30代以上の血糖コントロール不良は歯の本数に影響 奥歯の損失に大きな差があると判明
~Diabetology international誌、日本歯周病学会学術大会で発表~
国立大学法人 滋賀医科大学 前川聡 教授、森野勝太郎 准教授の研究グループとサンスター株式会社は、共同研究により、定期健康診断結果と医療機関の診療情報(診療報酬明細書=レセプト)を基に、年代ごとに血糖コントロール指標と歯の本数の関係を分析しました。その結果、30代以上の年代において、HbA1c値や空腹時血糖値が高いほど歯の本数が少ないこと、糖尿病予備群(空腹時血糖110-125mg/dl)においても正常値群(同110 mg/dl未満)と比べて歯数が少ないこと、また高血糖と喫煙の条件が重なることで歯の喪失リスクがより高まることを明らかにしました。
この研究成果をまとめた論文は2021年 8月28 日にDiabetology international誌にオンライン公開されました( https://doi.org/10.1007/s13340-021-00533-2 )。
また、第63回秋季日本歯周病学会学術大会(2020年10月15日(金)~11月30日(月)、於:ウェブ開催)において、HbA1c≥7.0%に該当する血糖コントロール不良者は、非該当者と比べて多くの部位の歯を失っていましたが、特に下顎大臼歯(奥歯)を失った人の割合に大きな差があることを発表しました。
これらの結果から、糖尿病と診断されたり、健康診断で糖尿病予備群と指摘された際には、生活習慣の改善とともに、早期に歯科検診を受ける必要があると考えられます。また血糖値が高い方は、奥歯の歯周病・う蝕の予防や治療を念入りにすることも重要だと考えられます。
<論文概要>
◆研究の背景・目的
口腔と全身の健康状態は様々な関連があることがわかってきました。特に糖尿病と歯周病は密接に関係し、相互に影響を及ぼすことが明らかになっています。令和元年国民健康・栄養調査によると、糖尿病は、日本人成人男性19.7%、女性10.8%が罹患している身近な疾患で、糖尿病予備群も男性12.4%、女性の12.9%もの人が該当すると推計されています。
血糖コントロール不良の糖尿病は歯周病の発症や重症化を促し、歯の喪失リスクを高めることが知られています。しかし、血糖コントロールが悪いほど歯の本数が少ないという連続的な関係性があるのか、またその関係性があらわれる年代について大規模集団で検討した研究はありませんでした。
そこで今回の研究では、診療報酬明細書と定期健康診断結果から構成されるデータベースを用いて、血糖コントロールレベルと歯の本数の関係を年代別に検証すること、さらに高血糖と喫煙条件が単独または重複する場合のリスクを検証することを目的としました。
◆対象者属性と方法
複数の健康保険組合の定期健康診断受診者約70万人のうち、1)2015年度に歯科受診歴があり、2)歯の本数とその部位が確認でき、3)健康診断におけるHbA1cのデータを有する、20才から74才までの男女233,567人のデータを解析対象としました。
対象者をHbA1c値に従い5段階(5.5%未満、5.5–6.4%、6.5–7.4%、7.5–8.4%、8.5%以上)、空腹時血糖値(FPG)に従って3段階(110 mg/dl未満、110–125 mg/dl、126 mg/dl)に群分けし、10歳階級ごとに歯の本数を比較しました。さらに中年期(40-59歳)の対象者において、高血糖と喫煙条件の組み合わせで4群または6群に分け、両条件が該当しない群を対照とした歯数が24歯未満となる性年齢調整オッズ比を算出しました。
◆研究結果
1. 各年代の血糖コントロールレベルごとの歯の残存数
30代以上の各年代でHbA1cや空腹時血糖値が高い群ほど歯の本数が少ないという連続的な関係性が示されました(図1、2)。また40-60代においては、糖尿病型(空腹時血糖値;126mg/dl以上)だけでなく、糖尿病予備群(空腹時血糖境界型;110-125 mg/dl)も、正常血糖群に比べて歯の数が少ないことが示されました(分散分析後のDunnett多重比較法による分析)。
中年期(40-59歳)において、高血糖(HbA1cや空腹時血糖値が高い)と喫煙の条件がそれぞれ単独で該当する群は、両条件とも該当しない群(正常血糖と喫煙なし)にくらべてオッズ比が高く、歯の本数が24未満になるリスクが高い。また、両条件が重なる群(高血糖+喫煙、糖尿病予備群+喫煙、糖尿病型+喫煙)ではさらにリスクが高いことが示されました(図3、4)。
タイトル:Glycemic control and number of natural teeth: analysis of cross‑sectional Japanese employment‑based dental insurance claims and medical check‑up data
著 者: Kayo Harada, Katsutaro Morino, Miki Ishikawa, Itsuko Miyazawa,· Takako Yasuda, Mayu Hayashi, Atsushi Ishikado,· Hiroshi Maegawa
掲 載 誌:Diabetology International DOI:https://doi.org/10.1007/s13340-021-00533-2
<関連の発表>
◆血糖コントロールと歯の部位別の保有者率
同じデータベースを用いた研究で、HbA1c≥7.0%に該当するHbA1c高値群は、低値群と比べて多くの部位の歯を失っていましたが、とくに下顎大臼歯(奥歯)を失った人の割合に大きな差があることが明らかになりました(図5)。
厚生労働省が推進する「健康日本21(第二次)」の目標項目において「血糖コントロール指標におけるコントロール不良者の割合の減少」と「60歳で24歯以上の自分の歯を有する者の割合の増加」が掲げられています。
今回、診療情報などの実社会を反映するデータをもとに得られた知見から、糖尿病などの全身疾患と同様に、血糖値が上がり始めた糖尿病予備群の段階でも、歯の喪失の主な原因である歯周病やう蝕についても積極的な予防や治療が重要であると考えられます。また、歯の喪失を防ぎ、どのような食べ物もしっかりかんで食べることは、全身の健康の維持増進につながることが期待されます。社会全体の「健康寿命の延伸」を目指し、健康行動につながる科学的根拠の構築や情報発信を継続していきます。
●前川教授, 森野准教授の研究グループについて
滋賀医科大学糖尿病内分泌・腎臓内科は“地域社会に還元できる優れた医師”、“将来の治療に役立つ研究のできる科学者”の育成を目標として、スタッフ一同が協力して活動しています。とくに、糖尿病・肥満症とその合併症について様々な研究を行ってきました。これからも患者さんに役立つ研究を推進していきたいと思います。
●サンスターグループにおける「糖尿病と口腔保健」研究について
サンスターは、「常に人々の健康の増進と生活文化の向上に奉仕する」の社是のもと、オーラルケア製品、化粧品、健康食品などの事業を行っています。糖尿病と歯周病の関係性にはいち早く着目し、国内外の大学、医療機関と連携して研究、新製品の開発および啓発活動に取り組んできました。今後もお口の健康を起点としながら全身の健康に寄与する情報・サービス・製品をお届けすることで、人々の健康寿命の延伸に寄与することを目指していきます。
また、第63回秋季日本歯周病学会学術大会(2020年10月15日(金)~11月30日(月)、於:ウェブ開催)において、HbA1c≥7.0%に該当する血糖コントロール不良者は、非該当者と比べて多くの部位の歯を失っていましたが、特に下顎大臼歯(奥歯)を失った人の割合に大きな差があることを発表しました。
これらの結果から、糖尿病と診断されたり、健康診断で糖尿病予備群と指摘された際には、生活習慣の改善とともに、早期に歯科検診を受ける必要があると考えられます。また血糖値が高い方は、奥歯の歯周病・う蝕の予防や治療を念入りにすることも重要だと考えられます。
<論文概要>
◆研究の背景・目的
口腔と全身の健康状態は様々な関連があることがわかってきました。特に糖尿病と歯周病は密接に関係し、相互に影響を及ぼすことが明らかになっています。令和元年国民健康・栄養調査によると、糖尿病は、日本人成人男性19.7%、女性10.8%が罹患している身近な疾患で、糖尿病予備群も男性12.4%、女性の12.9%もの人が該当すると推計されています。
血糖コントロール不良の糖尿病は歯周病の発症や重症化を促し、歯の喪失リスクを高めることが知られています。しかし、血糖コントロールが悪いほど歯の本数が少ないという連続的な関係性があるのか、またその関係性があらわれる年代について大規模集団で検討した研究はありませんでした。
そこで今回の研究では、診療報酬明細書と定期健康診断結果から構成されるデータベースを用いて、血糖コントロールレベルと歯の本数の関係を年代別に検証すること、さらに高血糖と喫煙条件が単独または重複する場合のリスクを検証することを目的としました。
◆対象者属性と方法
複数の健康保険組合の定期健康診断受診者約70万人のうち、1)2015年度に歯科受診歴があり、2)歯の本数とその部位が確認でき、3)健康診断におけるHbA1cのデータを有する、20才から74才までの男女233,567人のデータを解析対象としました。
対象者をHbA1c値に従い5段階(5.5%未満、5.5–6.4%、6.5–7.4%、7.5–8.4%、8.5%以上)、空腹時血糖値(FPG)に従って3段階(110 mg/dl未満、110–125 mg/dl、126 mg/dl)に群分けし、10歳階級ごとに歯の本数を比較しました。さらに中年期(40-59歳)の対象者において、高血糖と喫煙条件の組み合わせで4群または6群に分け、両条件が該当しない群を対照とした歯数が24歯未満となる性年齢調整オッズ比を算出しました。
◆研究結果
1. 各年代の血糖コントロールレベルごとの歯の残存数
30代以上の各年代でHbA1cや空腹時血糖値が高い群ほど歯の本数が少ないという連続的な関係性が示されました(図1、2)。また40-60代においては、糖尿病型(空腹時血糖値;126mg/dl以上)だけでなく、糖尿病予備群(空腹時血糖境界型;110-125 mg/dl)も、正常血糖群に比べて歯の数が少ないことが示されました(分散分析後のDunnett多重比較法による分析)。
2. 高血糖と喫煙条件の組合わせによる中年期の歯の喪失リスク
中年期(40-59歳)において、高血糖(HbA1cや空腹時血糖値が高い)と喫煙の条件がそれぞれ単独で該当する群は、両条件とも該当しない群(正常血糖と喫煙なし)にくらべてオッズ比が高く、歯の本数が24未満になるリスクが高い。また、両条件が重なる群(高血糖+喫煙、糖尿病予備群+喫煙、糖尿病型+喫煙)ではさらにリスクが高いことが示されました(図3、4)。
<論文タイトルと著者>
タイトル:Glycemic control and number of natural teeth: analysis of cross‑sectional Japanese employment‑based dental insurance claims and medical check‑up data
著 者: Kayo Harada, Katsutaro Morino, Miki Ishikawa, Itsuko Miyazawa,· Takako Yasuda, Mayu Hayashi, Atsushi Ishikado,· Hiroshi Maegawa
掲 載 誌:Diabetology International DOI:https://doi.org/10.1007/s13340-021-00533-2
<関連の発表>
◆血糖コントロールと歯の部位別の保有者率
同じデータベースを用いた研究で、HbA1c≥7.0%に該当するHbA1c高値群は、低値群と比べて多くの部位の歯を失っていましたが、とくに下顎大臼歯(奥歯)を失った人の割合に大きな差があることが明らかになりました(図5)。
<今後の展望>
厚生労働省が推進する「健康日本21(第二次)」の目標項目において「血糖コントロール指標におけるコントロール不良者の割合の減少」と「60歳で24歯以上の自分の歯を有する者の割合の増加」が掲げられています。
今回、診療情報などの実社会を反映するデータをもとに得られた知見から、糖尿病などの全身疾患と同様に、血糖値が上がり始めた糖尿病予備群の段階でも、歯の喪失の主な原因である歯周病やう蝕についても積極的な予防や治療が重要であると考えられます。また、歯の喪失を防ぎ、どのような食べ物もしっかりかんで食べることは、全身の健康の維持増進につながることが期待されます。社会全体の「健康寿命の延伸」を目指し、健康行動につながる科学的根拠の構築や情報発信を継続していきます。
●前川教授, 森野准教授の研究グループについて
滋賀医科大学糖尿病内分泌・腎臓内科は“地域社会に還元できる優れた医師”、“将来の治療に役立つ研究のできる科学者”の育成を目標として、スタッフ一同が協力して活動しています。とくに、糖尿病・肥満症とその合併症について様々な研究を行ってきました。これからも患者さんに役立つ研究を推進していきたいと思います。
●サンスターグループにおける「糖尿病と口腔保健」研究について
サンスターは、「常に人々の健康の増進と生活文化の向上に奉仕する」の社是のもと、オーラルケア製品、化粧品、健康食品などの事業を行っています。糖尿病と歯周病の関係性にはいち早く着目し、国内外の大学、医療機関と連携して研究、新製品の開発および啓発活動に取り組んできました。今後もお口の健康を起点としながら全身の健康に寄与する情報・サービス・製品をお届けすることで、人々の健康寿命の延伸に寄与することを目指していきます。
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