植物の代謝進化の再現に成功 —創薬シーズ開発に期待—

国立大学法人千葉大学

千葉大学、理化学研究所、かずさDNA研究所の植物分子科学の研究チームは、植物の進化の過程で薬用成分を生成するカギと考えられてきた酵素に着目し、この酵素を生み出す遺伝子をモデル植物であるシロイヌナズナに導入したところ、新しい成分が生成されたことを確認しました。これにより、植物が何億年もの時間をかけて進化させてきた代謝の出現過程を、科学的に再現することに成功しました。今回の研究成果は、植物科学の英文専門誌The Plant Journal(プラント・ジャーナル)で発表されました。
  • 研究の背景
 植物は種によって異なる様々な化合物を生産するように進化してきました。これらの化合物の中には、外敵に食べられないようにするための苦みや毒成分、花粉を運ぶ媒介者を引き寄せるような香りや色素など、植物の生存戦略に有利にはたらく化合物が多く、人の体に作用する薬として使えるものも含まれます。その中でもアミノ酸のリジンを原料とするアルカロイド(分子内に窒素原子をもつ化合物)は薬として役に立つ作用を示すものが多く、これまでにアルツハイマー病のサプリメントに利用されているヒューペルジンや、モルヒネ様の鎮痛効果のあるマトリンなどが見つかっています。
 千葉大学等の研究チームによる2016年の調査で、これらのリジンに由来するアルカロイドを生産する植物は特徴的なリジンを脱炭酸する酵素をもつことが明らかになりました。さらに、この酵素は、普遍的な祖先型のオルニチンの代謝酵素が微小変異して生じたことも解明されました。このため、植物が進化する過程において、この酵素がリジン由来のアルカロイドを生成するカギであると考えられてきました。
 
  • 研究手法

 研究チームは、リジンを脱炭酸する酵素の遺伝子をマメ科植物のホソバルピナスからシロイヌナズナに導入し、新しく生成された代謝成分を遺伝子導入前後で比較しました。さらに、それぞれの精密質量値から推定した分子組成式を用いて、天然化合物データベースを検索して化合物の構造を推定し、既存の化合物と照合することによって、新しくシロイヌナズナで生成された代謝成分を同定しました。

ホソバルピナス(a)とシロイヌナズナ(b)ホソバルピナス(a)とシロイヌナズナ(b)

  • 研究の成果​
 シロイヌナズナは、もともとアルカロイドを生産しない植物ですが、研究チームは、アミノ酸代謝酵素の遺伝子を導入することによってアルカロイドが生成されることを確認しました。シロイヌナズナで新たに起こった代謝の経路は次の通りです。シロイヌナズナに導入されたホソバルピナスの酵素により(アミノ酸の)リジンが脱炭酸され、活性化されたカダベリンが生じ、このカダベリンがもともとシロイヌナズナに存在する酵素の働きで代謝され、最終的に、5-アミノペンタナール、5-アミノペンタン酸、 δ-バレロラクタムなどのアルカロイド様代謝物が生成されました。
 
  • 研究者のコメント
 今回の実験を主導した千葉大学大学院薬学研究院の山崎真巳准教授は、「植物の1つの遺伝子を操作することによって代謝の流れを変え、さらに細胞内で生成されたアルカロイドを特定できたのは、大きな前進です。今後は、代謝の能力が異なる植物に同様の遺伝子操作を行うことで、天然には存在しない新しい化合物を作出することが可能になります。化学多様性を拡張していくことは、創薬のシーズ開発に求められる重要なテーマです」と述べています。
 
  • 研究プロジェクトについて
この研究は科学研究費補助金 新学術領域研究#16H06454、 基盤(A)15H02494、SICORP日米共同研究「低炭素社会のためのメタボロミクス」の資金助成を受けて行われました。
 
  • 論文タイトルと著者
•論文タイトル:Metabolic diversification of nitrogen-containing metabolites by expression of a heterologous lysine decarboxylase gene in Arabidopsis

•著者:Yohei Shimizu(1,2), Amit Rai(1), Yuko Okawa(1), Hajime Tomatsu(1), Masaru Sato(3), Kota Kera(1), Hideyuki Suzuki(3), Kazuki Saito(1,2), and Mami Yamazaki(1)

•所属: 1)Graduate School of Pharmaceutical Sciences, Chiba University;  2)RIKEN Center for Sustainable Resource Science; 3)Kazusa DNA Research Institute.

•雑誌名: The Plant Journal, July 31, 2019, doi: 10.1111/tpj.14454
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/tpj.14454
 
  • 過去の関連するプレスリリース
•タイトル:〜薬用植物の進化の謎をひもとく〜  植物アルカロイドの生産性はアミノ酸代謝酵素の    収斂分子進化に起因することを明らかに
•URL: http://www.chiba-u.ac.jp/general/publicity/press/files/2016/20160624_3.pdf
 

このプレスリリースには、メディア関係者向けの情報があります

メディアユーザー登録を行うと、企業担当者の連絡先や、イベント・記者会見の情報など様々な特記情報を閲覧できます。※内容はプレスリリースにより異なります。

すべての画像


ビジネスカテゴリ
医薬・製薬学校・大学
ダウンロード
プレスリリース素材

このプレスリリース内で使われている画像ファイルがダウンロードできます

会社概要

国立大学法人千葉大学

70フォロワー

RSS
URL
https://www.chiba-u.ac.jp/
業種
教育・学習支援業
本社所在地
千葉県千葉市稲毛区弥生町1-33  
電話番号
043-251-1111
代表者名
横手 幸太郎
上場
未上場
資本金
-
設立
2004年04月