全国初、山梨県が 「やまなし火山防災イノベーションピッチコンテスト」の報告会開催 富士山火山防災で産業界と研究者の「共創」からの新たなビジネス創出を支援
採択5社が最先端の観測・人流計測・情報共有・災害体験・防災研修の優れたアイデア・技術を報告

山梨県(知事:長崎幸太郎)は、民間企業の火山防災に特化した取り組みを評価し支援する日本初となるビジネスコンテスト『やまなし火山防災イノベーションピッチコンテスト』を昨年7月に実施。採択された企業5社が取組状況や成果を発表する報告会を令和7年3月10日、新東京ビル(東京都千代田区)で開催しました。オンライン参加の約30人を含め約70人の関係企業、自治体担当者らが参加しました。噴火時に火口の位置を推定する新たな無人観測装置や、登山者の数や移動状況を計測するシステムの開発など、最先端のアイデアや技術を活用しビジネス化を目指す取り組みが発表されました。
このコンテストは、富士山火山防災に関する諸課題を民間企業との共創によって解決することを目指し、県が採択企業に対し、県富士山科学研究所(富士吉田市、所長=藤井敏嗣・東京大学名誉教授)の持つアセット(最新技術と蓄積された知識と経験・活動フィールド)と、最大100万円の活動資金を提供する事業です。これによって火山防災ビジネスを創出・活性化し、火山を学ぶ人たちの活躍できるフィールドを拡充することを目標としています。報告会では、火山防災の最新動向の発表や火山防災ビジネスの展開についての意見交換も行われました。

■やまなし火山防災イノベーションピッチコンテストとは
令和5年度の活動火山対策特別措置法の改正に伴い、国において火山防災の一元的な推進が開始されました。山梨県はこれを産業創出の機会のひとつと捉え、富士山火山防災に関する諸課題を民間企業との共創によって解決する取り組みを始めました。火山活動の観測、火山災害における住民や登山者への情報伝達、地域における火山防災マインドの醸成など、様々な課題解決にビジネスとして取り組みたい事業者に対して1社あたり最大100万円の補助金と、期間中の取組みについて県富士山科学研究所がサポートを提供します。
昨年5月8日の応募説明会には、大企業からベンチャーまで130名以上が参加。20社からの応募があり、テーマの完成度やアイデアの実現性などを踏まえ、書類審査、コンテストを経て最終的に5社が採択されました。
関連サイト https://www.mfri.pref.yamanashi.jp/pitch_contest.html
■採択企業5社が実証成果を報告
① 株式会社クローネ 「火山観察用超高感度微気圧観測システムの開発」
(本社:東京都葛飾区、代表取締役:藤原 透、URL: https://www.krone.co.jp/)
いつ、どこで噴火するか分からない富士山。僅かな気圧の変化から噴火口の位置を推定する微気圧計について、従来、観測データの回収のために現地に赴く必要がありました。これを省力化するため、サーバと通信するための小型接続装置などを装備したパソコンと微気圧計を接続することでリモートでのデータ把握を可能とするシステムを開発。実証では富士河口湖町内の小中学校に2キロ間隔で設置し、観測データの取得ができたことが報告されました。
今後は、富士山噴火をより正確に捉えるため観測点の増加を目指し、携帯電話基地局の電波が届かない箇所でも観測可能となるよう、衛星通信を利用したシステムの構築などにも取り組むとの抱負が述べられました。


② 株式会社FLARENETWORKS 「人流計測システムの開発」
(本社:東京都文京区、代表取締役:林 新、URL:http://flare-networks.com/)
富士山噴火時に避難を促すためには、人の居場所を把握することが重要です。災害時には、携帯電話の回線がつながらなかったり、アクセス集中のために不安定な環境となったりしますが、このような中でもスマートフォンの数を計測することにより人の位置を把握するシステムを開発。富士山六合目や南アルプス夜叉神峠などで計測を行い、AIアルゴリズムにより細かく精密にデータを生成しリアルタイムで配信できることが確認できたことなどが報告されました。
今後は、更に精度を上げるとともに、登山通行人カウントのための最適化も行い、富士山火山防災などへ貢献していきたいとの抱負が語られました。


③ 一般財団法人アジア防災センター 「SNSとGISを活用した火山防災ツールの開発」
(本社:神戸市、理事長:小川 雄二郎、URL:https://www.adrc.asia/top_j.php)
富士山噴火の危険性が高まったときには、適切な避難の呼びかけが必要です。多くの人が持ち歩いている携帯電話を防災情報共有ツールにするため、LINEアプリで情報発信や情報収集を可能とするメニューを開発。LINEを使っていれば新たなアプリのインストールが不要なほか、外国人登山者が多い富士山に対応するため、日英併記で情報を発信します。令和6年11月に警察や消防、地域住民など約200人が参加した訓練で実証したところ、警察官の70%、留学生の85%が使いやすいと回答。改良に向けた示唆も多く得られたといいます。
今後は、危険地域のリアルタイム通知など、最新技術を逐次取り入れ、携帯電話という個人の情報管理ツールにダイレクトに最新情報を伝え、安全を守る取り組みを続けていきたいとの抱負が語られました。


④ 能美防災株式会社 「火山災害臨場体験VRの制作」
(本社:東京都千代田区、代表取締役:岡村 武士、URL:https://www.nohmi.co.jp/)
火山防災を自分事として捉える人を増やすためには、手軽に火山現象の体験を可能とし、子どもや観光客、登山客の防災意識を醸成していく必要があります。そこで、多様な火山現象と人々や街の混乱の様子をストーリーでリアルに体験できるVR(仮想現実)コンテンツの制作に取り掛かりました。令和6年度は、噴石や溶岩流など火山現象の映像化に取り組み、ショッピングモールで開催されたイベントに出展。VR体験は高い集客力があり、手応えを感じたと報告がありました。
今後は、火山災害に巻き込まれた設定のシナリオを具体化し、本格的に災害を体験できるコンテンツの制作に取り組むほか、小学校や観光施設でも体験できるライト版の制作にも取り組んでいきたいとの抱負が語られました。


⑤ 株式会社竹中工務店 「火山防災研修ツーリズムの開発」
(本社:大阪市、取締役社長:佐々木 正人、URL:https://www.takenaka.co.jp/)
企業の火山噴火への意識が高まる中、コンサルやゼネコンへの相談が増加していますが、火山の専門家の知見が十分に生かし切れていない現状があります。そこで、都内での山梨県富士山科学研究所研究員など専門家を講師に座学の研修を開催したところ、50名以上が参加。有料セミナーとしてもニーズがあることが確認できたことが報告されました。
また、中級編としてフィールドワークや火山灰の清掃体験、机上演習など組み込んだ宿泊型研修を山梨県富士山科学研究所で実施。企業間で意見交換ができたことが役立ったとの感想もあり、今後火山防災を広めるための枠組みをつくり、研修や情報交換会を定期的に開催することで、研修をビジネスとして展開していける可能性を確認できたと実証成果が語られました。


いずれの成果報告においても会場から質疑や意見が交わされ、各プロジェクトへの関心の高さや期待、会場の熱量を感じられる報告会となりました。
■火山防災のこれからを語るトークセッションを実施
5社による成果報告会に続き、産業人材の育成や火山防災産業の活性化方策について、国立研究開発法人防災科学技術研究所(茨城県つくば市)三輪学央氏、能美防災株式会社 佐々木聰文氏、山梨県富士山科学研究所 吉本充宏研究部長ら火山防災に携わる方々が登壇し、有限責任監査法人トーマツ(東京都千代田区)中尾健太氏の進行により、議論を交わしました。
・キーワードは企業とアカデミアの「共創」! ビジネス化には高い専門性が必要
佐々木氏は、VRコンテンツの制作を通じて、火山災害には高い専門性が求められることを実感したといいます。富士山科学研究所の知見が役立ったとして「研究員のフォローがなければコンテンツはつくれなかった」と連携の成果を語りました。

一方、吉本氏は火山防災分野の研究者には理学の専門家が多く、ビジネスの視点が弱いといいます。研究成果をどのようの社会に役立てていくかは模索中であり「企業と絡むことで我々研究者の視野も広がっていく」とアカデミア目線から、共創の重要性を語りました。

・産業としての成長の肝は「人材」 若者の火山防災への興味を育てる
三輪氏は、防災科学技術研究所で取り組む高専防災減災コンテストを紹介。若い人の新しいアイデアを引き出す建設的な助言を心がけているといいます。更には「火山防災へのハードルを下げるためには火山防災の科学的面白さを伝えていく必要がある。学校の果たす役割が大きい」と学齢期からの教育の必要性を述べました。
吉本氏は、「科学の面白さは実際にやってみること。そのためには、学校で活用できる安価な教育ツールが必要」と発言。

佐々木氏も子どもへの防災訴求は同感であり、火山灰や溶岩に触れる機会をつくることで話を聞いてもらえるといい「火山防災では、子どもを入口にして大人を巻き込むストーリーがつくりやすい」と波及効果にも言及しました。

■主催者コメント(山梨県富士山科学研究所 吉本充宏研究部長)
本報告会では、各ピッチコンテスト通過者の発表に合わせ、各企業の伴走支援を担当した当研究所研究員によるコメントを行い、火山防災の技術的な観点の補足や今後の期待を語りました。両者の協働により新たな可能性を産み出すことが明らかになった官民連携報告会となりました。
トークセッションでは、今後の産業の成長の肝は人材であることが示され、子供から始まり家族を通して広く認知を広げることの重要性も再確認できました。
県としては、今回の報告会を皮切りに引き続き、富士山火山防災の課題解決に向けて、民間事業者との火山防災産業の共創や火山防災人材の育成のトップランナーとして取り組みを進め、火山防災対策の一層の強化を図っていきます。
このプレスリリースには、メディア関係者向けの情報があります
メディアユーザー登録を行うと、企業担当者の連絡先や、イベント・記者会見の情報など様々な特記情報を閲覧できます。※内容はプレスリリースにより異なります。
すべての画像