乳幼児の臀部の肌状態に腸内細菌類が関わっている可能性を発見
今回の研究成果は、地方独立行政法人神奈川県立病院機構 神奈川県立こども医療センター皮膚科部長の馬場直子先生のご指導とご協力のもと行い、日本小児皮膚科学会第47回学術大会(2023年7月15~16日・大阪府)にて発表しました。
*1 菌の集まり。
*2 皮膚にできる赤みや発疹のこと。
背景
花王では、乳幼児の肌状態や歩き方、睡眠など、さまざまな視点から研究に取り組んでいます。そのうちのひとつとして、今回の研究では、乳幼児を対象に肌のいくつかの部位の菌量や菌叢の実態を調べ、肌の状態との関連性を明らかにする検討を行いました。
乳幼児の皮膚(前腕・額・臀部)の菌量や菌叢の実態
生後3~24カ月の乳幼児30名より、前腕、額、臀部の皮膚上の菌を採取*3し、次世代シークエンサーを用いて菌叢解析*4を行いました。すべての部位の菌叢が解析できた乳幼児を対象とし、各部位の菌量や菌叢を比較した結果、乳幼児の臀部の皮膚の菌の総量は、額と比べて有意に多いことがわかりました(図1)。
また、各部位における皮膚常在菌や口腔内常在菌、腸内細菌の相対存在比率を検討した結果、臀部の皮膚は、前腕や額と比べて腸内細菌類の存在比率が高く、月齢が低い乳幼児はその傾向が強いことがわかりました(図2)。
*3 額と前腕の菌の採取は、保護者が朝に専用の綿棒を用いてふき取る
ことで行いました。臀部の菌の採取は、前日の入浴から翌朝まで排便をしていない日に同様の方法で行いました。
*4 細菌が持つ16SrRNA遺伝子(16SrDNA)の配列を解読することにより、どの菌が相対的にどれくらい存在するかを調べる方法。
この結果から、臀部は菌量や菌の種類で他の部位と異なる特徴があることが明らかになりました。腸内細菌には消化酵素を持つものが多く肌を刺激する菌も存在することもわかってきています。そこで、臀部における菌の種類と肌の状態について検討を深めました。
皮疹スコアと皮膚上の腸内細菌類の比率との関係性
保護者が自宅にて撮影した生後4~8カ月の乳児36名の肛門周囲部、排尿部、臀部の写真について、専門家が皮疹スコア判定を行いました。また、乳児の臀部の菌叢解析を行い、皮膚常在菌や腸内細菌の相対存在比率を検討しました。
皮疹スコア*5と臀部の皮膚常在菌類や腸内細菌類の相対存在比率の関連性を検討した結果、皮疹スコアと腸内細菌類の比率に有意な正の相関がみられました(図3)。
以上のことから、臀部の肌状態には腸内細菌類と常在菌のバランスが関係している可能性が考えられます。
*5 紅斑と浮腫及び丘疹と膿疱を有症面積と数からそれぞれ7段階で評価し、肛門周囲部・排尿部・臀部の肌の合計を求めました。
まとめ
今回の研究から、乳幼児の臀部は前腕や額といった他の部位よりも菌量が多く、腸内細菌類の比率が高いことが確認されました。さらに乳幼児の臀部における皮疹の状態は皮膚菌叢中の腸内細菌比率と関連があることを見いだしました。
皮膚上で腸内細菌が増えにくい環境を整えることは、乳幼児の肌をより清潔に保つ商品開発の一助になると考えており、これからも乳幼児のすこやかな成長に貢献するものづくりを進めていきます。
(馬場先生からのコメント)
さまざまな分野で話題になっている人の皮膚表面や腸の中の常在菌に着目した研究です。この研究では、乳幼児の前腕、額、臀部の皮膚上の菌と皮膚の状態を詳しく解析することで、皮膚上の腸内細菌の比率と皮疹とに相関性があることがわかりました。今回の取り組みにより非常に貴重な知見が得られたと思います。
人の皮膚や腸には多くの常在菌がいて、その菌の種類や量のバランスが健康にとってとても大切であり、さまざまな疾患とも関連することがわかってきています。乳幼児の皮膚の部位別の菌叢と皮疹の関係に着目した本研究をさらに深めていただくことで、乳幼児期からの皮膚の健康、さらには将来の皮膚や疾病予防にも貢献できるのではないかと大いに期待しています。
https://prtimes.jp/a/?f=d70897-327-533a7190c8f4e65e6fc7e8e77f2a1ca1.pdf
■ニュースリリースURL
https://www.kao.com/jp/newsroom/news/release/2023/20230911-001/
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