難治性のユーイング肉腫に強力な抗腫瘍効果のあるiPS細胞由来ネオアンチゲン特異的キラーT細胞の作製に成功

~ 希少がんに対する有望な免疫細胞療法開発へ一歩 ~

順天堂大学大学院医学研究科血液内科学の安藤美樹 准教授、日本学術振興会特別研究員(RPD)の石井翠 (整形外科学非常勤助教)と東京大学医科学研究所幹細胞治療部門の中内啓光 特任教授らの共同研究グループは、小児から若年者の骨や軟部組織に多く発生する悪性腫瘍のユーイング肉腫に対して強力な抗腫瘍効果をもつ、iPS細胞由来のネオアンチゲン(注1)特異的キラーT細胞(注2)の作製に成功しました。そして、このiPS細胞由来のキラーT細胞が、末梢血由来のキラーT細胞と比較して、ユーイング肉腫の増殖を生体内で強力に抑制し、生存期間を延長させる効果があることをマウスモデルで確認しました。この成果により、転移期の標準治療が確立されていないユーイング肉腫に対し、iPS細胞由来の免疫細胞を用いた新規治療法の開発の可能性が大きく広がりました。本研究は米国癌学会雑誌であるCancer Immunology Researchに2021年8月12日にオンラインで先行公開、10月号に本掲載予定です。
本研究成果のポイント
  • 腫瘍細胞にしか存在しない抗原を認識して攻撃するiPS細胞由来ネオアンチゲン特異的キラーT細胞を無限に供給できる技術開発に成功した。
  • iPS細胞由来ネオアンチゲン特異的キラーT細胞はユーイング肉腫の増殖を強力に抑制しマウスの生存期間を有意に延長した。
  • 難治性希少がんの一種であるユーイング肉腫の新たな治療法としての有用性を確認した。

背景
ユーイング肉腫は小児から若年者に多く発症する難治性の希少がんの一種で、骨原性悪性腫瘍の中で骨肉腫に次いで2番目に多い腫瘍です。ユーイング肉腫のほとんどは、11番染色体と22番染色体の相互転座によって引き起こされる融合遺伝子が原因で発症し、その中で最もよく見られる融合遺伝子がEWS/FLI1 type1です。四肢などの原発巣に限局している場合は手術で取り除き、化学療法を併せて行うことで比較的良好な予後が得られますが、体幹や骨盤などの手術で取り除くことが難しい部位に発生している場合や転移した場合の標準治療は確立されておらず、非常に予後不良です。そのため、新規治療法の開発が望まれていました。研究グループは、2013年に末梢血由来キラーT細胞のiPS細胞から機能的に若返ったウイルス抗原特異的キラーT細胞を作製することに成功し、難治性腫瘍に対する新規治療開発を目指して研究を続けてきました。本研究ではこの手法を応用し、融合遺伝子EWS/FLI1 type1の融合部分を標的にすることで、腫瘍細胞にしか存在しない抗原を認識して攻撃するiPS細胞由来若返りネオアンチゲン特異的キラーT細胞の作成を試み、このキラーT細胞の新規治療としての有用性を検証しました。

内容
本研究では、まず健常人ドナーの末梢血より、ユーイング肉腫ネオアンチゲン特異的キラーT細胞の作製を試みました。ユーイング肉腫の患者の60%で見つかる融合遺伝子である、EWS/FLI1 type1が産生するタンパク(ネオアンチゲン)に対するキラーT細胞がわずかながら存在することを確認し、ユーイング肉腫を特異的に殺すキラーT細胞を作製しました。次に、このネオアンチゲン特異的キラーT細胞からiPS細胞の作製を試みました。センダイウイルスベクターを用いて山中4因子(注3)などの初期化因子を遺伝子導入することでキラーT細胞からiPS細胞の作製に成功しました。作製したiPS細胞から再びキラーT細胞へと分化誘導して、若返りキラーT細胞を作製しました。このiPS細胞由来若返りネオアンチゲン特異的キラーT細胞(注4)は、ユーイング肉腫細胞株に対し強力な細胞傷害活性を示しました。 【図1】

次に、iPS細胞由来ネオアンチゲン特異的キラーT細胞が生体内でどれぐらいの抗腫瘍効果を発揮するかを検証しました。免疫不全マウスにユーイング肉腫細胞株を腹腔内注射し、4日後に「末梢血由来ネオアンチゲン特異的キラーT細胞」もしくは「iPS細胞由来ネオアンチゲン特異的キラーT細胞」を注射しました。その結果、3週間後の腫瘍量の測定では「iPS細胞由来ネオアンチゲン特異的キラーT細胞」で治療したマウスグループで有意な腫瘍抑制効果を認めました。さらに、より長期における生存率の比較においても、「iPS細胞由来ネオアンチゲン特異的キラーT細胞」は「末梢血由来ネオアンチゲン特異的キラーT細胞」に比較して有意な生存期間延長効果を認めました。【図2】

以上の結果より、「iPS細胞由来ネオアンチゲン特異的キラーT細胞」は試験管内だけでなく、マウス生体内でもユーイング肉腫に抗腫瘍効果を持つことがわかりました。つまり、末梢血由来のネオアンチゲン特異的キラーT細胞からiPS細胞を作製し、そのiPS細胞から作製した増殖力の強い元気なネオアンチゲン特異的キラーT細胞をユーイング肉腫に対する免疫細胞療法として用いることで、標準治療が確立されていない難治性希少がんであるユーイング肉腫の新たな治療の選択肢となる可能性を示すことができました。

今後の展開
今回の研究により、健常人ドナーから誘導した僅かなネオアンチゲン特異的キラーT細胞より作製したiPS細胞から、ユーイング肉腫を標的とした若返りネオアンチゲン特異的キラーT細胞を無限に作製することに成功し、生体内での抗腫瘍効果を確認できました。このiPS細胞由来ネオアンチゲン特異的キラーT細胞を用いることで、転移のある症例や手術で取り除くことが難しい難治性ユーイング肉腫の有力な新規治療法となる可能性があります。健常人ドナーから作製したiPS細胞由来ネオアンチゲン特異的キラーT細胞であることから、実際に患者さんへの投与には免疫拒絶が起きないようにドナーと患者のHLA (注5)遺伝子型を一致させる必要があります。今後は免疫拒絶を回避することや、今回得られたT細胞受容体の遺伝子配列を患者T細胞に導入するなど、より多くの患者さんに適用できる治療開発に発展させるべく準備を進めていく予定です。
 


【図1】 本研究が提唱するユーイング肉腫に対するネオアンチゲン特異的キラーT細胞の概念図
ユーイング肉腫の原因遺伝子である融合遺伝子EWS/FLI1 type1の融合部分のアミノ酸配列(ネオアンチゲン)を標的にすることで、腫瘍細胞にしか存在しない抗原を認識して攻撃するネオアンチゲン特異的キラーT細胞を作製し、iPS細胞にリプログラミング、さらに再分化誘導することで同じ抗原特異性を保ちながら、より強い増殖能を持ち、より強い殺傷能力のある若返りネオアンチゲン特異的キラーT細胞を作製した。
 


【図2】 末梢血由来キラーT細胞とiPS細胞由来キラーT細胞との比較
(左)初回治療3週間後の腫瘍量:「iPS細胞由来ネオアンチゲン特異的キラーT細胞」は初回治療3週間後にユーイング肉腫細胞株に対する有意な腫瘍抑制効果を示した。
(右)マウス生存率:「末梢血由来ネオアンチゲン特異的キラーT細胞」は生存期間延長効果を認めなかった。一方で機能的に若返った「iPS細胞由来ネオアンチゲン特異的キラーT細胞」は明らかな生存期間延長効果を示した。

用語解説

(注1)ネオアンチゲン
がん細胞の遺伝子変異に由来する腫瘍特異的抗原。ネオアンチゲンを発現しているがん細胞は免疫系から「非自己」と認識され、強い免疫反応を引き起こす。ネオアンチゲン特異的キラーT細胞はネオアンチゲンを発現している腫瘍のみを特異的に攻撃し、遺伝子変異が無くネオアンチゲンが存在しない正常細胞を誤って攻撃することはない。患者においては多くの場合、免疫系が疲弊していて腫瘍細胞を効率よく殺すことができなくなっている。

(注2)キラーT細胞 (抗原特異的細胞傷害性T細胞)
免疫細胞であるTリンパ球の中でも、ウイルス抗原や腫瘍抗原を認識し、異常細胞を攻撃するリンパ球。患者のウイルス特異的細胞傷害性T細胞を体外で増幅し、再び患者体内に戻す免疫T細胞療法は、重症ウイルス感染症やウイルス関連腫瘍に有効である。

(注3)山中4因子
京都大学の山中教授らが報告した4つの遺伝子(Oct3/4, Sox2, Klf4, c-Myc)。山中教授らはこれらの遺伝子を初期化因子として強制発現させることで線維芽細胞からiPS細胞を誘導できることを2006年に報告した。

(注4)iPS細胞由来ネオアンチゲン特異的キラーT細胞
iPS細胞から作製したユーイング肉腫の原因である融合遺伝子EWS/FLI1 type1に特異的に反応するキラーT細胞。 iPS細胞技術は細胞の若返り法の一つと言える。この手法を利用して原因遺伝子である融合遺伝子EWS/FLI1 type1によって発生したユーング肉腫に対する末梢血中のネオアンチゲン特異性をもつ免疫キラーT細胞からiPS細胞を作製し、再びT細胞に分化させることにより、腫瘍を攻撃する若いキラーT細胞を無限に供給することが可能になる。

(注5)HLA (Human Leukocyte Antigen)
ヒト白血球抗原。白血球にはABO血液型よりも複雑なヒト白血球抗原 (HLA:Human Leukocyte Antigen)と言われる型があり、造血幹細胞移植や免疫細胞療法の際の免疫反応に重要な役割を果たす。

原著論文
本研究は米国癌学会雑誌であるCancer Immunology Research誌に2021年8月12日オンラインで先行公開されました。
論文タイトル:“ iPSC-derived neoantigen-specific cytotoxic T lymphocyte therapy for Ewing sarcoma”
論文タイトル(日本語訳):「ユーイング肉腫に対するiPS細胞由来ネオアンチゲン特異的細胞傷害性T細胞療法」
著者: Midori Ishii1,2, Jun Ando1,3, Satoshi Yamazaki4,5, Tokuko Toyota1, Kazuo Ohara1, Yoshiki Furukawa1, Yoshiyuki Suehara2, Mahito Nakanishi6, Kazutaka Nakashima7, Koichi Ohshima7, Hiromitsu Nakauchi8,9*, Miki Ando1,8 *
著者(日本語表記):石井翠1,2、安藤純1,3、山崎聡4,5、豊田釈子1 、小原和男1 、古川芳樹1 、末原義之2、
中西真人6、中嶋一貴7、大島孝一7、中内啓光8,9*、安藤美樹1,8*
所属:1順天堂大学医学部血液学講座、2順天堂大学医学部整形外科・運動器医学講座、3順天堂大学細胞療法・輸血学講座、4東京大学医科学研究所幹細胞治療研究センター幹細胞生物学分野、5筑波大学統合医科学研究部門幹細胞治療分野、6ときわバイオ株式会社、7久留米大学医学部病理学講座、8東京大学医科学研究所幹細胞治療部門、9スタンフォード大学医学部幹細胞生物学・再生医療研究所

本研究は日本学術振興会特別研究員RPD採択課題19J40304 、および JSPS科研費JP19K07781の助成を受け実施されました。また、本研究に協力頂きました健常人ドナーさまのご厚意に深謝いたします。
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