りんごから抽出したポリフェノールで変形性膝関節症の症状を抑制-内科的治療への可能性を細胞・動物実験により検証-
千葉大学大学院医学研究院細胞治療内科学 清水孝彦講師、横手幸太郎教授を中心とする研究グループは、アサヒグループホールディングス株式会社との共同研究により、食品素材である「りんごポリフェノール」が、変形性膝関節症の進行を抑制することを、細胞および疾患モデルマウスを用いた試験により、明らかにしました。
変形性膝関節症は、膝関節の腫れや痛みを伴い、歩行が困難になるなど、生活の質を著しく低下させる運動器疾患です。関節において緩衝作用を担う「軟骨」が擦り減ることが主な原因であり、骨への負担が増加することで症状が悪化します。未受診者を含め、現在国内には40歳以上の患者が2,500万人いると推定されていますが、主な治療は外科的処置となっており、服用による内科的治療は補助的なものとなっています。一方、近年の研究により、膝関節の軟骨細胞におけるミトコンドリア(*注)の機能低下が、変形性膝関節症の発症と悪化に関連していることが見出され、ミトコンドリアを介した治療法の確立が有望視されています。りんごから抽出されたポリフェノールには、強い抗酸化作用があり、抗腫瘍、抗肥満、抗疲労をはじめ、様々な効果を有することが報告されています。最近の知見により、これらの生理機能が発揮される一因として、りんごポリフェノールのミトコンドリアを介した作用機構が考えられています。
そこで本研究では、軟骨細胞におけるりんごポリフェノールのミトコンドリアへの作用、ならびに変形性膝関節症に及ぼす影響について検証しました。
その結果りんごポリフェノールは、軟骨細胞においてミトコンドリアの新生を促し、軟骨の構成成分であるプロテオグリカンの産出を促進することが示唆されました(図1)。また、変形性膝関節症モデルマウスでは、りんごポリフェノールがその症状悪化を抑制することが確認されました。
以上のことから、りんごポリフェノールは、変形性関節症の内科的治療分野における、有望な食品素材として期待できます。
*注:ミトコンドリア
ミトコンドリアは、大部分の真核生物に存在する細胞小器官です。生物の活動に必要なエネルギーを産出しており、その他にも細胞周期や代謝にも関与する、非常に重要な細胞小器官です。
この成果を報告した論文は、2018年5月8日にScientific Reportsに掲載されました。(https://www.nature.com/articles/s41598-018-25348-1)
- 試験内容
■りんごポリフェノールによるミトコンドリア新生作用の検証
マウス胎児より樹立した軟骨細胞を用いて、りんごポリフェノールがミトコンドリアに与える影響を検証しました。その結果、りんごポリフェノールを添加した細胞で、ミトコンドリアDNA量の増加(図2)、ミトコンドリアの転写調節因子の発現上昇、およびミトコンドリアの活性向上を確認しました。このことからりんごポリフェノールは、ミトコンドリアの新生を促進する可能性が示唆されました。
■りんごポリフェノールによるプロテオグリカン産出作用の検証
軟骨組織に存在するプロテオグリカンは、高い保水力があり、機械的な負荷から関節を保護する働きがあります。変形性膝関節症では、プロテオグリカンを産出する機能が低下することが先行研究で明らかになっています。そこで、樹立した軟骨細胞を用いて、りんごポリフェノールがプロテオグリカンの産出に与える影響を検証しました。その結果、りんごポリフェノールの添加により、プロテオグリカン合成遺伝子の発現上昇、およびプロテオグリカン量の増加(図3)を確認しました。このことからりんごポリフェノールは、プロテオグリカンの産出を促進する可能性が示唆されました。
2) 変形性膝関節症モデルマウスを用いた試験
■動物での膝関節軟骨変性の抑制作用
軟骨細胞でのミトコンドリア機能不全を起こしたマウスに対し、靭帯切除術により変形性膝関節症を誘導した後、りんごプロシアニジン(りんごポリフェノールをさらに精製した成分)を8週間経口摂取させました。その結果、膝関節の軟骨変性が組織学上有意に抑制されました(図4)。
以上の結果から、りんごポリフェノールの軟骨細胞におけるミトコンドリア新生、ならびにプロテオグリカン産出の促進効果が示唆されました。さらに変形性膝関節症への保護効果も有することが明らかになりました。
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