少量の学習データで機器の劣化を高精度に推定する物理モデル組み込みAIを開発

製造現場における保守コストの削減、生産性・品質の維持に貢献

三菱電機株式会社

従来の劣化推定と物理モデル組み込みAIの比較

 三菱電機株式会社は、少量の学習データで機器の劣化を高精度に推定する物理モデル組み込みAI(※1)を開発しました。本技術は当社AI技術「Maisart®(マイサート)(※2)」のうち、物理空間での信頼性・安全性を重視した「Neuro-Physical AI®(※3)」の開発成果で、当社が機器開発などを通じてこれまで培ってきたノウハウを活かして、製造現場におけるアセット運用の最適化に貢献します。

 近年、日本の製造業においては、生産設備の高度化が進む一方で、少子高齢化などを背景に、設備保全を担う熟練技術者の数が減少しています。劣化した機器を使い続けた場合、設備自体の故障や製品不具合を引き起こす恐れがあるため、事前に劣化を推定し、適切な対応につなげる「予防保全」のニーズが高まっています。従来の予防保全は、機器の挙動を数式やシミュレーションで再現し、その結果を基に劣化を推定する方法が一般的でしたが、物理知識を持つ専門家が劣化判定の仕組みを一から設計する必要があるため、多大な時間と労力を要する点が大きな課題でした。この課題を解決する手段として、事前に運転データなどを用いて学習したAIを劣化推定に活用する動きが進んでいます。しかし、従来の技術で、運転パターンや個体差、設置環境などの条件の組み合わせを考慮した網羅的な学習を行うためには、膨大なデータが必要となる上、条件が変わるたびに再学習を要するため、実用化には依然として課題が残っています。

 今回、当社と米国の現地法人であるMitsubishi Electric Research Laboratories(米国 マサチューセッツ州)は、機器の物理モデルの理論式を用いて、あらかじめ対象機器の挙動や特性について学習したAIを構築し、個体差や環境条件などの少量の学習データのみで機器の劣化を高精度に推定する技術を開発しました。AIに物理モデルを組み込む場合、従来は物理モデルと実測データのパラメータの重みづけ(※4)が固定的で、対象機器や使用環境に応じた最適化が難しいという課題がありましたが、本技術ではAIによるパラメータの動的調整を可能とし、推定の高精度化と利便性向上の両立を実現しました。

 本技術により、部品交換の低減、機器重大故障の抑制などを実現し、製造現場における設備保守コストの削減、生産性・品質の維持に貢献します。

■開発の特長

1.AIに物理モデルを組み込むことで、少量の学習データで機器の劣化を推定

・機器の設計仕様を反映した物理モデル(逆動力学方程式(※5))の理論式を用いて、あらかじめ対象機器の挙動や特性を学習したAIに、設計仕様に反映されない個体差や環境条件を実測データから追加学習させるだけで、個体ごとの変動を推定する技術を開発

・追加学習は物理モデルの補正のみを目的とするため、少量の実測データで対応可能。AIを用いた劣化推定の効率化を実現

・当社製産業用ロボットを用いた実証(※6)では、従来手法(※7)に比べて、学習用データを約90%削減しながら、推定誤差を維持

2.学習時と異なる運転パターンや環境条件にも物理モデルで対応し、劣化推定の高精度化を実現

・学習データに含まれない変動が発生した場合でも、物理モデルを用いて変動時の機器の特性を推定することができるため、劣化推定の高精度化を実現

・当社製産業用ロボットを用いた実証(※6)では、ROC曲線(※8)を用いた評価を行い、従来手法(※7)は曲線下面積が0.68~0.89だったのに対し、本技術はほぼ全件正しく分類したことを示す0.98~1.00を達成。従来手法よりも、高精度に劣化推定が出来ることを確認

物理モデル組み込みAIによる劣化推定の特長
産業用ロボット実証での学習データ削減効果

■今後の予定・将来展望

 産業機器やロボットなどの実機での実証評価に取り組み、2027年度以降の製品適用に向けた検討を進めていきます。

■商標関連

■特許関連

発明の名称

METHOD AND SYSTEM FOR MODELLING AND CONTROL PARTIALLY MEASURABLE SYSTEMS

特許番号

US 12,346,115 B2(登録日:令和7年7月1日)

■三菱電機グループについて

 私たち三菱電機グループは、たゆまぬ技術革新と限りない創造力により、活力とゆとりある社会の実現に貢献します。社会・環境を豊かにしながら事業を発展させる「トレード・オン」の活動を加速させ、サステナビリティを実現します。また、デジタル基盤「Serendie®」を活用し、お客様から得られたデータをデジタル空間に集約・分析するとともに、グループ内が強くつながり知恵を出し合うことで、新たな価値を生み出し社会課題の解決に貢献する「循環型 デジタル・エンジニアリング」を推進しています。1921年の創業以来、100年を超える歴史を有し、社会システム、エネルギーシステム、防衛・宇宙システム、FAシステム、自動車機器、ビルシステム、空調・家電、デジタルイノベーション、半導体・デバイスといった事業を展開しています。世界に200以上のグループ会社と約15万人の従業員を擁し、2024年度の連結売上高は5 兆5,217 億円でした。詳細は、www.MitsubishiElectric.co.jpをご覧ください。

※1 機械の挙動や特性を物理法則や数式を使って再現した理論上の仕組みである「物理モデル」を

    基盤とし、その知識や理論をAIシステムに組み込むことで、より高精度かつ物理的整合性のある

    予測・制御を実現するアプローチ

※2 Mitsubishi Electric’s AI creates the State-of-the-ART in 

    technologyの略。
    全ての機器をより賢くすることを目指した当社のAI技術

    ブランド。

    https://www.MitsubishiElectric.co.jp/corporate/randd/maisart/index.html

※3 当社が長年培ってきた事業領域や現場での知見・ノウハウと物理法則を融合し、機器やシステム

    全体をより賢くする、安全で信頼性の高い当社独自のフィジカルAI

※4 物理モデルと実測データを組み合わせる際に、それぞれの情報をどれくらい重視するかを数値で

    表す重み

※5 動力学モデルを用いて、望む動き(関節の位置・速度・加速度)を実現するために必要な関節

    トルクや外力を計算する方程式で、主に生体力学や機械工学などの分野で使用される

※6 物理モデルとして、関節角度・速度・加速度から関節トルクを推定する「逆動力学モデル」を

    使用

※7 機械学習における統計的手法の1つで、非線形な現象でもモデル化することができる「ガウス過程

    回帰ベース」手法を使用

※8 二値分類モデルの性能評価に用いられるグラフ。判別閾値を変化させたときの性能を視覚的に

    示し、曲線下面積が大きいほど分類性能が高いと評価する

<お客様からのお問い合わせ先>

三菱電機株式会社 情報技術総合研究所

〒247-8501 神奈川県鎌倉市大船五丁目1番1号

https://www.MitsubishiElectric.co.jp/corporate/randd/inquiry/index_it.html

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会社概要

三菱電機株式会社

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URL
https://www.MitsubishiElectric.co.jp/
業種
製造業
本社所在地
東京都千代田区丸の内2-7-3 東京ビル
電話番号
03-3218-2111
代表者名
漆間 啓
上場
東証プライム
資本金
1758億2077万円
設立
1921年01月