2010年代以降のヨーロッパを代表する漫画家マヌエレ・フィオールの代表作ついに邦訳。
イタリアの刺すような日差しの中、二人の少年と一人の少女が恋におちる。20年の歳月を140頁で駆け抜ける秒速5000kmのラヴ・ストーリー
切ないラヴ・ストーリーを美しい色彩で!!
イタリアのどこかの地方都市。刺すような日差しの中で出会った2人の少年と1人の少女。
イタリア・ノルウェー・エジプトの3ヶ国を舞台にした、三者三様の人生が淡く交わる20年の恋模様。
甘酸っぱさと苦味を併せ持つ、身に覚えのある方も多いような、しかし言葉にすることも難しいような恋愛の小さな痛みを美しい色彩で表現します。
高い国際的評価と、日本での紹介の遅れ
海外漫画ファンのあいだでは、マヌエレ・フィオールは新鋭の作家として、よく知られてました。漫画家の松本大洋や、故・谷口ジローも彼の名前を注目の作家として名前をあげたことがあります。
『秒速5000km』が2011年に受賞した「アングレーム国際漫画祭最優秀作品賞」は世界で最も権威のある漫画賞。日本人の受賞者は、これまで水木しげる(『のんのんばあとオレ』)だけです。本作は発表当時からヨーロッパや北米を中心に高い評価を得ていましたが、日本での紹介は遅れました。今回がフィオール作品の初邦訳となります。
ただ2017年に一度、フィオールの「絵」が出版されたことがあります。伊坂幸太郎『クリスマスを探偵と』の挿絵としてです。この度、伊坂さんから推薦文を頂きました。
伊坂幸太郎・推薦のことば
フィオールさんの作品が翻訳されて、日本で読めるようになったのは本当に嬉しい!作品の中にゆったりと流れる時間と、美しい色彩には映画とも小説とも漫画ともつかない、独特の気持ち良さがあって眺めているだけで幸福感を覚えます。
――― 伊坂幸太郎(小説家『重力ピエロ』『クリスマスを探偵と』)
美しい水彩画をフルカラーで
フィオールの漫画の特徴にその美麗な色彩表現があります。感情の揺れ動きを色彩の変化で表現するのです。
暖色(=赤系)には温もりや情熱を、寒色(青系)には冷たさや知性を、そして暖色と寒色のあいだの黄緑や紫には曖昧さや不安定さを、人は感じます。『秒速5000km』は、黄緑色から始まりつつ、暖色や寒色のあいだを振り子のように行きつ戻りつしながら進み、感情が最も不安定になるときに紫色が基色となりクライマックスを迎えます。
そしてエピローグで黄緑色に回帰します。色彩が物語構造の円環を示唆するように設計されているのです。こういう色彩表現は日本の漫画には見られません。フィオールの美しい水彩画を、フルカラー印刷でお楽しみください。
コスモポリタンとしての漫画表現
『秒速5000km』にはナレーションがありません。登場人物のセリフだけで構成されています。フィオールは「あれから10年…」といった野暮な文章は入れずに、ルチアとピエロの人生の6つの場面を断片的に見せることで、わずか140ページで20年の月日を描き切ります。その6つの場面は、イタリア、ノルウェー、エジプトと地理的なヴァラエティに富んでおり、1つの章に1つの舞台だけが描かれるという制約が課せられています。そのため離れ離れの2人をつなぐ、電話や手紙といったコミュニケーション手段が印象的なガジェットとして描かれます。
書名の『秒速5000km』は、オスロ(ノルウェーの首都)とエジプトの発掘現場の物理的な距離=5000kmと、国際電話のタイムラグ=1秒に由来しています。またこの地理的な国際性から、イタリア語、ノルウェー語、フランス語、英語、エジプト語の5つの言語の使用する規格外の試みが導かれます。ヨーロッパでは、EUによる「移動の自由化」(ノルウェーはEU非加盟国)や移民の増加などで他国籍、他言語の人と共生するのが日常になり、自らが他国で労働/生活することもありふれた人生の選択になっています。このような現実の反映が『秒速5000km』の国際性につながっているのでしょう。日本でも外国人労働者の数は、本書が出版された2010年から増え続けており、今後、国力の低下により国外で働く日本人の数も増え続けるでしょう。本書は21世紀の人々の心象に寄り添うものとして、2023年の日本において新たな価値が見出されるはずです。
イタリア漫画史におけるフィオール
巻末には、翻訳者の栗原俊秀氏による、10000字越えの解説「フィオールに魅せられて―文学、美術、建築が綾なすフメッティの世界―」が収録されています。
これはフィオールの経歴や作品、また彼と深く関ることになる出版社ココニノ・プレスについて書いた文章で、現代イタリア漫画史に「フィオール」という漫画家を位置付ける解説です。
特にココニノ・プレスは、日本ですでに紹介されている漫画家・イゴルトが設立したユニークな出版社で、現代イタリア漫画を知るためには避けて通れないトピックスとなります。
ヨーロッパの漫画というと、フランス、ベルギーで出版されるBD(バンド・デシネ)ばかりが話題になりますが、その点でも、イタリアの現代漫画の情況を取り上げた栗原の解説は、大変ユニークなものと言えるでしょう。図版もフルカラーで、豊富に掲載しております。
著者略歴
1975年、イタリア生まれ。ヴェネツィア建築大学卒業。スイスの版元アトラビルから刊行された『日曜の人びと』(2004)で商業漫画家としてデビュー。流麗な色彩が印象的な『秒速5000km』(2010)は2011年アングレーム国際漫画祭最優秀作品賞を受賞。『インタヴュー』(2013)では一転して、木炭とインクを用いたモノクロの漫画表現に挑戦。『オルセー変奏』(2015)はオルセー美術館とのコラボレーション作品。最新作は『ヒペリコン』(2022)。日本では伊坂幸太郎の絵本『クリスマスを探偵と』(2017)の絵を担当した。漫画作品の日本語訳は本書『秒速5000km』がはじめて。
全国の複数書店にて複製原画展を開催!
教文館(銀座)・銀座 蔦屋書店ほか全国複数の書店にて本作品の複製原画展を開催中です。この機会に、マヌエレ・フィオールの魅力をご鑑賞ください。
書誌情報
書名 :秒速5000km
著者 :マヌエレ・フィオール(著) 栗原俊秀(訳) ディエゴ・マルティーナ(訳)
発売日 :2023年5月31日
価格 :3300円(税込)
仕様 :B5変型・160ページ
ISBN:978-4-8387-3238-8
発行 :株式会社マガジンハウス
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