【研究報告】ビタミンD不足が皮膚炎の悪化に繋がるメカニズムを発見
~ビタミンD補給に着目した新たなスキンケアアプローチへ~
今回の発見は、皮膚のバリアに重要な役割を持つ表皮細胞を、ビタミンD補給に着目してケアするという新しいスキンケアアプローチに繋がる研究成果です。なお、本研究の成果は、学術の専門雑誌「Redox biology」に掲載されました。また、本研究の成果の一部は、第23回日本抗加齢医学会総会(2023/6/9-6/11)にて口頭発表しました。
図1. ビタミンDはインフラマソームの活性化を抑制することで、皮膚の炎症を抑える
※インフラマソーム:皮膚の炎症を引き起こすタンパク質複合体の一種
【研究の背景】
皮膚のインフラマソームは、外的刺激を感知して活性化する特徴があり、細菌感染などから皮膚を防御する免疫システムです。また、乾癬やアトピー性皮膚炎などの皮膚炎ではインフラマソームが活性化しており、皮膚炎を悪化させることが様々な研究から分かっていました。
一方で、ビタミンD不足は、乾癬やアトピー性皮膚炎の病態の悪化や罹患率の上昇に繋がることは分かっていましたが(図2)、その原因は解明されておらず、ビタミンDが皮膚炎をどのように抑制しているのかについて、実証されていませんでした。
そこで、当社はビタミンD不足によって皮膚炎が悪化する原因を解明することで、新たなスキンケアアプローチにつなげることを目的としました。
図2. ビタミンD不足の皮膚はアトピー性皮膚炎になりやすい
【ビタミンDにより、インフラマソームの活性化が抑制される】
インフラマソームの活性化は皮膚炎を悪化させることから、ビタミンDはインフラマソームの活性化を制御しているのではないか、という仮説を立てました。
そこで、インフラマソームを活性化させる薬剤(ニゲリシン)を添加した際に、ビタミンDの有無によってインフラマソームの活性化に違いがあるのか検証しました。その結果、ニゲリシンのみの群と比較して、ビタミンDを加えた群は顕著にインフラマソームの活性化が抑制されていることが分かりました(図3左図)。
また、炎症性因子(IL-1β)の産生量を調べたところ、ビタミンDを加えた群では産生量が顕著に減少しており、表皮細胞の炎症が抑制されていることが示唆されました(図3右図)。
図3. (左図) ビタミンDはインフラマソーム活性化を抑制する (右図) ビタミンDはIL-1βの産生を抑制する
【ビタミンD受容体との結合によりインフラマソームの活性化を抑制する】
皮膚でビタミンDが働く際には、ビタミンD受容体と呼ばれる細胞内のタンパク質と結合する必要があります。そこで、遺伝子ノックダウンという手法でビタミンD受容体の働きを抑えた表皮細胞を使って、通常の細胞と比べてビタミンDの抑制効果に違いがあるのか検証しました。その結果、通常の表皮細胞と比較して、ビタミンD受容体の働きを抑えた表皮細胞ではビタミンDを加えてもインフラマソームの活性化がほとんど抑制されませんでした(図4)。このことから、ビタミンDがインフラマソームの活性化を抑制するために、ビタミンD受容体との結合が必要であることが分かりました。
図4. ビタミンD受容体の働きを抑えた細胞では、ビタミンDはインフラマソーム活性化を抑制しない
【まとめと今後】
今回の研究から、皮膚で合成されるビタミンDは皮膚のビタミンD受容体に結合することでインフラマソームの活性化を抑制し、皮膚を炎症から守る働きがあることが明らかとなりました。このことから、皮膚へビタミンDを補給することで、皮膚の炎症を防ぐことができる可能性が示唆されました。ビタミンDは、日本人の約90%の人が不足していると言われています。今回の研究成果を元に、不足しがちなビタミンDを補給することで皮膚の健康を保つことに繋がる新たなアプローチによるスキンケアの開発を目指します。
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