世界初、マイクロバブルの力で流路内に数ミリメートルの流れを生成する技術を開発
部ポンプを不要とする次世代冷却システムの開発に寄与し、カーボンニュートラルの実現に貢献

三菱電機株式会社は、国立大学法人京都大学(以下、京都大学)大学院工学研究科の鈴木・名村グループとの共同研究により、直径10µmのマイクロバブルを駆動源として、流路内に数ミリメートルの流れを生成する技術を世界で初めて(※1)開発しました。本技術により、電子機器の水冷に用いる外部ポンプの消費電力削減が期待できるため、カーボンニュートラルの実現に貢献します。なお、本研究は、2019年から継続している京都大学との組織連携活動(※2)の一環として実施しました。
電子デバイスの高出力化や、生成AIの急速な普及に伴うAIサーバーの演算負荷増大などにより、電子機器の熱対策の重要性が高まっています。発熱量が多く、安定した冷却が必要となる電子機器の冷却には水冷方式(※3)が用いられますが、近年では、微細流路に液体を循環させることで、従来の冷却器よりも高効率化を実現したマイクロチャネル冷却器の需要が拡大しています。また、マイクロチャネル冷却器のさらなる効率化に向け、流路幅を100µm以下に微細化する動きも進んでいますが、微細流路に液体を循環させるには強力な外部ポンプが必要となるため、消費電力の増加が課題となっています。
今回、当社は、京都大学が保有する「局所加熱によって発生させたマイクロバブルの振動とバブル界面の温度差に起因するマランゴニ力(※4)を利用して流れを生み出す技術(※5)」に着目し、これを微細流路に適用する研究に取り組みました。その結果、断面の寸法が100µm×400µm、一辺3mmの正方形の流路内に、外部ポンプを使うことなく流速100µm/sの流れを生成することに世界で初めて(※1)成功しました。さらに、バブルの配置と流路形状を最適化することで、流速を440µm/sまで向上させました。今後、さらに開発を進めることで、省エネかつ高性能な次世代冷却システムの開発に寄与し、カーボンニュートラルの実現に貢献することを目指します。
なお、本研究成果は、米国物理学協会発行の応用物理学に関する国際的な学術誌「Applied Physics Letters(※6)」に採択されました。
■開発の特長
直径10µmのマイクロバブルを駆動源に、流路内に数ミリメートルの流れを生成
・局所加熱によって流路内に生成したマイクロバブルの振動およびバブル界面に生じるマランゴニ力のみで、断面の寸法が100µm×400µm、一辺3mmの正方形の流路内に一方向の流れを生成することに世界で初めて(※1)成功。外部ポンプを使用することなく、流速100µm/sを実現
・流路に狭窄構造を設けることで、バブル周辺に生成される渦を制限し、流速を440µm/sまで向上させることにも成功
■役割分担

|
組織名称 |
担当内容 |
|
三菱電機 |
マイクロバブルが生成する流れの冷却デバイスへの応用研究 |
|
京都大学 |
マイクロバブルの生成およびその周りの流れ制御に関する基礎研究 |
■今後の予定・将来展望
今後は、複数のマイクロバブルを活用して流速を大きく向上させる流体制御技術の開発に加え、壁面に生成したマイクロバブルが高速な流れを引き起こす特性を利用して、従来のマイクロチャネル冷却器に比べて一桁以上高い熱伝達率を達成する高効率な伝熱面の開発や、電子機器の排熱を利用してマイクロバブルを生成する技術の開発を推進します。これらの技術を融合することで、省エネかつ高性能な次世代の新冷却システムの開発に寄与し、カーボンニュートラルの実現に貢献することを目指します。
■特長の詳細
直径10μmのマイクロバブルを駆動源に数ミリメートルの流れを生成
京都大学が保有する「局所加熱によって発生させたマイクロバブルの振動とバブル界面の温度差に起因するマランゴニ力を利用して流れを生み出す技術」では、マイクロバブル周りの温度分布を制御することで、液体の流れの方向を流路壁と平行方向に制御することが可能です。これまでも、バブル周辺の数百マイクロメートルの流れについては研究されてきましたが、今回、当社は本技術を数ミリメートルの流路へ適用する研究に取り組みました。
光を吸収して熱に変換する特性を持つ厚さ0.1µmのFeSi2薄膜(※7)とレーザー光を用いて、この薄膜上にバブルを生成するためのレーザー照射点(プライマリーレーザースポット)と、温度分布を制御するためのレーザー照射点(サブレーザースポット)を設定し、エタノール水溶液の流路内部に、内部が高温蒸気で満たされた直径10µmのマイクロバブルを生成しました。このバブルによって生じた駆動力のみで、従来のEHDポンプ(※8)を用いた場合と同等の流速100µm/sを実現し、断面の寸法が100µm×400µm、一辺3mmの正方形の流路内で流れを循環させることで、数ミリメートルの流れを生成することに世界で初めて(※1)成功しました。
さらに、流路内部に断面積が局所的に小さくなる狭窄構造を設け、バブル周辺に生成される渦を制限することで、バブルによって生成された流れの大部分を流路の進行方向へ流すことが可能となり、流速を約440µm/sまで向上させることに成功しました。


■三菱電機グループについて
私たち三菱電機グループは、たゆまぬ技術革新と限りない創造力により、活力とゆとりある社会の実現に貢献します。社会・環境を豊かにしながら事業を発展させる「トレード・オン」の活動を加速させ、サステナビリティを実現します。また、デジタル基盤「Serendie®」を活用し、お客様から得られたデータをデジタル空間に集約・分析するとともに、グループ内が強くつながり知恵を出し合うことで、新たな価値を生み出し社会課題の解決に貢献する「循環型 デジタル・エンジニアリング」を推進しています。1921年の創業以来、100年を超える歴史を有し、社会システム、エネルギーシステム、防衛・宇宙システム、FAシステム、自動車機器、ビルシステム、空調・家電、デジタルイノベーション、半導体・デバイスといった事業を展開しています。世界に200以上のグループ会社と約15万人の従業員を擁し、2024年度の連結売上高は5 兆5,217 億円でした。詳細は、www.MitsubishiElectric.co.jpをご覧ください。
※1 2025年12月4日現在、当社調べ
※2 2019年3月25日広報発表 https://www.MitsubishiElectric.co.jp/ja/pr/pdf/2019/0325.pdf
※3 電子機器の用途・発熱量・設置環境によって、他に空冷、液浸などの方式が用いられる
※4 液体界面の物質移動を駆動する流体力
※5 https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2019-03-29-2
※6 https://pubs.aip.org/aip/apl
※7 鉄とシリコンからなる薄膜。耐熱性が高く光を吸収して熱に変換する特性を持つ
※8 Electro Hydro Dynamicポンプ:電極への電圧印加により発生するクーロン力を駆動源とする
ポンプ。機械的可動部を持たないため、小型化が可能でマイクロ流路などでの液体輸送に
用いられるが、高電圧電源を必要とする
<お客様からのお問い合わせ先>
三菱電機株式会社 先端技術総合研究所
〒661-8661 兵庫県尼崎市塚口本町八丁目1番1号
FAX 06-6497-7285
https://www.MitsubishiElectric.co.jp/corporate/randd/inquiry/index_at.html
このプレスリリースには、メディア関係者向けの情報があります
メディアユーザー登録を行うと、企業担当者の連絡先や、イベント・記者会見の情報など様々な特記情報を閲覧できます。※内容はプレスリリースにより異なります。
すべての画像
