ハサミムシにだって“好み”がある!

〜 花資源の利用様式を解明 〜

国立大学法人熊本大学

(ポイント)

・北海道の礼文島で同所的にみられるキバネハサミムシとコブハサミムシの訪花目的、利用する植物分類群(科)や訪花個体の発育段階(若虫*・成虫)の違いについて調査しました。

・両種とも、花粉摂食を主目的にしてさまざまな植物分類群(計15科36種)の花、特にキク科とセリ科をよく利用するという実態を明示しました。

・採餌源植物の利用状況には種・発育段階による違いがみられ、キバネハサミムシの成虫とコブハサミムシの成虫・若虫はキク科を、キバネハサミムシの若虫はセリ科を強く選好していました。その理由として、キバネハサミムシ若虫が先天的にセリ科の花を好む可能性に言及しました。

(概要説明)

熊本大学大学院先端科学研究部・准教授の杉浦直人と北九州市立自然史・歴史博物館・学芸員の竹下文雄は、ハナバチやチョウなどと同じく、花を訪れるハサミムシ類にも採餌源植物に対する選好性があることを明らかにしました。この知見は“訪花昆虫としてのハサミムシ”の生態の一端を初めて詳細に明らかにするものです。本研究の成果は令和7年7月2日に日本昆虫学会誌のEntomological Scienceにオンライン掲載されました。

[今後の展開]

少なくとも礼文島では、キバネもコブも主に花粉摂食を目的としてさまざまな分類群の花、特にキク科とセリ科を利用するといえます。これら2つの分類群がよく利用されたのは、「どちらの科でも花上で花粉が露出しており、訪れさえすれば簡単に摂食できるから」と「礼文島では、夏から秋の時期にかけてキク科とセリ科に属する複数の種が大量に開花するから」という2つの事情に因ると考えられます。今後、訪花性ハサミムシ類の生存や成長・繁殖にとって花粉の摂取がどれくらい重要な意味をもつのか、飼育実験等も駆使して解明していく必要があると思います。

 どうしてキバネではセリ科からキク科へと個体発生的な食物ニッチの移行が起きるのか、今回の調査結果からは説得力のある解釈(理由)を提示することができませんでした。ただ、「利用しようと思えば、キバネ若虫もキク科が利用可能だったこと」と「若虫の口器の形状に顕著な違いが認められないこと(杉浦, 個人的観察)」を考えあわせると、その理由を「①キバネ若虫は先天的にセリ科での採餌を好む可能性」や「②キバネとコブの若虫間に花資源をめぐる種間競争が生じ、キバネが排斥されている可能性」に求めるべきなのかもしれません。ただ、このうちの②については、礼文島では花資源をめぐる種間競争が生じるほど訪花個体数は多くなく、その可能性は低いと思われます。今後さらに「セリ科の花が利用できない環境下では、キバネ若虫がどんな花を利用しているのか?」「コブ若虫がいない環境下でもキバネ若虫はセリ科の花を選好するのか?」「礼文島以外の地域でも、コブはセリ科の花を利用しないのか?」といった各種の疑問に答えが提示できるよう、引き続き調査していくことが必要です。今回の私たちの報告がこれまで見過ごされてきた訪花性ハサミムシに目を向けるきっかけとなれば幸いです。

[用語説明]

*若虫=バッタやカメムシといった不完全変態する昆虫における幼虫のこと。ニンフ(nymph)ともいう。

(論文情報)

論文名:Notes on floral resource utilization in two sympatric earwig species (Dermaptera: Forficulidae)

著 者: Naoto Sugiura and Fumio Takeshita

掲載誌: Entomological Science

doi: 10.1111/ens.12600

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上場
未上場
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設立
1949年05月