角層からさまざまな肌状態を簡便に推定
~赤外線吸収スペクトルを用いた「コルネオスペクトル解析」を開発~
この研究成果は、第89回SCCJ研究討論会(2022年12月1~2日・東京都)にて発表しました。
背景
肌の最表層に存在する角層は、核のない細胞が重なった厚さ0.02mm(20μm)の組織で、表皮の角化に伴う一連の生物学的変化の痕跡を有し、肌の機能や肌を構成する成分などに関する豊富な情報を持っています。また、新しい細胞が作られるにしたがって肌表面から自然にはがれ落ちる性質があることから、粘着テープを肌にあてるだけで容易に採取できるというメリットがあります。
花王は、角層を迅速、簡便、低コストで評価できるという観点から赤外線分光法に着目し、研究、カウンセリングサービスへの活用を進めてきました。赤外線分光法は、分析しようとするサンプルに赤外線を照射し、透過または反射した赤外線の量を波長ごとに測定する分析方法です。吸収される波長は物質を構成する化学結合の種類によって異なるため、サンプルの赤外線波長ごとの吸収量の分布(赤外線吸収スペクトル)は、サンプルを構成する物質の組成や構造に応じて変化します。つまり、角層の赤外線吸収スペクトルには、角層のタンパク質や脂質、アミノ酸などの物質の情報が反映されています。
花王はこれまでに、角層の赤外線吸収スペクトル中の“タンパク質”に由来する信号の解析から、皮膚の角化状態を推定できるという知見*1を得て、最新ビューティ情報を国内外に発信する中核拠点BEAUTY BASE by Kaoでのカウンセリングに利用してきました。今回はさらに、タンパク質だけでなく角層に含まれる物質の情報を幅広く利用して、肌の水分量やバリア機能といった複数の肌状態の推定を高精度に行うことをめざし、技術の構築に取り組みました。
*1 Takada, S., et al. (2012). Applied spectroscopy 66(1): 26-32.、Takahashi, H., et al. (2014). J Dermatol 41(2): 144-148.
角層の赤外線吸収スペクトルデータから肌状態を推定する「コルネオスペクトル解析」技術を開発
花王は、日本人女性389名*2の肌の状態をさまざまな機器で計測し、加えて顔面頬部から採取した角層からATR-FTIR分光光度計を用いて赤外線吸収スペクトルを取得しました。広い領域の膨大なスペクトルデータを処理するため、多変量解析手法の一つである部分的最小二乗回帰(Partial Least Squares Regression, PLSR)分析を用い、肌状態の機器計測値を最もよく説明できる計算式を構築しました。
得られたコルネオスペクトル解析結果の精度を肌状態の機器計測値との相関係数により確認した結果、角層水分量(キャパシタンス)や経皮水分蒸散量(TEWL)など肌状態に関する多くの項目を推定できることが示されました。また、肌状態だけでなく、肥満度を示す指標として知られているBMI(Body Mass Index:体格指数)の相関も有意となり、身体の状態も推定できる可能性が示されました(図2、3)。
*2 2018~2019年実施。20~50代女性389名を対象に30歳代と50歳代は春夏秋冬、20歳代と40歳代は冬に計測したデータを使用
まとめ
今回、角層の赤外線吸収スペクトルの解析により、複数の肌や身体の状態の推定が可能になることが明らかとなりました。この解析は、簡便に安価で実施できること、自宅で採取した角層を送って分析できることも大きなメリットといえます。さらに、角層の赤外線吸収スペクトルが角層を構成するさまざまな物質の情報を反映していることを利用すると、肌状態の推定だけではなく、これまでとは違う視点から肌トラブルの原因も推定できる可能性があります。
この技術は、2022年11月より提供を開始した、今の肌状態を精緻に把握する肌解析サービス「スキンポテンシャルアナリシス」の中で活用されています。花王は、お客さま一人ひとりが自分の肌状態を知り、自分にとって的確なケアを見つけるプレシジョン・モニタリング技術の実装を推進していきます。
このプレスリリースには、メディア関係者向けの情報があります
メディアユーザー登録を行うと、企業担当者の連絡先や、イベント・記者会見の情報など様々な特記情報を閲覧できます。※内容はプレスリリースにより異なります。
すべての画像