ヒト腸内細菌と代謝物質を介した免疫応答が新型コロナウイルス感染症 および合併症に与える影響を発見:膨大なオミックス情報解析研究
~ウイルス感受性や COVID-19 合併症の個人差の根底に腸内環境の違いが関与の可能性~
【本研究のポイント】
・COVID-19やCOVID-19に伴う臓器合併症に特徴的な腸内細菌、腸内代謝物質、サイトカインの変化を同定しました。
・「腸内の口腔由来細菌やアミノ酸と過剰な免疫応答との正の関係」や「腸内の短鎖脂肪酸産生菌、糖代謝物質、神経伝達物質と免疫応答との負の関係」など、特定の細菌種や代謝物質を介したユニークな免疫応答がCOVID-19に存在することを発見しました。
・細菌や代謝物質を介した免疫応答はCOVID-19の肺合併症・重症者で最も顕著で、次いで凝固障害、腎障害、肝障害で、下痢では極端に少ないことを発見しました。
・コホート研究にて「個人が有する腸内細菌の割合や代謝物質の濃度がCOVID-19合併症の発症リスクに関係する」ことを証明しました。
・COVID-19で変動する菌種は、糖尿病、炎症性腸疾患、PPIとは異なり、関節リウマチとは類似することを発見しました。また、腸内細菌種を組み入れた機械学習法の判別モデルを用いることでCOVID-19とその重症者を高確率で予測することができました。
・COVID-19で変動する菌種は日本と香港で類似していましたが、アメリカとは異質であることを発見しました。
COVID-19患者やその合併症を有する患者ではユニークな腸内環境の変化がみられ、過剰な免疫応答と関わっていることを発見しました。同じ日本人でも新型コロナウイルスの感受性やCOVID-19に伴う合併症リスクの違いがあるのは、腸内環境の個人差が寄与しているかもしれません。腸内環境の個人差はワクチンの効果や副反応の個人差にも影響する可能性があり今後の研究が期待されます。
【概要】
東京医科大学(学長:林由起子/東京都新宿区)消化器内視鏡学分野の永田尚義 准教授と河合隆 主任教授、国立国際医療研究センター(理事長:國土典宏/東京都新宿区)国際感染症センターの石金正裕 医師、木下典子 医師、大曲貴夫 センター長、産学連携推進部の木村基 部長、感染病態研究部の杉山真也 テニュアトラック部長、杉山温人 センター病院長、ゲノム医化学プロジェクトの溝上雅史プロジェクト長、上村直実 国府台病院名誉院長、江崎グリコ株式会社基礎研究室の青木亮 研究員、西嶋智彦 チーフ、井ノ岡博 室長、理化学研究所(理事長:五神 真/埼玉県和光市)生命医科学研究センターの増岡弘晃 特別研究員、竹内直志 特別研究員(研究当時)、須田亙 副チームリーダー、大野博司 チームリーダーらの研究グループは、新型コロナウイルス感染症患者と非感染者の患者の糞便中のマイクロバイオームとメタボローム、血液中のサイトカインを網羅的に解析し、以下の知見を得ました。本研究成果は「Gastroenterology」 (IF= 33.883) のオンライン版に掲載されました(現地時間2022 年 9 月 24 日公開)。
【研究の背景】
新型コロナウイルス感染症の重症化や合併症の個人差は腸内細菌が鍵の可能性
新型コロナウイルス感染症 (以下:COVID‑19)の約8割が軽症のまま治癒しますが、2割は重症肺炎となります。重症化は、宿主の過剰な免疫応答「サイトカインストーム」により生じると考えられています。一方、ヒトの腸内には千種類以上にも及ぶ腸内細菌が存在し、菌が作り出す、あるいは分解する代謝物質と共に腸内環境が構築されています。この腸内環境は免疫系を適切にコントロールし私たちの健康を維持する役割を担っています。我々は、新型コロナウイルスの感受性やCOVID-19に伴う重症化・合併症の個人差の根底に腸内環境を介した免疫応答の違いがあるのではないか、と考えました。そこで、腸内細菌、その代謝機能、代謝物質などの腸内環境とサイトカイン変動との密接な関係を証明しCOVID-19に及ぼす影響を明らかにすることにしました。
これまでのCOVID-19と腸内細菌研究と解決すべき課題
COVID-19におけるヒト腸内細菌研究はいくつかの報告がありましたがいくつかの課題が残されていました。第一に、COVID-19で入院した直後の便や血液を100例以上の対象者で調べた研究はありませんでした。COVID-19の病態と腸内細菌叢と関係を調べるためには、感染直後または感染に伴う病態がおきる前に糞便や血液を調べることが重要です。また、腸内細菌叢の変動は個人間の多様性が高いため症例数の担保が必要です。第二に、COVID-19には肺外合併症が報告されていますが、腸内細菌や免疫応答との関係は調べられておりませんでした。第三に、COVID-19群と対照群を比較する際に患者背景のバランスが取られていませんでした。臨床研究では患者は多様な背景を有するため、COVID-19と腸内細菌叢・代謝物との真の関連を同定するには、病気(ケース)-非病気(コントロール)間で背景因子を同率にする事が重要です。第四に、COVID-19患者で見られた腸内細菌変動はCOVID-19に特異的であるかについては不明でした。様々な病気で変動する細菌とCOVID-19で変動する細菌を比較検証することが重要です。最後に、COVID-19で同定された細菌変動が、日本以外の国で異なるのかは不明でした。もし、COVID-19で特徴的な腸内細菌種が他の病気と判別でき、他国との一致が確認できれば、細菌種を世界的なバイオマーカーとしてウイルス感受性や重症化の予測に利用できるかもしれません。以上から、本研究では、COVID-19で入院した日本人患者と、年齢、性別、患者背景因子を1:1でマッチした非COVID-19コントロール症例、計224例においてCOVID-19入院直後の特徴的な腸内環境とそれに伴う免疫応答を調べました(図1)。次に、肺炎を主体とする重症や肺外合併症に特徴的な腸内環境と免疫応答を調べました(図1)。最後に、COVID-19で変動する腸内細菌と他の疾患で変動する腸内細菌との一致、日本と香港やアメリカのCOVID-19関連菌種との一致を検証しました。
※全文は添付ファイルをご覧下さい
〇本研究に関する問い合わせ先
東京医科大学 消化器内視鏡学分野 准教授 永田尚義
TEL:03-3342-6111(病院代表)
E-mail:n-nagata@tokyo-med.ac.jp
・COVID-19やCOVID-19に伴う臓器合併症に特徴的な腸内細菌、腸内代謝物質、サイトカインの変化を同定しました。
・「腸内の口腔由来細菌やアミノ酸と過剰な免疫応答との正の関係」や「腸内の短鎖脂肪酸産生菌、糖代謝物質、神経伝達物質と免疫応答との負の関係」など、特定の細菌種や代謝物質を介したユニークな免疫応答がCOVID-19に存在することを発見しました。
・細菌や代謝物質を介した免疫応答はCOVID-19の肺合併症・重症者で最も顕著で、次いで凝固障害、腎障害、肝障害で、下痢では極端に少ないことを発見しました。
・コホート研究にて「個人が有する腸内細菌の割合や代謝物質の濃度がCOVID-19合併症の発症リスクに関係する」ことを証明しました。
・COVID-19で変動する菌種は、糖尿病、炎症性腸疾患、PPIとは異なり、関節リウマチとは類似することを発見しました。また、腸内細菌種を組み入れた機械学習法の判別モデルを用いることでCOVID-19とその重症者を高確率で予測することができました。
・COVID-19で変動する菌種は日本と香港で類似していましたが、アメリカとは異質であることを発見しました。
COVID-19患者やその合併症を有する患者ではユニークな腸内環境の変化がみられ、過剰な免疫応答と関わっていることを発見しました。同じ日本人でも新型コロナウイルスの感受性やCOVID-19に伴う合併症リスクの違いがあるのは、腸内環境の個人差が寄与しているかもしれません。腸内環境の個人差はワクチンの効果や副反応の個人差にも影響する可能性があり今後の研究が期待されます。
【概要】
東京医科大学(学長:林由起子/東京都新宿区)消化器内視鏡学分野の永田尚義 准教授と河合隆 主任教授、国立国際医療研究センター(理事長:國土典宏/東京都新宿区)国際感染症センターの石金正裕 医師、木下典子 医師、大曲貴夫 センター長、産学連携推進部の木村基 部長、感染病態研究部の杉山真也 テニュアトラック部長、杉山温人 センター病院長、ゲノム医化学プロジェクトの溝上雅史プロジェクト長、上村直実 国府台病院名誉院長、江崎グリコ株式会社基礎研究室の青木亮 研究員、西嶋智彦 チーフ、井ノ岡博 室長、理化学研究所(理事長:五神 真/埼玉県和光市)生命医科学研究センターの増岡弘晃 特別研究員、竹内直志 特別研究員(研究当時)、須田亙 副チームリーダー、大野博司 チームリーダーらの研究グループは、新型コロナウイルス感染症患者と非感染者の患者の糞便中のマイクロバイオームとメタボローム、血液中のサイトカインを網羅的に解析し、以下の知見を得ました。本研究成果は「Gastroenterology」 (IF= 33.883) のオンライン版に掲載されました(現地時間2022 年 9 月 24 日公開)。
【研究の背景】
新型コロナウイルス感染症の重症化や合併症の個人差は腸内細菌が鍵の可能性
新型コロナウイルス感染症 (以下:COVID‑19)の約8割が軽症のまま治癒しますが、2割は重症肺炎となります。重症化は、宿主の過剰な免疫応答「サイトカインストーム」により生じると考えられています。一方、ヒトの腸内には千種類以上にも及ぶ腸内細菌が存在し、菌が作り出す、あるいは分解する代謝物質と共に腸内環境が構築されています。この腸内環境は免疫系を適切にコントロールし私たちの健康を維持する役割を担っています。我々は、新型コロナウイルスの感受性やCOVID-19に伴う重症化・合併症の個人差の根底に腸内環境を介した免疫応答の違いがあるのではないか、と考えました。そこで、腸内細菌、その代謝機能、代謝物質などの腸内環境とサイトカイン変動との密接な関係を証明しCOVID-19に及ぼす影響を明らかにすることにしました。
これまでのCOVID-19と腸内細菌研究と解決すべき課題
COVID-19におけるヒト腸内細菌研究はいくつかの報告がありましたがいくつかの課題が残されていました。第一に、COVID-19で入院した直後の便や血液を100例以上の対象者で調べた研究はありませんでした。COVID-19の病態と腸内細菌叢と関係を調べるためには、感染直後または感染に伴う病態がおきる前に糞便や血液を調べることが重要です。また、腸内細菌叢の変動は個人間の多様性が高いため症例数の担保が必要です。第二に、COVID-19には肺外合併症が報告されていますが、腸内細菌や免疫応答との関係は調べられておりませんでした。第三に、COVID-19群と対照群を比較する際に患者背景のバランスが取られていませんでした。臨床研究では患者は多様な背景を有するため、COVID-19と腸内細菌叢・代謝物との真の関連を同定するには、病気(ケース)-非病気(コントロール)間で背景因子を同率にする事が重要です。第四に、COVID-19患者で見られた腸内細菌変動はCOVID-19に特異的であるかについては不明でした。様々な病気で変動する細菌とCOVID-19で変動する細菌を比較検証することが重要です。最後に、COVID-19で同定された細菌変動が、日本以外の国で異なるのかは不明でした。もし、COVID-19で特徴的な腸内細菌種が他の病気と判別でき、他国との一致が確認できれば、細菌種を世界的なバイオマーカーとしてウイルス感受性や重症化の予測に利用できるかもしれません。以上から、本研究では、COVID-19で入院した日本人患者と、年齢、性別、患者背景因子を1:1でマッチした非COVID-19コントロール症例、計224例においてCOVID-19入院直後の特徴的な腸内環境とそれに伴う免疫応答を調べました(図1)。次に、肺炎を主体とする重症や肺外合併症に特徴的な腸内環境と免疫応答を調べました(図1)。最後に、COVID-19で変動する腸内細菌と他の疾患で変動する腸内細菌との一致、日本と香港やアメリカのCOVID-19関連菌種との一致を検証しました。
※全文は添付ファイルをご覧下さい
〇本研究に関する問い合わせ先
東京医科大学 消化器内視鏡学分野 准教授 永田尚義
TEL:03-3342-6111(病院代表)
E-mail:n-nagata@tokyo-med.ac.jp
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