尿路上皮がん患者の免疫チェックポイント阻害薬効果予測に尿中マイクロRNAが有望な可能性
〜免疫治療薬の開発効率化に新たな手がかり〜
Craif株式会社(所在地:東京都新宿区、CEO:小野瀨 隆一、以下Craif)が東京医科大学病院 泌尿器科 医局長 平澤 陽介 講師らと実施した尿路上皮がんにおける尿中マイクロRNAを用いた免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の効果予測に関する共同研究成果が、学術雑誌「Cancers」に掲載されました。
本研究により、尿路上皮がん患者のICI治療において、尿中マイクロRNA(miRNA)が治療効果予測の有望なバイオマーカーとなり得ることが示されました。本成果は、単一がん種にとどまらず、免疫関連治療薬全般の臨床開発において、患者層別化と試験設計の効率化を実現する新たな可能性を拓くものです。

■ 研究成果のポイント
尿中マイクロRNA解析で免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の効果を予測
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尿中マイクロRNA(miRNA)プロファイルから、尿路上皮がん患者におけるICI治療の奏効・非奏効を分類可能であることを示した。
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発現変動解析により、奏効群と非奏効群で有意に異なる10種類のmiRNAを同定した。
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特に miR-186-5p と miR-425-5p の高発現は、無増悪生存期間(PFS)の有意な延長と関連し、有効性予測マーカーとしての臨床的有用性が示唆された。

非侵襲・低負担な尿検査で治療方針を最適化
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採尿のみで検査が可能なため、組織採取が困難な症例でも事前に効果が見込まれる患者を選別可能である可能性がある。
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治療効果が期待できない患者への不必要な投与を回避し、副作用リスクや医療コストを低減できる可能性がある。
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尿中マイクロRNAの解析により、限られた医療資源の効率的活用と、免疫関連治療薬に関する臨床試験の患者層別化・成功率向上への寄与が期待される。
■ 研究概要
背景と目的
ICIは泌尿器上皮がんをはじめ多くのがん種で治療成績を向上させていますが、その奏効率は依然として限られており、効果が得られない患者も少なくありません。効果が期待できる患者さんを事前に適切に層別化できない場合、不要な有害事象リスクや医療コスト増大を招くだけでなく、開発段階では試験の失敗リスクや期間延長を引き起こします。また、ICI治療の効果を予測する際には、腫瘍組織を用いた病理検査がよく行われますが、腫瘍の位置や患者さんの状態などによっては、十分な組織を採取できない場合があります。そのため、治療開始前に効果を高精度に予測できる非侵襲的なバイオマーカーの確立は喫緊の課題です。
本研究では、負担の少ない方法で採取できる尿中マイクロRNA(miRNA)のプロファイルに注目し、ICI治療の効果を予測できるかどうかを評価しました。
研究方法
本研究では、尿路上皮がん患者12名(ICI奏効群7名、非奏効群5名)を対象に、治療開始前に採取した尿サンプルを解析しました。尿中からエクソソームを抽出し、RNAを精製した後、Small RNAシーケンスを実施。得られたデータに基づき、治療効果との関連を統計解析しました。
主な研究成果
発現変動解析により、奏効群では6種類、非奏効群では4種類のmiRNAが有意に発現変動していることが判明しました。特に奏効群で発現上昇していたmiR-186-5pおよびmiR-425-5pに関しては、高発現群では低発現群と比較して無増悪生存期間(PFS)が有意に延長していました(中央値15.0か月 vs 3.27か月)。
一方、非奏効群で発現上昇していたmiR-30a-5pおよびmiR-542-3pは、高発現群では低発現群と比較してPFSが短縮(中央値約3か月 vs 約15か月)していました。
また、尿潜血の影響を受けやすいmiRNA(例:miR-486-5p、miR-23a-3p)も特定され、今後の解析におけるデータの品質管理や前処理工程の重要性が示されました。
意義
尿中miRNAによるICI治療効果予測は、非侵襲的かつ簡便であり、繰り返し検査が可能な点で患者負担を最小限に抑えることができます。本技術を活用することで、患者選別の精度向上と治療戦略の最適化が期待され、さらに新規の医薬品開発においても臨床試験の効率化や成功率向上に寄与する可能性があります。
■ 用語説明
・免疫チェックポイント阻害薬(ICI):がん細胞が免疫から逃れる仕組みを解除し、免疫応答を高める治療薬。
・マイクロRNA(miRNA):遺伝子発現を制御する短いRNA分子で、がんの診断・予後予測マーカーとして注目されている。
・無増悪生存期間(PFS):治療開始から病勢進行または死亡までの期間。治療効果の指標の一つ。
■ 論文情報
雑誌名:Cancers
題名 :Urinary microRNAs as prognostic biomarkers for predicting the effect
of immune check point inhibitors in patients with urothelial carcinoma
著者名:Yosuke Hirasawa, Atsushi Satomura, Mitsuo Okada, Mieko Utsugi,
Hiroki Ogura, Tsuyoshi Yanagi, Yuta Nakamori, Masayuki Takehara, Kokichi
Murakami, Go Nagao, Takeshi Kashima, Naoya Satake, Yoriko Ando, Motoki
Mikami, Mika Mizunuma, Yuki Ichikawa, Yoshio Ohno
DOI :10.3390/cancers17162640
■ Craifについて
Craif(クライフ)は、がん早期発見に取り組む2018年創業のバイオAIスタートアップです。尿をはじめとする体液から、DNAやマイクロRNAなど多様なバイオマーカーを高精度に検出する独自の解析技術基盤「NANO IP®︎(NANO Intelligence Platform)」とAI技術を融合し、がんの超早期発見・早期治療・早期復帰を可能にする革新的な検査を開発しています。バイオテクノロジーとAIの力を社会に広く届けることで、当社のビジョンである「人々が天寿を全うする社会の実現」を推進します。
【会社概要】
社名:Craif株式会社(読み:クライフ、英語表記:Craif Inc.)
代表者:代表取締役 小野瀨 隆一
設立:2018年5月
資本金:1億円(2024年3月1日現在)
事業:がん領域を中心とした疾患の早期発見や個別化医療の実現に向けた次世代検査の研究・開発、尿がん検査「マイシグナルシリーズ」の提供
本社:東京都新宿区新小川町8-30 THE PORTAL iidabashi B1F
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