ヒト体外潰瘍性大腸炎モデル作成により、腸上皮再生因子の同定に成功
~炎症性腸疾患に対する腸上皮移植・再生医療に期待~
順天堂大学大学院医学研究科共同研究講座オルガノイド開発研究講座の中村哲也特任教授と小児外科学講座の松本有加助教および東京医科歯科大学医学部附属病院消化器内科の土屋輝一郎准教授(現 筑波大学医学医療系消化器内科 教授)と光学医療診療部の渡辺翔医員らの共同研究グループは、炎症性腸疾患における腸上皮再生不良の原因がSchlafen11(※1)によることをつきとめました。Schlafen11を欠損させると腸上皮幹細胞の増加、細胞増殖により、マウス大腸潰瘍への移植効率を大幅に向上させました。以上より、Schlafen11を標的とした腸上皮移植再生医療への応用が期待できます。この研究はAMED再生医療実現拠点ネットワークプログラム事業ならびに文部科学省科学研究費補助金の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌Journal of Crohn’s and Colitisに、2021年5月18日午前10時30分(英国時間)にオンライン版で発表されました。
本研究成果のポイント
背景
炎症性腸疾患(IBD)、特に潰瘍性大腸炎は本邦で患者が急増している難治性疾患(指定難病)です。長い罹病期間により再燃と寛解(※2)を繰り返しますが、寛解を維持するためには炎症を鎮めるだけでなく、粘膜の潰瘍を治癒させることが必要とされています(図1)。しかし、粘膜の腸上皮細胞の再生に直接効果のある治療薬は未だ開発されていません。これまで研究グループでは長期の炎症が大腸上皮細胞の形質を変化させ、大腸の機能低下や発がんのリスクになることを明らかとしてきましたが、その原因となる因子は不明でした。また、研究グループでは腸上皮オルガノイド※3を培養して増やし、IBDの潰瘍に移植して治療する方法を開発しています。
今回初めて体外でのヒト潰瘍性大腸炎モデルの作成に成功し、IBDにおける腸上皮細胞の機能異常を再現しました。同一人物由来の細胞から疾患モデルを作成することは、個人差などを考慮せずに疾患の原因となる候補因子を効率よく抽出することができます。実際にこのモデルから上皮再生に関わる因子を明らかとしており、現在開発中の腸上皮オルガノイド移植医療※4の移植効率をよくすることが期待されます。さらに潰瘍治癒を目的とした上皮再生医療の開発により、本疾患において長い間寛解状態を保つことが期待できると考えています。
用語解説
※1 Schlafen11 細胞が分裂する際に必要なゲノムの複製を阻害し、細胞死を誘導する分子として知られている。
※2寛解 病気の症状が一時的あるいは継続的にほとんど消失し、臨床的にコントロールされた状態を指します。
※3 オルガノイド 臓器特異的幹細胞及びその幹細胞から分化した細胞群を含む細胞塊で、器官に類似した組織構造体のこと。足場となるゲルに埋め込んで3次元培養により作成します。
※4 オルガノイド移植治療 AMED再生医療実現拠点ネットワークプログラムにて「培養腸上皮幹細胞を用いた炎症性腸疾患に対する粘膜再生治療の開発拠点」として開発中の治療法。IBD患者由来の腸上皮オルガノイドを増やした後、難治性の潰瘍部分に内視鏡を用いてオルガノイドを移植する。移植した上皮細胞の再生により潰瘍の治癒が期待されている。
原著論文
掲載誌:Journal of Crohn’s and Colitis
論文タイトル:Schlafen 11 is a novel target for mucosal regeneration in Ulcerative Colitis
- ヒト大腸上皮オルガノイドから体外潰瘍性大腸炎モデルの作成に成功しました。
- 炎症性腸疾患による大腸上皮再生不良の原因がSchlafen11 によることをつきとめました。
- 粘膜治癒を目的とした腸上皮移植・再生医療開発への応用が期待できます。
背景
炎症性腸疾患(IBD)、特に潰瘍性大腸炎は本邦で患者が急増している難治性疾患(指定難病)です。長い罹病期間により再燃と寛解(※2)を繰り返しますが、寛解を維持するためには炎症を鎮めるだけでなく、粘膜の潰瘍を治癒させることが必要とされています(図1)。しかし、粘膜の腸上皮細胞の再生に直接効果のある治療薬は未だ開発されていません。これまで研究グループでは長期の炎症が大腸上皮細胞の形質を変化させ、大腸の機能低下や発がんのリスクになることを明らかとしてきましたが、その原因となる因子は不明でした。また、研究グループでは腸上皮オルガノイド※3を培養して増やし、IBDの潰瘍に移植して治療する方法を開発しています。
研究成果の概要
炎症性腸疾患と同じ腸内環境を再現するために、ヒト大腸上皮オルガノイドを1年以上にわたり炎症刺激を行いました。炎症刺激により上皮細胞の増殖が低下しますが、炎症刺激を除去しても増殖低下は回復せず再生不良が維持されることがわかりました。また、このオルガノイドは潰瘍性大腸炎患者由来オルガノイドと類似したことから、人工的にIBD様の腸上皮細胞を作成することに成功しました(図2)。さらにIBD様オルガノイドと患者由来オルガノイドに共通して強く発現しているSchlafen11を発見しました。長期炎症刺激によりSchlafen11を発現した大腸上皮オルガノイドはマウス大腸への移植生着率が低下しますが、Schlafen11を欠損させると細胞増殖が回復し、マウス大腸潰瘍への移植生着率を大幅に改善させました(図3)。
研究成果の意義
今回初めて体外でのヒト潰瘍性大腸炎モデルの作成に成功し、IBDにおける腸上皮細胞の機能異常を再現しました。同一人物由来の細胞から疾患モデルを作成することは、個人差などを考慮せずに疾患の原因となる候補因子を効率よく抽出することができます。実際にこのモデルから上皮再生に関わる因子を明らかとしており、現在開発中の腸上皮オルガノイド移植医療※4の移植効率をよくすることが期待されます。さらに潰瘍治癒を目的とした上皮再生医療の開発により、本疾患において長い間寛解状態を保つことが期待できると考えています。
用語解説
※1 Schlafen11 細胞が分裂する際に必要なゲノムの複製を阻害し、細胞死を誘導する分子として知られている。
※2寛解 病気の症状が一時的あるいは継続的にほとんど消失し、臨床的にコントロールされた状態を指します。
※3 オルガノイド 臓器特異的幹細胞及びその幹細胞から分化した細胞群を含む細胞塊で、器官に類似した組織構造体のこと。足場となるゲルに埋め込んで3次元培養により作成します。
※4 オルガノイド移植治療 AMED再生医療実現拠点ネットワークプログラムにて「培養腸上皮幹細胞を用いた炎症性腸疾患に対する粘膜再生治療の開発拠点」として開発中の治療法。IBD患者由来の腸上皮オルガノイドを増やした後、難治性の潰瘍部分に内視鏡を用いてオルガノイドを移植する。移植した上皮細胞の再生により潰瘍の治癒が期待されている。
原著論文
掲載誌:Journal of Crohn’s and Colitis
論文タイトル:Schlafen 11 is a novel target for mucosal regeneration in Ulcerative Colitis
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