受賞の言葉を公開!第36回(2026年度)Bunkamuraドゥマゴ文学賞
荒俣宏氏の選考により、木下直之氏『ゾウに乗る』に決定した第36回Bunkamuraドゥマゴ文学賞。著者による受賞の言葉を公開しました。
1990年の創設以来、Bunkamuraドゥマゴ文学賞は、毎年かわる「ひとりの選考委員」によって受賞作を決定してまいりました。第36回となる2026年度の選考を務めたのは荒俣宏氏です。
この度、受賞作『ゾウに乗る』の著者・木下直之氏からの受賞の言葉を公開しました。ぜひご高覧ください。

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名称 |
第36回Bunkamuraドゥマゴ文学賞 |
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受賞作 |
『ゾウに乗る』(2026年7月 東京大学出版会刊) |
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受賞者 |
木下直之 |
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選考委員 |
荒俣宏 |
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賞 |
正賞:賞状 副賞:100万円 |
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主催 |
株式会社東急文化村 |
【受賞作内容】
戦うゾウ、芸するゾウ、お祭りのゾウ……日本人にとってゾウはどんな存在なのか。戦後すぐ、デパートの屋上で暮らしたアジアゾウのたかちゃんを案内嬢に、「乗る」「洗う」「曳く」「食べる」など9つのテーマから探る。

【受賞者プロフィール】
木下直之(きのした・なおゆき/Naoyuki Kinoshita)
1954年、静岡県浜松市生まれ。東京藝術大学大学院中退。兵庫県立近代美術館学芸員、東京大学総合研究博物館助教授を経て、同大大学院人文社会系研究科教授。現在、東京大学名誉教授、静岡県立美術館館長。『美術という見世物』でサントリー学芸賞、『わたしの城下町』で芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。他の著書に『世の途中から隠されていること』、『股間若衆』、『銅像時代』、『せいきの大問題』、『動物園巡礼』、『木下直之を全ぶ集めた』他。紫綬褒章受章、中日文化賞受賞。

【選考委員プロフィール】
荒俣宏(あらまた・ひろし/Hiroshi Aramata)
1947年東京都生まれ。博物学者、小説家、翻訳家、妖怪研究家、タレント。慶應義塾大学法学部卒業。大学卒業後は日魯漁業に入社し、コンピュータ・プログラマーとして働きながら、団精二のペンネームで英米の怪奇幻想文学の翻訳・評論活動を始める。80年代に入り『月刊小説王』(角川書店、現KADOKAWA)で連載した、オカルトの叡智を結集した初の小説『帝都物語』が350万部を超え、映画化もされる大ベストセラーとなった。『世界大博物図鑑』(平凡社)、『荒俣宏コレクション』(集英社)など博物学、図像学関係の作品を含め、著書、共著、訳書多数。
【受賞の言葉】ゾウが背中に誰を乗せてきたかについて少しだけ詳しくなる本/受賞者 木下直之
これほど権威ある、いやない(?)、いやどっちなんだ(!?)、選者荒俣宏さんによれば、本家パリのドゥマゴ賞はゴンクール賞の権威に反発して生まれたという。それにあやかるBunkamuraドゥマゴ文学賞を頂戴するなんて、これほど光栄なことはない。
たまたま、拙著の最後にゴンクール兄弟が登場するので、最初にその話を。普仏戦争下、パリが食糧難に苦しんだ1870年暮れの肉屋の様子を日記に書き留めている。なんと店先には、殺された動物園のゾウの肉が並んでいたのだ。売り込む肉屋の親父と品定めをする主婦との丁々発止。それから七十三年後に、やはり動物園のゾウが殺されたことを絵本『かわいそうなぞう』で理解している日本人とは、人間と動物の関係がいかに違うかを教えてくれるエピソードだ。そして、日本でもゾウが食べられたことは誰も覚えていない。
受賞の言葉を書くべき場所にいきなり本書の一端を披露してしまったが、書き始めた時点で、ゾウを食べる話を知っていたわけではない。たまたま、1947年2月に封切られた松竹映画『象を喰つた連中』のポスターを目にしたことで、知らない世界が開けた。一歩足を踏み入れると脇道があり、そちらに進めばまた脇道があり、さらに脇道という具合に、自分でも「何をやっている人なのか、ほとんど分からない」(荒俣評)ことになる。
そうやって人生の大半を費やしてきた。これまでの本もそうだが、今度の『ゾウに乗る』も本屋の店員泣かせ、さらにいえば出版社の営業泣かせの本だろう。本屋のどこに置いたら良いかわからないからだ。発売日に本屋に出かけたが、やっぱり見つけられなかった。検索機で調べると、「商品の在処については、店員までお気軽にお問い合わせください」と出た。面白くなって、いろいろな本屋で試みると、「民俗誌」、「動物民俗」、「生活文化」などいろいろな在処を教えてくれる。
いつの間にか、どこにも分類できないものばかり追いかけてきた。新種とまではいかないが、珍種・珍図発見の喜びを知った。なぜ「珍」なのか。それは何ものかの陰、あるいは影に隠れているのだから、何ものかを動かすか、光源をずらせばよい。つまり境界線を越えるのではなく揺さぶり、動かす。
こうなった原因ははっきりしている。平凡社の『世界大博物図鑑』哺乳類の巻に、雪男・人魚・河童・天狗・半人半馬らが載っていたからだ。これが脳みそを直撃、爾来、架空と実在の境界線は消滅し、虚実ないまぜに考える頭へと変化した。三十六年前(今が七十二歳だから人生半ば)、『日本美術の19世紀』という展覧会の企画に対して倫雅美術奨励賞を頂き、その賞金で購入したのがこの図鑑である。それを書棚の一番下に置いて(重いから)、すぐ上の段に「何を書いている本なのか、ほとんど分からない」(木下評)拙著を並べてきた。したがって、図鑑の編者にして著者たる荒俣宏さんからBunkamuraドゥマゴ文学賞に選んでいただくなんて、これに勝る喜びはない。
ところで、この本をいくら読んでも、ゾウを知ることはできない。しいていえば、ゾウが背中に誰を乗せてきたのかについて少しだけ詳しくなれる。そんな世界へ導いてくれたのがアジアゾウの高子だった。日本橋高島屋の屋上で暮らした四年間に光を当てる展覧会の監修を頼まれ、この本が生まれた。高子の日々は子どもたちを乗せるためにあったから、タイトルは『ゾウに乗る』だと瞬時に決まった。それから私に訪れたゾウに乗る日々は楽しかったなあ。
荒俣氏による選評は、下記よりご覧ください。
https://www.bunkamura.co.jp/bungaku/winners/36.html

【Bunkamuraドゥマゴ文学賞とは】
パリの「ドゥマゴ賞」のユニークな精神を受け継ぎ、1990年に創設。権威主義に陥らず、既成の概念にとらわれることなく、先進性と独創性のある、新しい文学の可能性を探りたいと考えています。受賞作は、毎年交代する「ひとりの選考委員」によって選ばれ、選考委員の任期は1年です。
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