患者を蘇生するための心肺蘇生治療が行われますが、心臓マッサージをはじめとし、時には高額な人工心肺装置や体温管理装置など多くの医療資源や人的資源が投入されます。しかしながら、このような医療資源を集中的に投入しても、死を免れない症例や、たとえ生存したとしても脳に重篤な障害を残し、社会復帰不可能な状態となってしまう症例も数多くあります。心肺停止症例の予後に関しては、蘇生過程の多様な要因が関与することから、その予測は非常に複雑で難しく、1分1秒を争う救急現場において、高額で限られた医療資源をどの症例に用いるべきか、蘇生治療の選択をいかにして的確かつ迅速に行うかが大きな課題となっています。蘇生行為の早い段階で心停止患者の予後が予測できれば、現場の医師が最適な蘇生治療法を選択しやすくなることが考えられます。そこで、今回研究グループは、AIを用いた機械学習手法に着目し、心肺停止患者の予後予測モデルの開発に取り組みました。

内容
本研究では、総務省消防庁による全国規模の院外心肺停止症例のデータベース(救急蘇生統計;ウツタインデータ)のうち、2013年から2017年の計5年間分のデータを使用しました。心肺停止症例の中でも、特に社会復帰可能な状態での蘇生が得られやすい、電気ショックによる治療が適応された心肺停止症例、全43,350例を抽出しました。また、18歳未満および外的要因による心肺停止症例は研究対象から除外しました。得られたデータはその後、機械に学習させ最適な予測モデルを作成するために使用するトレーニングセット(n = 23,668、2013~2016年のデータ)と、開発された機械学習モデルを実際に検証するために使用するテストセット(n = 6381、2017年のデータ)に分類しました。予測する対象としては、 ①心停止から1か月時点での死亡または脳神経学的な機能低下を伴う生存(すなわち社会復帰可能な生存が得られない状態、poor outcome)と、②1か月時点での死亡の2種類を設定しました。予測に使用する情報としては、病院搬送までの時間や強心剤(エピネフリン)の投与回数等、病院到着前に得られる計19の情報を使用しました。最適な機械学習モデルを模索するために、ロジスティック回帰、サポートベクターマシン、ランダムフォレスト、多層パーセプトロンという多種類のモデルでの検討を行いました。
その結果、検証されたすべての機械学習モデルにおいて、高い精度での予測に成功しました。特にAUROCというモデルが予測する能力の評価指標(一般的には0.8を越えると予測能力が高いと判断され、高いほどよい)では、ロジスティック回帰で0.882、サポートベクターマシンで0.866、ランダムフォレストで0.877、多層パーセプトロンで0.888 の精度で1ヶ月後に社会復帰可能な状態かどうかを予測できました(図1)。
以上のことから、AIの機械学習手法を利用して、電気ショック適応の院外心肺停止患者の予後を早期に高精度で予測するモデルの開発に成功しました。

図1: 本研究で検証された各機械学習モデルの精度(ROC曲線とAUROC)図1: 本研究で検証された各機械学習モデルの精度(ROC曲線とAUROC)

今後の展開
本研究は、これまで臨床医(人間)にとっては難しかった心肺停止症例の予後の予測が、AIによって一定の根拠と精度で可能になることを示しました。院外心肺停止患者が搬送された早期に、脳のダメージも考慮したAIによる予後予測があれば、医療者はそれに応じて治療介入法の選択が可能になり、社会復帰可能な状態での生存の増加につながります。本研究は日本救急医学会AI研究推進委員会の推薦研究にも採択されており、AIによる心肺蘇生治療の変革に向けて、より高い精度の追求、さらには臨床試験を通じた、実際の臨床現場への導入を目指していきたいと考えています。

用語解説
*1 機械学習: コンピューターにデータを反復して学習させることで、そこに潜む特性を発見させる手法

原著論文
本研究はResuscitation誌で(2021年01月01日付)で公開されました。
タイトル: Early outcome prediction for out-of-hospital cardiac arrest with initial shockable rhythm using machine learning models.
タイトル(日本語訳): 初期波形ショック適応リズムの院外心停止患者における機械学習を用いた早期予後予測
著者:Hirano Y, Kondo Y, Sueyoshi K, Okamoto K, Tanaka H.
著者(日本語表記):平野 洋平、近藤 豊、末吉 孝一郎、岡本 健、田中 裕
著者所属:順天堂大学医学部附属浦安病院 救急診療科
DOI: 10.1016/j.resuscitation.2020.11.020

本研究はJSPS科研費JP19H03764の支援を受け実施されました。
なお、本研究にご協力いただいた皆様には深謝いたします。

 

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業種
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本社所在地
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代表者名
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上場
未上場
資本金
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設立
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