いぶきGW搭載のTANSO-3及びAMSR3が初観測データを取得
温室効果ガス・水情報の観測データを地球温暖化対策や気象予測、漁業など多方面に活用

三菱電機株式会社は、宇宙航空研究開発機構(以下、JAXA)から受注し、2025年6月29日にH-IIAロケットによって打ち上げられた、温室効果ガス・水循環観測技術衛星「いぶきGW」(GOSAT-GW)(以下、いぶきGW)(※1)搭載の「温室効果ガス観測センサ3型:TANSO-3(たんそすりー)」(※2)及び「高性能マイクロ波放射計3:AMSR3(あむさーすりー)」(※3)の試験電波発射により、初観測データを確認しましたのでお知らせします。いぶきGWの観測データは、今後、地球温暖化対策や気象予測、漁業など多方面への利活用が期待されます。
いぶきGWは、地球上の温室効果ガスを観測するTANSO-3と水循環の状態を観測するAMSR3の2つのセンサを搭載したハイブリッド衛星です。当社はいぶきGWの開発を2019年度に開始し、鎌倉製作所(神奈川県鎌倉市)で全体の設計・製造・試験を担当しました。TANSO-3の初観測は7月14日から7月20日に実施され、AMSR3の初期観測を8月11日より開始しており、両センサが正常に動作していることが確認できました。
TANSO-3は、現在運用中の温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)(以下、いぶき)や、温室効果ガス観測技術衛星2号「いぶき2号」(GOSAT-2)(以下、いぶき2号)に搭載されたセンサの後継機で、温室効果ガス(二酸化炭素、メタン)の濃度を観測するものです。面的な観測が可能な回折格子型分光方式(※4)を新たに採用することにより、地球上の温室効果ガス排出量を広範囲かつ高精度に把握できます。また、今回初めて二酸化窒素の観測が可能となりました。二酸化窒素は、二酸化炭素と同様に化石燃料の燃焼時に発生しますが、二酸化炭素と比べ大気中の滞留時間が短いという特性を持ちます。二酸化炭素と二酸化窒素を同時に測定することで、人間活動により排出された温室効果ガスと自然起源の温室効果ガスの差分を把握しやすくなり、温室効果ガス排出源の特定や排出量の観測精度の向上が期待されています。
AMSR3は、現在運用中の水循環変動観測衛星「しずく」(GCOM-W)に搭載されたセンサの後継機で、直径約2メートルの大口径アンテナにより海面水温、土壌水分量、海氷密接度、水蒸気量などを観測します。地表面や海面、大気などから自然に放射されるマイクロ波を天候や昼夜を問わず観測し、マイクロ波放射計として世界トップクラスの性能と機能(※5)を有しています。これにより、従来、地表面を雪や氷に覆われて観測が難しかった極域についても、降雪量の観測が可能となる他、海氷状況の観測精度も向上します。
■TANSO-3の特長

1.回折格子型分光方式の採用により、面的な観測データの取得を実現

・分光方式として、地球上を隙間なく面的に観測可能な回折格子型分光方式を新たに採用。いぶき、いぶき2号に搭載されたフーリエ干渉分光方式(※6)のセンサによる格子点状観測と比較し、より緻密な観測データを取得可能
2.2種の観測モードにより、温室効果ガスの排出量を広域/精密に把握
・911キロメートル以上の観測幅を10キロメートルの分解能で面的に観測する「広域観測モード」と、約90キロメートルの観測幅を3キロメートルの分解能で詳細に観測する「精密観測モード」による2種の観測が可能
・「広域観測モード」による国単位などの広域の排出量の観測から、「精密観測モード」による都市域、発電所、石油・ガス施設などからの排出の検出まで、ユーザーのニーズに応じた観測データの取得を実現
3.二酸化窒素の観測により、温室効果ガスの排出源・排出量の観測精度を向上
・従来の二酸化炭素やメタンの観測に使用されていた波長帯に加え、二酸化窒素を観測可能な波長帯を新たに追加
・化石燃料の燃焼により二酸化炭素とともに排出され、かつ自然起源の吸収・排出量が少ないことから、周辺大気の自然発生量と人間活動による排出量の差を特定しやすい二酸化窒素を二酸化炭素と同時に観測。二酸化炭素のみの観測時と比較し、温室効果ガス排出源の位置と起源をより正確に把握することで、排出源と排出量の観測精度を向上
■AMSR3の特長

1.新たなチャネルの追加により、高緯度・高高度における観測能力を向上

・従来の16の観測チャネルに加えて、166GHz帯及び183GHz帯を新たに採用。これらの観測チャネルが持つ、大気中の水蒸気や氷粒子由来のマイクロ波の放射・散乱を詳細に観測可能という特性を活かすことで、北極や南極といった、地表面を雪や氷に覆われて、観測が難しかった高緯度地点における降雪量の観測が可能
・高度4~7キロメートルにおいて、高度別の水蒸気量の観測も可能な183GHz帯の観測チャネルで取得した観測データを気象予報に活用することにで、熱帯低気圧発生初期の発達予測、進路予測や集中豪雨予報の精度向上に貢献
・今回追加された166GHz帯及び183GHz帯に約6キロメートルの空間分解能を採用することで、鮮明な観測を実現。北極海の海氷状況をより詳細に把握することで、北極海航路の運航計画立案などに寄与
2.ノイズを低減したチャネルにより、海面水温観測の高解像度化・広域化を実現
・空間解像度(※7)の高い10GHz帯の観測チャネルにノイズの少ないチャネルを追加することで、海面水温観測における高解像度化を実現
・海面水温観測の空間解像度向上に伴い、沿岸付近における観測可能範囲の広域化を実現。これにより、海面水温で魚群を探す漁法が、従来の沖合・遠洋漁業での利用に加え、大陸棚周辺にまでに拡大
■今後の予定・将来展望
当社は、TANSO-3及びAMSR3の観測データの提供開始に向け、環境省、JAXAの運用支援を継続します。
また、当社は民間独自の取組みとして、株式会社三菱UFJ銀行、衛星データサービス企画株式会社、カナダのGHGSat Inc.と共に衛星データを利用した温室効果ガス排出量の可視化に関するパートナーシップ契約を締結(※8)し、温室効果ガス排出量のデータ提供サービス開始に向けた取り組みを進めています。環境省・国立環境研究所から2025年内を目指し提供されるTANSO-3の観測データを活用し、GHGSat Inc.の衛星データと組み合わせることで、サステナブル社会の実現への貢献を目指します。
当社は今後も、長年培った宇宙開発に関する知見を最大限に活用することで、衛星の開発・製造に携わるとともに、衛星観測ソリューションを通じた社会課題の解決に取り組み、豊かな社会実現に寄与します。
■ いぶきGWの概要

寸法(軌道上) |
5.1m×23.0m×5.0m |
質量 |
約2.6t |
発生電力 |
約5,300W |
軌道 |
太陽同期準回帰軌道 高度666キロメートル |
設計寿命 |
7年以上 |
■三菱電機の宇宙システム事業について
三菱電機は、JAXAが推進する国内衛星開発プロジェクトを中心に国内外の衛星開発・製造を通じて、日本の宇宙開発におけるリーディングカンパニーの地位を築いてきました。
今後も保有する先端技術を強化し、宇宙システム事業の更なる継続的発展に向けた挑戦を通じて、持続的でレジリエントな社会及び豊かな未来の実現に貢献していきます。
■三菱電機グループについて
私たち三菱電機グループは、たゆまぬ技術革新と限りない創造力により、活力とゆとりある社会の実現に貢献します。社会・環境を豊かにしながら事業を発展させる「トレード・オン」の活動を加速させ、サステナビリティを実現します。また、デジタル基盤「Serendie®」を活用し、お客様から得られたデータをデジタル空間に集約・分析するとともに、グループ内が強くつながり知恵を出し合うことで、新たな価値を生み出し社会課題の解決に貢献する「循環型 デジタル・エンジニアリング」を推進しています。1921年の創業以来、100年を超える歴史を有し、社会システム、エネルギーシステム、防衛・宇宙システム、FAシステム、自動車機器、ビルシステム、空調・家電、デジタルイノベーション、半導体・デバイスといった事業を展開しています。世界に200以上のグループ会社と約15万人の従業員を擁し、2024年度の連結売上高は5 兆5,217 億円でした。詳細は、www.MitsubishiElectric.co.jpをご覧ください。
※1 https://www.MitsubishiElectric.co.jp/society/space/satellite/observation/gosat_gw.html
※2 二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスを観測するセンサ。TANSO-3は、Total Anthropogenic
and Natural emissions mapping SpectrOmeter-3の略称
※3 地表や海面、大気などから自然に放射・散乱されるマイクロ波を観測するセンサ。
AMSR3は、Advanced Microwave Scanning Radiometer 3の略称
※4 回折格子型分光方式は、「回折格子(grating)」という光の波長程度の極めて狭い間隔で多数の
溝を刻んだ光学素子を用いて分光情報を取得する。TANSO-3では2次元の検出器の1方向を回折
格子による波長分散方向、もう1方向を観測幅方向に割り当てることで、面的観測を実現している
※5 JAXA https://www.satnavi.jaxa.jp/ja/project/gosat-gw/index.html
※6 フーリエ干渉分光方式は光の干渉を利用したセンサ。干渉計を用いて光の干渉波形を測定し、
数学的処理(フーリエ変換)により分光情報を取得することで、温室効果ガスの観測を行う
※7 センサがどのくらい細かく空間を見分けられるかを示す性能指標のこと
※8 2024年11月15日広報発表
https://www.MitsubishiElectric.co.jp/ja/pr/2024/pdf/1115-b.pdf
<お客様からのお問い合わせ先>
三菱電機株式会社 防衛・宇宙システム事業本部 宇宙システム事業部
〒100-8310 東京都千代田区丸の内二丁目7番3号
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