【富山高専】「合金型ナノ粒子担持触媒を短時間かつワンプロセスで合成する手法」の開発に成功
- ポイント
・金と銀の元素で構成される合金型ナノ粒子を、金属の加熱だけで簡便に作製する方法を開発しました。
・ナノ粒子の金と銀の元素構成比を任意に調節して、合金型ナノ粒子を作製することができます。
・作製したナノ粒子をガラスやシリコンなどの基板に積層することで、ナノ粒子を担持した触媒としてそのまま一酸化炭素酸化反応に用いることができます。
・ナノ粒子の作製から基板固定までの工程が、ワンプロセスで短時間に完了します。多様な条件のナノ粒子が簡便に調製できるため、ナノ触媒作製の大きなアドバンテージになると期待できます。
- 概要
富山高専物 質化学工学科の迫野奈緒美講師と富山大学学術研究部工学系 生体物質化学研究室の迫野昌文 准教授は、富山高専 物質化学工学科 津森展子 教授と九州大学 理学研究院化学部門 村山美乃 准教授と共同で、2種類の金属元素で構成される合金型金属ナノ粒子を担持した基板の作製に成功し、一酸化炭素酸化反応(CO酸化反応)の触媒として機能することを明らかにしました。
本手法は、粒子合成からナノ触媒担持基板の作製を、およそ2時間程度と非常に短時間かつワンプロセスで完了することができます。これまでに、複数種類の元素から成る金属ナノ粒子の作製法やナノ粒子の担体固定法は、多く報告されていますが、粒子作製から担体固定までをワンプロセスで実現する方法はありませんでした。また、ナノ粒子の金属の配合を、任意の割合で変化することもできるため、様々な性質の合金型金属ナノ粒子を作ることが可能となります。
今回の成果は、ナノ粒子物性の基礎研究にとどまらず、新規ナノ触媒の調製やナノ粒子をプローブとする生体分析など広範囲への応用が期待されます。本研究成果は、アメリカ化学会の学術誌「ACS Applied Nano Materials」に2023年2月9日(木)(日本時間)にオンライン掲載されました。また、同学術誌のSupplementary Coverにも選出されました。
- 研究の背景
金属ナノ粒子は、金属原子が複数集まってできるナノメートルサイズの固体粒子です。金や銀などの貴金属でできた金属ナノ粒子は、表面プラズモン共鳴(SPR)と呼ばれるユニークな光学特性をもつため、生物学や分析化学においてプローブとして広く用いられています。また、金属のナノ粒子化は、バルク状の金属にはない反応活性を示すことがあり、ナノスケール触媒(ナノ触媒)としての利用もされています。近年、2種類の金属で構成されるナノ粒子(コンポジット粒子)が、1種類の金属元素で構成される粒子(単一金属粒子)と異なる特性を示すことが明らかになり、プローブの多様化や触媒活性の向上など、ナノ粒子の高機能化が期待されています。この特性の変化は、ナノ粒子を構成する各元素の空間配置(ナノ構造)と元素の構成比(モル分率)に影響するため、高機能なコンポジット粒子の作製には、ナノ構造とモル分率の調節が不可欠となります。
これらの要素を調節するナノ粒子合成法は、これまでに報告されていますが、複雑な金属前駆体の合成や高価な機器を使用する必要があり、コンポジット粒子の工業利用の大きな妨げとなっています。また、ナノ粒子担持触媒を得るためには、合成したナノ粒子の含浸や焼成などの複数の工程が求められます。そのため、コンポジット粒子の合成からナノ粒子担持に至るまで、触媒作製の工程が複雑化する問題があります。
- 研究の内容・成果
研究グループは、ナノ粒子の気相合成法である蒸発濃縮法(EC法)に着目しました。EC法は、バルク状の金属の加熱により金属元素を蒸発し、蒸発した元素の再凝縮によりナノ粒子を得る方法です。市販の安価な管型電気炉を用いて、加熱のみでナノ粒子が作製できるため、低コストかつ簡便なナノ粒子作製手法となります。我々は、2台の電気炉を接続した二重蒸発濃縮法(DEC法)を考案し、金及び銀で構成されるコンポジット粒子の作製を行いました。図1に、粒子の作製から触媒評価の流れを示しました。
本研究の特筆すべき成果として、以下の3つが挙げられます。
①バルク状の金属から合金型コンポジット粒子を作製可能
バルク状態の金及び銀をそれぞれ電気炉で加熱することで、合金型ナノ構造のコンポジット粒子が得られました。また、EC法によるナノ粒子合成は、還元剤や粒子安定化剤などを用いないため、粒子表面に有機物の無い純粋なコンポジット粒子を得ることができました。
②合金型ナノ構造を維持したまま、元素モル分率を変えられる
電気炉の加熱温度を変えることで、ナノ粒子に含まれる金と銀のモル分率が変化することを発見しました。モル分率の変化はSPR波長の変化としても観察されました。
③生成粒子を直接基板に固定し、そのまま触媒反応に適応できる
気相で生成したナノ粒子は、窒素ガスの流れに乗り、そのまま下流に設置した基板(ガラスもしくはシリコン)に積層しました。この粒子が積層した基板を一酸化炭素と酸素の混合ガス中に設置し加熱すると、二酸化炭素の顕著な増加が確認されました。また、このCO酸化反応は、金もしくは銀の単一金属粒子と比較して、Ag-Au合金粒子のほうが高い触媒活性を示しました。
- 今後の展開
開発したDEC法によるナノ粒子合成法は、バルク状金属の蒸発温度に依存しており、金や銀だけでなく様々な元素に応用できます。したがって、これまで作製困難であったコンポジット粒子の作製に有利な手法となると考えられます。多様なコンポジットナノ粒子の調製が可能となることで、物質変換反応に有用なナノ触媒のスクリーニングに優れた手段となることが期待されます。
【用語解説】
・金属ナノ粒子:
1 nm(ナノメートル)は、1 mの10億分の1のサイズです。複数の金属元素が集合することで、数十nm以下の金属ナノ粒子が構成されます。金属ナノ粒子は、バルク状金属にない様々な特性を示します。
・コンポジット粒子:
2種類以上の元素を組み合わせて構成される金属ナノ粒子を、コンポジット粒子と呼びます。単一元素で構成される金属ナノ粒子と異なる光学特性を示すことが知られています。
・合金型ナノ構造:
コンポジット粒子を構成する元素の配置をナノ構造と呼びます。合金型ナノ構造は、すべての元素がランダムに混合された状態にあります。
・CO酸化反応:
人体に有害な一酸化炭素(CO)を酸化し二酸化炭素に変換する反応です。自動車の排ガスをはじめとする燃焼ガスからのCOの酸化・除去は工業的に重要な技術となります。
- 論文概要
論文名:
"Molar-Fraction-Tunable Synthesis of Ag–Au Alloy Nanoparticles via a Dual Evaporation–Condensation Method as Supported Catalysts for CO Oxidation"
(邦題:二重蒸発濃縮法によるAg-Au合金型ナノ粒子のモル分率可変合成およびCO酸化反応担持触媒としての利用)
著者:
Naomi Sakono(※1), Yuto Ishida1, Kazuki Ogo(※1), Nobuko Tsumori(※1), Haruno Murayama(※2), Masafumi Sakono(※3).
各著者の所属は下記のとおりです。
(※1)…富山高等専門学校
(※2)…九州大学
(※3)…富山大学
掲載誌:
ACS Applied Nano Materials
DOI:
https://doi.org/10.1021/acsanm.3c00089
【本発表資料のお問い合わせ先】
富山高等専門学校 物質化学工学科
講師 迫野 奈緒美
TEL:076-493-5446(直通)
Email:nsakono@nc-toyama.ac.jp
富山大学学術研究部工学系
准教授 迫野 昌文
TEL:076-445-6845(直通)
Email:msakono@eng.u-toyama.ac.jp
- 富山高等専門学校について
富山高等専門学校は、平成21年10月に国立高等専門学校の高度化再編により、富山工業高等専門学校と富山商船高等専門学校が統合して創立されました。
本校は、工学系4学科(機械システム工学科、電気制御システム工学科、物質化学工学科、電子情報工学科)、人文社会系1学科(国際ビジネス学科)、商船系1学科(商船学科)の合計6学科の本科、及び専攻科からなっており、世界で活躍する技術者、ビジネスパーソン、そして海事技術者を育成しています。また、科学技術・海洋に関連する高度な研究を行っている国内有数の高等教育研究機関です。
【学校概要】
学校名:独立行政法人国立高等専門学校機構 富山高等専門学校
所在地:富山県富山市13番地(本郷キャンパス)
富山県射水市海老江練合1-2(射水キャンパス)
校長:國枝 佳明
設立:平成21年10月
URL:https://www.nc-toyama.ac.jp/
事業内容:高等専門学校・高等教育機関
◆本リリースに関するお問い合わせ先
独立行政法人高等専門学校機構
富山高等専門学校
総務課企画室
TEL:0766-86-5178
e-mail:kikaku7@nc-toyama.ac.jp
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