炭酸の真皮組織に対する作用を新たに発見

皮内pHが低下することでエラスチン、コラーゲン、ヒアルロン酸の産生が促進

 花王株式会社(社長・長谷部佳宏)生物科学研究所・スキンケア研究所は、炭酸ガス(CO2)が経皮吸収された際に起こる組織内のpH低下に着目し、真皮の主要な構成成分であり皮膚の弾力性維持に重要なエラスチン、コラーゲン、ヒアルロン酸(細胞外マトリックス、以下ECM)の産生に与える影響を真皮線維芽細胞において評価しました。その結果、低pHの環境下では、いずれのECM産生も促進することを見いだしました。さらに、その作用メカニズムを解析し、細胞内シグナル伝達経路の一端を明らかにしました。

 今回の研究成果は、Experimental Dermatologyにオンライン公開されました*1。また、第48回日本香粧品学会(2023年6月23~24日・東京都)にて発表しました。
*1 Carbon dioxide-induced decrease in extracellular pH enhances the production of extracellular matrix components by upregulating TGF-β1 expression via CREB activation in human dermal fibroblasts. Exp Dermatol. 2023;00:1-12. https://doi.org/10.1111/exd.14867

背景
 炭酸が皮膚から体内へ浸透することで血行がよくなることは広く知られていますが、花王ではこれまで、炭酸配合製剤の塗布によって落屑(らくせつ)や炎症などが改善することを、表皮のpH低下を主たるメカニズムとして報告してきました*2。今回はさらに、皮膚の形状や弾力性の維持において重要な真皮機能への炭酸の有用性を期待し、正常ヒト皮膚線維芽細胞を用いて、細胞外環境のpH低下がECMの産生に及ぼす影響とその作用メカニズムを検討しました。
*2 「Carbon dioxide ameliorates reduced desquamation in dry scaly skin via protease activation」 Int J Cosmet Sci. 2020; 42:564-572.

https://doi.org/10.1111/ics.12641
「Carbon dioxide inhibits UVB-induced inflammatory response by activating the proton-sensing receptor, GPR65, in human keratinocytes」 Sci Rep. 2021; 11:379.

https://doi.org/10.1038/s41598-020-79519-0

炭酸配合製剤の添加による真皮層のpH低下を確認
三次元皮膚モデルの角層側に炭酸配合製剤もしくはpHを同一に調整した炭酸非配合製剤を添加し、炭酸の皮膚透過性と皮内pHへの影響を評価しました。その結果、炭酸配合製剤を添加した場合のみ、pH低下が確認されたことから、製剤中に溶解した炭酸が角層側から真皮層まで浸透したことが示唆されました(図1)。

 この結果に基づいて、炭酸配合製剤の塗布により真皮のpHが低下することを想定し、さらなる検討を進めました。

低pH環境において真皮線維芽細胞によるECM産生が促進することを発見
 pHを6.5に低下させた培地、あるいはpH非調整(pH 7.6~pH 7.8)の培地にて線維芽細胞を培養し、エラスチン線維及びコラーゲン線維の形成、ヒアルロン酸産生量を評価しました。その結果、細胞外環境のpH低下により、皮膚の弾力性維持に関わる主要なECM群が同じように産生促進する極めて珍しい作用が明らかとなりました(図2)。

細胞外環境のpH低下を起点とした細胞内シグナル伝達経路を推測
 炭酸配合製剤の塗布により、真皮のECM産生が促進する可能性を追究するため、線維芽細胞が外部環境のpH低下を感受した際に活性化するシグナル伝達経路について検討しました。その結果、線維芽細胞で特定の受容体がpH低下を感受すると、そのシグナルが細胞内で伝達され、活性化した情報伝達因子CREB*3がTGF-β1*4の産生を促すことが明らかになりました。TGF-β1はECMの発現制御に関与するタンパク質で、TGF-β1が線維芽細胞に働きかけることで、各種ECMの産生を促進することが知られています。
*3 cAMP response element binding protein:cAMP応答配列 (CRE) と呼ばれる特定のDNA配列に結合し、遺伝子の転写調節を行う因子。TGF-β1遺伝子のプロモーター領域にもCREが存在することが知られている。
*4 Transforming Growth Factor-β1:生体の恒常性を維持する上で重要なサイトカインの1つで、細胞外マトリックスの産生及び沈着促進において主要な役割を担う因子。

まとめ
 今回の研究により、炭酸配合製剤の塗布が誘導し得る真皮のpH低下が、線維芽細胞のECM産生を促進することがメカニズムの一端とともに示されました。今後も炭酸の多面的な作用を明らかにし、肌を美しく健やかな状態へ導くための検討を深めていきます。



■PDF

https://prtimes.jp/a/?f=d70897-304-86457cf10c3bee3eae975ce9784d7757.pdf


■ニュースリリースURL

https://www.kao.com/jp/newsroom/news/release/2023/20230704-001/

このプレスリリースには、メディア関係者向けの情報があります

メディアユーザー登録を行うと、企業担当者の連絡先や、イベント・記者会見の情報など様々な特記情報を閲覧できます。※内容はプレスリリースにより異なります。

すべての画像


ダウンロード
プレスリリース素材

このプレスリリース内で使われている画像ファイルがダウンロードできます

会社概要

花王株式会社

126フォロワー

RSS
URL
-
業種
製造業
本社所在地
東京都中央区日本橋茅場町1-14-10
電話番号
-
代表者名
長谷部佳宏
上場
東証1部
資本金
-
設立
-